#5 現代の人斬りは何を裁くのか?

「ふわぁ~ぁ。おじさんおはよ。」

「おじさんじゃね…もういいやそれで。」


共同生活も3日目になり、少しずつだがすり合わせてルールを決めていったのが功を奏し、何とか上手くいっている。生きてきた歴史も違えば人生の中身も違う。それを如何に受け入れ、分かりあって順応できるかが共同生活の鍵だ。


『分かり合う』というのは意見を一致させることだけではない。相手と自分との違いを知って認めることもまた『分かり合う』事なのだ。


ちなみに林殺しの容疑者、サムライシャドウの足取りはまだ分かっていない。そもそもそれは人間なのか、はたまた異能ミステルなのかそれすらも不明だ。

『シロクロワイド』という異能ミステルが関わる事件だと思われるものを扱っている記事を見てみるが新しい情報はまだ載っていない。



レディと王子山が知恵の鏡を曇らせていていると、朝10時をまわったところで事務所のドアがコンコンと叩かれた音がした。


「えっ…おじさんこれってもしかして。」


間違いない。


閑古鳥の大合唱が鳴りやむ日が来た。久し振りの依頼者だと思い、王子山はすぐさま立ち上がりレディと共に平静を装って恐る恐るドアを開けた。



そこにはミントグリーンのノースリーブと白のロングスカートが似合う清楚な装いの茶髪のローポニーテールの女性がいた。

年齢は24~25といったところだろうか。



「初めまして。岩櫃いわびつなぎと申します。こちらは王子山探偵事務所様ですか?少々依頼したいことがありまして…」


「⋯っ!はい、どうぞ中へ。」


平静を何とか保った王子山は早速、依頼者の岩櫃いわびつを事務所内に招き入れ、中央のソファーに座らせた。レディは飲み物の準備をしている。


「いやぁ今日は暑いですね。今、助手にアイスコーヒーを淹れさせてますんでお待ちを。」

「ありがとうございます。もしかして娘さんですか?」

「いや、そうではないんですが何というか…それでご依頼というのは?」


同居してますとは言いづらかったため、早くも王子山は本題を聞いて話を反らした。

レディが二人分のアイスコーヒーを入れて持ってきてテーブルに置く。


「ありがとうございます。実は…」


岩櫃いわびつはアイスコーヒーを一口飲んで言った。


「最近、町に出没するサムライシャドウという存在を調べてほしいんです。」

「「えっ!?まさかあのサムライシャドウですか?」」


王子山とレディが顔と声を合わせて驚く。

それを見て岩櫃いわびつも驚いた表情になった。


「お二人とも知っているのですか!?人や警察に話してはその度に笑われたものですが…相談して良かったです!でしたら話は早いですね。」


岩櫃いわびつは一枚の写真をテーブルに出した。そこには爽やかな黒髪の好青年が映っている。


「彼は甘利じん。予てよりお付き合いしていたのですが、彼が月桑井市に出かけていた時、そのサムライシャドウに出会い命を落としました。なので彼の死の真相を調べていただきたいんです⋯」

「っ!?」


自分と同じく大切な存在を奪われている人物がここにも居た。恐らく彼も事故死として処理されたのだろう。絶望なんてもので片付けられないほど深い傷を負っているに違いない。

王子山はそんな岩櫃いわびつの目をしっかりと見て話し始める。


「⋯実は私も、そのサムライシャドウというものに大切な後輩を奪われました。事故死という言葉で片付けられ目の前が真っ暗になったことでしょう。」



「ですが私は探偵として岩櫃いわびつさんの力になりたい。サムライシャドウを調べ上げ、これ以上の犠牲がなくなるように私達が必ず解決します。」


王子山の横で立って聞いていたレディも大きく頷く。


淑女レディの嗜み』その10、心の叫びに耳を傾けよ。私もサムライシャドウには大いにムカついてる。協力は惜しまないよ。」


「本当にありがとうございます。少し救われました。それにしてもお二人ともとても仲が良いのですね。先ほどは息もぴったりでしたし。」


深々と頭を下げた後、口元に手を当てて笑う岩櫃いわびつは何とも可憐で清楚だった。

その所作の美しさに二人は思わずドキリとしてしまう。

レディにとっては年上だが、庇護欲を感じてしまうほど守ってあげたくなる笑顔が岩櫃いわびつにはあった。




そして、岩櫃いわびつに今回の依頼の契約や料金などについての説明、経過報告についての相談をした。

話が長くなってきたせいか途中で大欠伸をしたレディに王子山がチョップをかましたりした後、岩櫃いわびつは丁寧にお辞儀をして帰っていった。



本格的な調査を始めるにあたり、王子山とレディは二人でサムライシャドウが出没する月桑井市に明日から向かう事になった。







その日の夕食中、ミートソースパスタを啜る王子山がレディに対して今日のことについて尋ねた。

「レディ、サムライシャドウは今のところ月桑井市でしか人斬りをしてないんだよな。」


「そうだね。市内で6人が死亡って記事には書いてある。」


月桑井市で一体何が起こっているのか。咎人に裁きの刀を振るうという人斬り幽霊・サムライシャドウの正体とは。


明日、その手掛かりが見つかるかもしれない。


王子山はパスタを一旦置いてスマホをいじり始めた。


「おじさんパスタ伸びちゃうよ?あ、でも伸びたら体積が増えて実質大盛りになるんじゃ!?これ流行るんじゃない?」

「んなわけあるか阿保。ぐでんぐでんになって不味くなるだけだわ。」


「いい案だと思ったのにな。あ、もしかして依頼人さんに連絡取ってた?邪魔してごめんね。」


合掌して申し訳なさそうにするレディ。見た目と性格から破天荒そうに見えるが、ふとした瞬間に出る年相応の反応が可愛らしい。


それも『淑女レディの嗜み』というものなのだろうかと王子山は思った。



「いや、いい。明日、月桑井市に行くときに寄りたいところがあってな。その人と連絡を取ってた。」

「その人って?」


王子山はスマホを置き、夜の帳が降りた窓の外を見た。



「⋯林の嫁さんだ。夏摘なつみさんって人に会いに行く。」







数時間後・月桑井市。



「がっ…」


夜中でも目立つギラギラしたスーツを着た男が繁華街の路地裏、ゴミ捨て場で力なく倒れた。


男は絶命して全身が冷たくなりつつある。


ただ不思議なことに外傷はなかった。まるで魂ごと刈り取られたかのようにその生命を終えている。人間の理解の範疇を超えた事件が今日も起きた。


その傍らに佇むのは、黒色のボロ布を着てそれを覆う紫色の甲冑と具足を付けた鋭い眼光の骸骨。

その目と身体、そして死神の大鎌のように長い刀からは紫炎が揺らめいている。


「七人目、此れもまた咎人...人を呪わば穴二つ...罪をうたえば死が一つ...」



動かなくなった男を一瞥して、不気味な歌を口ずさみながら骸骨はその場を去ろうとする。


だが、

その背後には二人の男女が現れた。


「お客さん見つけましたです!巷で噂のサムライシャドウさんですよね。蠍會から派遣されてきたメテコと言いますデス。何でも言ってくださればやりますのでダイ丈夫なのデス!」


女の方は女子校生くらいで虹色のド派手なパーカーに、スカートにブーツ。お腹のあたりまである灰色の髪をツインテールにし、それに加え頭の後ろでポニーテールにしたトリプルテールが目を引いていた。前髪には赤から紫までの虹を形成する色のクリップが全て一つずつくっついている。


「はしゃぎすぎでしょメテコ。あ、僕はスケアリー。同じく蠍會の會員です。」


男の方は小柄でくせ毛の茶髪も相まってか、かなり幼く見えるが蝶ネクタイとフォーマルスーツでかっちりとした印象を受ける。風変わりなのは右手にシルバーの手甲ガントレットを付けている事。


スケアリーが手を広げて名乗った時、右手に大型のカラスが空から降って来た。



「よしよし、お疲れジェイラー。空から見て異常はなかった?」

「カァッ!」


「⋯烏の言葉を…理解⋯できるのか…?」

「こいつ限定ですけどね。ところでサムライシャドウさん。僕達は何をすればいいんですかね?」


スケアリーの言葉にその骸骨は口を開く。



現代の人斬り幽霊・サムライシャドウが次に裁くべき咎人。



それは既に決まっていた。




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