第11話 これからよろしくってことで…
道具屋に向かっている途中にエリシアがウェインに質問をする。
「腰に付けるバッグを買うんですよね?」
「そうだ」
「直せたりしないのですか?」
「直そうとしたが全体的にボロボロでな…補修するよりも買った方が早いと思っただけだ」
「なるほど」
そう会話をしている間に道具屋まで着く。
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道具屋の中
「いらっしゃいませ〜!」
二人に品出しをしている活発そうなお姉さんが元気に挨拶をしてくる。
「どのような物をお求めで?」
「腰袋だ。これと似たような物を探している。」
そう言ってひどい有様の腰掛けのバッグを店主に見せる。
「あははすごい壊れ方してますね〜馬車とかで引きづり回しました?それとも盾の代わりにしたとか〜?」
「そんなことするわけがないだろう。腰袋は置いてないのか?」
「いえ!ありますとも!え〜と、ここらへんですね〜」
そう言って店の右側の壁際まで2人を案内する。
「いろんな種類のバッグがありますね!」
「ふっふっふ、うちはこの町で1番売り物が置いてある店ですからね」
自慢げに女店主は言う。
(売れていないか置きすぎなだけではないのか?)
ウェインは真面目に考察する。
「あなた、今なんか失礼なこと考えました?これでもかなり繁盛しているんですよ?」
その考えを読んだのか彼女は男の考えを否定する。
(心を読まれた…)
「どれにしますか?ウェインさん」
「む…そうだな…店主、丈夫で中に物がたくさん入るものはないか?」
「ん〜そうですねぇ〜……これなんてどうでしょう?」
選んだのは大きな腰掛けバッグだった。
「少し大きすぎるな。これくらいので頼む」
「ん〜と、ではこれはどうでしょう?ほどほどの大きさで頑丈!しかもオシャレ!」
次に店主が選んだのは金色で装飾がいくつか付いているバッグであった。
趣味の悪い貴族が持ってそうなバッグだ。
「…俺がそれを選ぶと思うのか?シンプルなやつで頼む」
(この店主、遊んでるな?)
ウェインは当然却下する。
「え〜?かわいいじゃないですか〜」
「客の要望に応えろ要望に」
「分かりましたー、そうですねぇ〜…」
ウキウキでバッグを見繕う女店主とエリシア。
自分で探した方が早いのでは?と何気なく周囲を見たとき、ある物が目に入る。
「…!」
「店主。あのカウンターの奥に置いてあるバッグは売り物ではないのか?」
「え!?えっとぉ、あれはですねぇ〜」
店主は少し恥ずかしそうに指をちょんちょんしながら答える。
「あれは私が趣味で作っている物でして…失敗作というか〜…決して店で売れるような物ではないというか〜…」
「あれくらいの大きさがベストなのだが売り物ではないならしょうがないか」
そう言ってウェインもバッグを手に取り選び始める。
すると…
「…………手に取ってみます?あれ」
と、女店主が
別にぃ?見たいなら、いいですけどぉ?
みたいな表情で呟くように言う。
「いいのか?できるのならぜひお願いしたい」
そう言うと女店主はカウンターの奥に置いてあった黒く、小さな緑色の宝石がついたバッグを取ってきてウェインに渡す。
「ふむ、大きさとしては今のやつとそれほど変わらずちょうどいいな。これはどのくらい丈夫なのか?」
「一応ヘヴィリザードの皮をなめした物なので頑丈だと思いますけどどうですか?」
「ヘヴィリザードの皮なら申し分ないな」
2人の会話にエリシアが割って入る。
「…あのヘヴィリザードとはどのようなモンスターなのですか?」
「ヘヴィリザードは北部大陸に生息する大きなトカゲのことでな、体重がかなり重いそうだ。そしてものすごい硬さの鱗と皮を持っていてそいつを剥がすと良い防具が作れると言われている」
「君、随分と詳しいんだね?」
「…一応大抵のモンスターの知識一通りは頭に入れている」
「すごいね〜若いのに………で、これ買うつもり?」
「買う。といいたいところだが売り物ではないのだろう?なら諦めるとしよう」
「そうですね…」
そう言ってウェインとエリシアは少し名残惜しそうにバッグを女店主に返そうとする…が、
「いやまぁ、どうしてもというなら売らないこともないけどぉ〜」
「売ってくれるのか?」
「本当にこれ趣味で作った物だよ?ちゃんとした腰掛けバッグじゃないよ?それでもいいの?」
「見たところ丁寧に作られていて良いと思うのだが」
「はい!繋ぎ目もきれいで大変良く作られていると私も思います!」
そう2人が言うと女店主は恥ずかしげに、だが少し誇らしげに言う。
「そ、そんなに〜?ならぁ〜売ろうかなぁ〜?」
(この店主、チョロいな)
(この方、チョロいです!)
「あ…1つ言い忘れていたことがあったわ」
「?なんでしょうか?」
「このバッグ、宝石ついてるでしょ?これ魔石でね?ちょ〜〜っと高くなるかも」
「この緑色の宝石は魔石だったか、どんな効果が付いている?」
「ずばり、「反発」…みたいなもんですはい」
「反発…ですか?」
「いやまぁ、反発というか…カッコつけてそう名前をつけただけであって実際は魔力を込めたら風魔法で攻撃をちょっと逸らす?少し弾く?みたいな?魔道具の一種的な?」
「すごい品物ではないか」
「はい!道具に魔法を付与できるなんてすごいアイテムだと思います!」
「ほんとに趣味で作った物だから実戦では使えたもんじゃないと思うよ?せいぜい投げられた小石弾く程度だと思うし…」
「なんで腰掛けバッグに風の属性を持つ魔石をつけようと思ったのですか?」
「んー?ただの思いつきというかー盾代わりに使えたら面白いよなーって何も考えずに作りましたねはい。今冷静に考えれば大事な物入れるためのバッグを盾にできるわけないよねー」ケラケラ
女店主は笑いながらそう言う。
「思いつきでヘビィリザードの革と魔石を使うのか…」
(確かどちらも高めな金額のはずだが…)
ウェインは驚き半分、呆れ半分で反応する。
「思いついたら行動しちゃうタチでして」
「…それで値段はいくらになる?」
「……………」
「…なぜ黙る?」
「……000ルミナ…」
「?いくらなんですか?」
「……30000ルミナ…ぐらい?」
「30000ルミナ…!?少し安い高級装備並の金額ではないですか?」
「30000…これだけの物を使っていれば当然か…」
ウェインは腕を組みながら頭の中で考える。
(21000ルミナが昨日の夕食で大体19000ルミナになり…装備の修復で7000ルミナ…ギルドの報酬を含めないで今手元にあるのは12000ルミナ…今日の分の宿屋代も払って11800ルミナ…うん。まったく足りないな)
「足りな「…のところなんですが!!」」
足りないから買うのをやめるとウェインが言おうとすると女店主の大きな声で遮られる。
「30000ルミナのところなんと今だけ!10000ルミナで!お渡しいたします!!」パンパカパーン
「だいぶ値段が下がったな…」
「むしろ下がりすぎで少し怖いです!」
そう2人に言われて女店主は値段を下げた理由を答える。
「いやー使った素材の費用は高いんだけど店で売る予定はなかったレベルのものでしたし、なんなら部屋に置物として置かれる可能性もあった物ですしぃ…」
「何よりも私があなた達を気に入ったからです!!」
「そんな私情で物を売っても良いものなのか?」
「それなら定価で買います?」
「…いや、だが10000ルミナか…買ったとして手元に残るのは1800ルミナ…依頼のクリア報酬でいくらか入るとしても…」
「お兄さん結構貧乏なのねー」
「昨日今日で相当使ったからな」
「で、どうする?」
うーむとウェインが考え込んでいるとエリシアが突然、声を出す。
「…私が買います!」
「自分用にか?」
「いえ!ウェインさんにです!」
「は?いや…それはさすがに…」
素で声が出てしまったウェインから声が漏れた。
「昨日の夕食も奢ってもらいましたし!命を救ってもらった恩人ですし!これくらいは!」
「命を救ってもらったのはこちらも同じなのだが」
「ですが!」
「いや、うむ…」
ウェインは考える。
(冒険したばかりの少女に10000ルミナは大金だろう。俺でも大金だと思うのだが…流石に先輩冒険者として…年上として…これは…)
「可愛い女の子が勇気を出して言ってくれてるんだよ〜?こういう時は素直に受け取るのが礼儀だとぉ、私は思うよぉ〜?」
「む、そういうものなのか?」
「はい!ですから!」
「……分かった」
ウェインはエリシアの提案を渋々受け入れた。
そして女店主はカウンターに行き言う。
「それでは10000ルミナ頂戴いたしまーす」
「はい…あれ?これは?」
エリシアお金を差し出し、風の魔石か付いたバッグを受け取ろうとすると女店主はもう一つ、別のバッグもエリシアに渡す。
「えっと…あの、このバッグは?」
「それは私からのプレゼント!風の魔石がついたやつと同じで自作のやつだし、店で売る予定もなかったやつだからあげる〜。丈夫だしおしゃれだし結構良い素材使ってるんだよ?」
「お代はいくら払えば良いのでしょうか?」
「どこにプレゼントあげるって言って支払い求めるやつがいんのよ?」
「い…いないと思いますけど…」
「なら受け取ってくれるわよね!」
そう言われてエリシア半ば強引に装飾が付いたバッグをもらうのであった。
そしてエリシアはウェインの方へと真っ直ぐに向き合って言う。
「えっとその…!ウェインさん…これからどうぞよろしくということでこのバッグを受け取ってください!」
軽く前に体を倒しながら先ほど購入した風の魔石の付いた腰掛けバッグを差し出す。
「…ありがとう。今度こそ壊れないように大切に使わせてもらう」
「は…はい!」
「…」ニコニコ
女店主はニコニコとその光景を眺めている。
「ウェインさんは他に今日やるべきことはありますか?」
「そうだな…いや俺はこの店主と個人的に話がある。エリシアは自由に過ごしてもらって構わない。明日はギルドに報酬を受け取りに行くから朝はギルドか宿の部屋で待っていてくれ」
「はい!分かりました!でら私はこの町を練り歩いてきます!他に何かありましたら私の部屋…06と番号がついている部屋のドアに紙でも挟んでおいてくれれば!」
「ああ…分かった」
エリシアはとてとてと足早に道具屋の外に出る。道具屋にはウェインと女店主しかいなくなった。
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