はじまり
@kiironotanuki
第1話
今日が何月何日なのか忘れてしまうほどに忙しく流れていく日々。君がいた日々は毎日を噛み締めていて次はいつ会えるのか待ち遠しく思っていた。大学二年生冬。君の最寄りに行くためにしか使わない乗り換え電車。八王子駅横浜線。もう2度とこの先のホームに行く事はないのかと別れてから時間は経ったのにいまだに少し苦しくなる。あの時素直に想いを伝えていれば今も隣にいたのだろうか。考える時間は腐るほどあるのにもうどうにもならない現実に、心を殺す。
バイトで怒られては、大学の委員会でも怒られて心が疲弊していくのがわかる。藍色に似たさみしい季節になった。君のいない東京の冬は初めてで冷たい風が鼻につまる。何も変わり映えのない平凡な毎日も楽しい。でも君がいたらもっと楽しかったのにと家まで帰り道に1人思う。私の家は駅から徒歩5分だが公園を突っ切らないと帰れない道筋になっている。その公園は中央に大きなグラウンドがありその周りに桜の木をぐるっと囲うように植えてある。春は桜が公園を埋め尽くし桜色に染まる光景は大層美しい。昼間は子供からお年寄りまで散歩や帰宅で騒がしいが、夜は静まり返って風が枝を鳴らす音だけが聞こえる。この景色を独り占めできる夜の帰り道が上京してきてから私だけの秘密のようで特段気に入っていた。春だけでなく青嵐の吹き抜ける夏、木の葉がくるくると舞い落ちる秋、雪明かりで夜でも薄明るい冬も四季の全てで魅せてくれるこの道を何より気に入っていた。ひとりで歩いても楽しいが君と手を繋いで歩いたこの道が脳裏に焼きついて最近は無駄に感傷的になる。四季の移り変わりをこれからも君の隣で見てみたかったな。
初めて君と歩いたのは春が少し残る肌寒いときだった。
服がオシャレで友達が好きで小説など読まない君と、小説が好きであまり話さない私。よくこの本面白いよと勧めていたが毎回「俺本とか読めないから」と断られたものだ。
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