20.
「あなた」
エルレ村に着き、ギルドにてクエストの完了手続きをしようとしていた途中だった。どこかからそう掛けられた声に、ヴェリスとマイは同時に声の方へと振り返った。女性の声でそう問いかけられたのに、いったい誰を指して言っているのかは、ざわついて様々な人が入り乱れているギルド内であり、よく分からなかったが声がこちらに向かっていたのに、反射的にマイは振り返ったのだが、そこに立っていたのはマイにとって見知らぬ女性だった。
ならば、声を掛けられたのは自分に対してじゃなかったか、とマイが思えば横に立っているヴェリスの空気が変わったのを感じ、マイはヴェリスを見上げた。ヴェリスは何故か、一言で言えば顔を青褪めさせていたのである。
「――……カ、カンナ……っ」
恐る恐る、息を呑んでヴェリスの口から出た名前に、カンナと呼ばれたその女性はにこりと微笑んだ。そんな女性の顔と、何故か青褪めるヴェリスの顔を見比べて、マイは当然首を傾げた。
「……知り合いか?」
「いや、知り合いってか……俺の奥さん」
「奥さんっ!? お前結婚してたのか!?」
「何なら子供二人いるよ~……」
「ええっ!?」
見た目年齢にそぐわない実年齢に驚かされていたというのに、更に驚きの事実を聞かされマイは「はあ……」と口を開ける。
「み、見えないな……?」
「ははは、よく言われる~……」
青い顔で笑みを浮かべるヴェリスに、奥さんが出迎えてくれたにしては反応が悪いため、「どうしたんだろう」と普通にマイが思っていれば、カンナは一度マイと目を合わせて、マイに向かってにこりと笑いかけてきた。そうされたことに、マイが反射的にカンナに対して軽く頭を下げれば、カンナはややあってヴェリスに一歩歩み寄ってくる。
「――あら、せっかくわたしが出迎えてあげてるのに随分な反応じゃない? ねえ……あなた?」
「い、いや、だってお前……」
「ああ、それはそうとギルドの人があなたにお話があるって探してたわよ。ほら、あの奥のカウンターの人。行って来たら?」
「え、あ、でも、」
「早く行きなさい」
「はいっ……!」
勇ましくモンスターと戦っていたヴェリスはどこへ行ったのか、にこにこと笑いながらカンナに顎で指図されたヴェリスは、それに一切逆らうことなく、駆け足で示されたギルドのカウンターへと向かった。そんなヴェリスの背をマイは視線だけで見送り、再び前を向けばカンナと視線がぶつかり、それに伴いカンナはマイに対してまたにこりと笑う。
「――あなた、マイさん?」
教えていない名前を唐突に呼ばれ、一瞬驚いたもののすぐにマイが「ああ」と頷けば、カンナはマイに対して一歩前に出た。
「初めまして。わたし、あの人の妻でカンナと申します」
「あ、はい……」
「あの人、いい人でしょう。バカが付くくらいのお人好しなのよ」
「はあ……」
「だからね、あの人はあなたのような子を放っておけないの。それがあの人のいいところだと思っているけど……あなたのような子を許すかどうかって聞かれると、それはまた別の話よ」
静かに言われたそんな言葉の直後――マイが反応できない速度でカンナから平手打ちが飛んできて、辺りにパンッ!という乾いた音が響く。ただ、ギルド内は人が多く入り乱れているため、そんな音はすぐに雑踏に紛れた。けれど、マイの頬に残る熱が、確かにカンナから平手打ちを食らったと言っていた。
叩かれた頬に、マイが自分の手を当てつつ目を見開いてカンナを見れば、カンナはまたにこりと笑う。
「――ごめんなさいね、急に叩いて」
ゆるりと言われた謝罪に、マイがただ「はあ……」と答えることしかできないでいると、カンナはやれやれと息を吐いた。
「……二日前、わたしの元にあの人から手紙が届いたわ。内容は、あなたとクエストに行くことと、どうして行くことにしたのかと……そして、それに伴って自分が帰って来れないかもしれないから、その時は子供たちのことを頼んだ、という内容だったわ」
「え……」
「あの人が馬鹿みたいに強いってこと、知っているけど同時に……他人には酷く甘いのよ。甘いから、もしもあなたが無茶をしてあのモンスターに挑んでいたら、あの人は自分の身を厭わないであなたを助けていた。……結果としてそうはならなかったようだけど、そうなる可能性が出発する時点ではあったから、そういう手紙がわたしに届いたのよ」
「………………」
「あの人は一人であればきっと負けない。馬鹿みたいに強いもの。けど、足手まといが居るならば話は別――……だから、無意識にも、無自覚にも、あの人を危険に巻き込もうとしたあなたのことを、わたしは怒らないといけなくて――叱りに来たのよ」
確かな怒りを持って言われたカンナの言葉は、本当にその通りでありマイには反論の余地はなかった。
「……それは、すまなかった」
そして、それをヴェリスと共にした道中でも重々自覚したマイの口からは、そんな単純な謝罪の言葉しか出なく、ただ、その謝罪を聞いて、カンナは今度は「ふふっ」と優しく笑ったのだった。
「ふうん、そう。そんな無茶をする人だから、わたしもっと死んだ目をしているのかと思ってたけど……あの人の言葉を聞き入れて、ちゃんと改心したようね? あの人とは友達にでもなった?」
「え、あ、ああ……」
「なら、わたしとも友達になりましょ。わたしもハンターなの。子供がまだ手がかかるから、すぐには無理だけど、いつか一緒に狩りに行きましょうね!」
言うと、カンナはマイに対してウインクをして見せ、くるりと踵を返して歩き出そうとした。それにハッとし、マイは顔を上げる。
「えっ、あの、ヴェリスは、いいんですかっ」
「? ええ。わたしの用事は今終わったもの。わたし、あなたのことを叱りに来て、場合によってはあなたと友達になりにきただけだから。じゃあね、マイさん。また今度ご飯にでも行きましょ! あの人によろしく言っておいて。それと、今度話すときはわたしにも敬語はなしで大丈夫だから」
小首を傾げ、愛嬌のある笑顔を振りまいて、カンナは宣言通り本当にギルドを後にした。嵐のように過ぎ去って行ったカンナに、しばらくカンナが出て行ったギルドの出入り口をマイが呆然と眺めていれば、後ろから「あれっ!?」というおどけた声が聞こえ、マイは声に振り返る。
そこにはきょろきょろと辺りを見回すヴェリスの姿があり、マイは焦った様子のヴェリスをただ眺めた。
「マイちゃん、カンナはっ!?」
聞かれて、マイはヴェリスから先ほどカンナが姿を消した出入り口の方へと再び視線を流す。
「……帰ったな」
「帰った!? マイちゃん絶対なんかされたよね!? 何された!?」
慌てるヴェリスを一目見た後、少し俯いてマイはカンナに叩かれた頬にまた手を当てて、カンナの言っていたことを思い返した。
「……いい、奥さんだな」
「へっ?」
「頬を叩かれた。叩かれて、叱られた。自分の身勝手でうちの人を巻き込むな、と」
「あ~……ね、」
「そして、わたしを見て友達になろうと言って去って行った。いい奥さん……というか、いい女、だな。あの人」
そう言ってふと笑ったマイに、それまで困り顔をしていたヴェリスだったが、一度目を見開いてからマイに対して自慢げににっと笑う。
「――だろ? 最っ高にいい女なんだ」
「叩かれたときは浮気を疑われてるのかと思ったが」
「あ〜そういうのはしないしない。ま、マイちゃんもいい女だけどね」
「……そういうのあまり感心しないぞ。ナンパのようなことを言っていると、人助けの中で勘違いする奴も居るんじゃないのか?」
じとりとした目でそうマイに睨みあげられたヴェリスだったが、それに堪える様子もなくただへらりと笑った。
「いなくもないけど、まずもって俺がなびかないからね〜。あんないい女、俺カンナ以外に知らねーもん」
「悪い男だな……」
「なになに、マイちゃん俺に惹かれてた~?」
「それはない。もっと言えばお前のような男はタイプじゃない」
「うわ~手厳しい!」
「まあ……いい奴だとは思うよ。男としては全く好みじゃないが」
「ふふん、いいじゃん。人として好かれてんなら、やっぱ友達になれるじゃん!」
「そうだな……まあ、これからもよろしく頼むよ」
言って、マイはヴェリスに向き直り右手を差し出した。その手を取り、握手をするとヴェリスは嬉しそうな顔で笑う。
「こちらこそ~!」
そうして、どちらからともなく手を離した時だった。
「――――あら、マイちゃんじゃない」
またも声を掛けられ、マイはその声を掛けられた方――後方に振り返る。振り返る前から、掛けられた声でマイはすぐに誰か分かっていて、はっとした。
「アルガ」
「アルガちゃん?」
マイがその姿を目に入れて、名前を呼べばそれに重なって別の声が横からしたため、マイはまた声に振り返ることとなった。アルガの名前を呼んだのは、傍らに立っていたヴェリスだった。
「――うん? ヴェリスじゃないの」
「え……知り合い、か?」
「いやいやこっちのセリフなんだけど! つか何、もしかしてマイちゃんのパーティメンバーってアルガちゃん!?」
「あ、ああ。そうだ」
マイが頷けば、ヴェリスはマイとアルガの顔を交互に見た後、何故か心底ほっとしたように息を吐きながら、「なんだあ……」と安堵の笑みを浮かべた。
「――じゃあ、リーダーはアルガちゃんだ?」
「……そういうの、明確には決めてないけど、まあ、そうなるかしら」
「アルガちゃんが集めたメンバー?」
「ええ」
「そっかあ……あーヤバい、滅茶苦茶安心した」
ぽつりと呟かれたヴェリスの言葉に、何かを察したアルガだが何も言わないようにしていると、マイは不思議そうに首を傾げた。
「何の話だ?」
「いや、こっちの話。あ、マイちゃんもギルドの人に呼ばれてたよ。行ってきな?」
「あ、ああ」
言われて、小走りでヴェリスに指差されたギルドのカウンターにマイが向かうのを見届けると、アルガはやああってヴェリスに目を向ける。
「……何か、迷惑をかけたようね。うちの子が」
「いや、もうほんとにね……でも頭はよかったし、何が悪いのかちゃんと理解はできてるみたいだからね。勘もいいし……ただ、だからと言って言うとおりにしてくれるような子じゃないねえ――彼女、目を離さない方がいいよ」
「……そうね。私もそれは重々思っているのだけれど、身体は一つしかないからなかなか難しいのよ」
「まあでも、アルガちゃんが仲間だっていうんなら安心した。しばらく着いて歩こうかと思ってたけど、その必要はなさそうだ」
「相変わらずのお節介焼きねえ。カンナに怒られるんじゃない?」
「いやあ、それがさっきまで居て怒られたところだよね……俺がじゃないけど」
「あら、じゃあ……」
「そ、マイちゃんが」
「ふふっ、そっちも相変わらずねえ。まあ、迷惑かけたようだからお礼を言っておくわね」
「いいよ、俺のこれはただの自己満足だしさ」
そんな会話をしていれば、マイがカウンターから戻ってきて、「すまない」とまた合流したのにヴェリスはマイに対してにこりと笑いかけた。
「――さって、じゃ、俺これでも多忙だからそろそろ行くわ! じゃあね、マイちゃん。今度はそっちから声を掛けてくれると嬉しいなっ。あ、そうそう、これ俺のハンターカードね」
差し出されて「マイちゃんのも頂戴」と言われ、慌てて交換をすれば、ヴェリスは踵を返そうとしたため、マイははっとしてヴェリスに手を伸ばす。
「ヴェリス! あの、そのっ……」
「うん? なあに?」
「――――ありがとう……それと、悪かった、」
躊躇いながら言われたマイの言葉に、ヴェリスは一瞬意外そうな表情を浮かべてから、すぐにまたにこっと笑って、マイの頭をわしわしと片手で豪快に撫でまわした。
「こちらこそ! マイちゃん、あんまり無茶なことしちゃ駄目だからね〜? そこのおねーさん、怒らすとこっわいし」
悪戯っぽく笑いながら言われたヴェリスのそれに、アルガは「あら」と小首を傾げて見せる。
「やあね、そんなことで一々怒らないわよ。ま、ただ――見捨てはするかもしれないけど」
うふふっと妖艶に笑いつつそう言ったアルガの言葉に、マイはさっと顔を青くさせ、ヴェリスは引き攣った笑みで「ほらあ……」と吐いた。
「ま、じゃ、俺行くわ。これで俺と君の縁ってのはきっとできたと思うし、またな――マイちゃん」
「ああ、またな、ヴェリス」
「アルガちゃんも、まったね~」
「ええ」
ぶんぶんと手を振り去って行くヴェリスに、マイはふと息を吐く。そんなマイを横目で眺めつつ、アルガは「――で?」と低い声を出した。
「今度は一体どんな無茶をしようとしたっていうのかしら? マイちゃん」
「えっ、いや、あの、それはー……っ!」
「ロクちゃんとノアール行きの案件ねえ、これは。さーて、お説教はあの二人に任せることにしましょ」
「あ、アルガぁ……っ」
「そんな声出したって駄目よ。マイちゃんはいい加減私たちが居るっていうことを、その身をもって覚えるといいわ」
そう言って鼻歌交じりに歩き出すアルガの後を、マイは慌てて追いかけ、アルガの横に並べばアルガは「まあ、でも」と呟く。
「ヴェリスに謝っていたのだから、多少は分かってきてるのかしらねえ」
明確に何が、とは言われずに言われたアルガの言葉に、マイは少しだけ目を見開いて、そしてふと笑った。
「……わたしは、恵まれているなあと思ったよ」
「そう」
「でも、だからわたしは――お前たちのために早く強くなりたいんだ」
マイのそんな言葉にアルガは一度大きく目を見開き、けれどすぐに呆れたようにはあっと息を吐いて微笑んだ。そうして手を伸ばし、マイの頬をぎゅむっと抓る。
「そのために無理や無茶をしたって意味がないってことも早く分かりなさい」
「ひたたたたっ、あっ、あうがっ……!」
気が済むまでマイの頬を抓ると、アルガはぱっと手を離し、ふんっと鼻を鳴らした。
「ま、でもあの男とならそれも別にいいけど」
「あの男……? ヴェリスのことか?」
「ええ。あれはとびきり強いし――マイちゃんはとびきりいい奴と友達になったのよ。そうそう、さっきあいつのカード貰ったでしょう。見てみなさい」
言われてマイは手に持ったままになっていた、先ほど交換したヴェリスのハンターカードに目を落とす。
受け取ったその時は気にもしていなかったが、そのカードの色に首を傾げることとなった。以前カードをアルガたちと交換したときに教えられた、下位級ハンターのカードの色は灰色であり、上位級ハンターのカードの色は紺色、高難易度許可ハンターは水色であるが――ヴェリスから貰ったハンターカードの色は赤であり、自分の知らない色であったのだ。
「え……? これ、この色は……」
「見たことないのも無理ないわよ。その色のカードを持ってるハンターは、ハンター全体の五パーセントしかいないから」
「…………え?」
「それは、最高危険難易度を許可されたハンターにしか発行されないカードだから」
「ええ……っ!?」
最高危険難易度――多くは古龍種という存在そのものが全て「天災」のようなモンスターの討伐クエストである。それと対峙できるハンターは、ハンターの中でほんの一握りであるため、クエストとしてそういったクエストが存在していることはマイも知っていたが、それを受けてクリアしている人物など見たことがなかった。そもそも、天災と対峙して勝利を収めてくるハンターなど幻のようなものだと思っていた。
「そうそう、これ、ついでに渡しておくわね」
「えっ?」
言葉と共にぽんっと手渡されたのはマイが手に持っていたカードと同じ色をした、別のカード。それのハンター名の部分には「アルガ」と記名があった。
「え、どういうこと……」
「この間昇格したの――というか、昇格試験を無視し続けてたのだけれど、あなたたちの様子見てたら昇格するのも悪くないかと思って。マイちゃんも早くここまでいらっしゃいね?」
にこっと笑みを浮かべて言われ、マイが絶句していればアルガはくるりと踵を返す。
「ま、そういうわけだから、早く強くなりたいのなら、アレを利用したらいいわ。私は人に教えることは苦手だから」
「ははは……」
ヴェリスのことを「アレ」呼ばわりするアルガに、内心「さすがだなあ」と思いつつ、苦笑を浮かべた後にマイは長く息を吐いて前を見据える。
ヴェリスとこのクエストに行く前の少し前の自分を思い返すと、マイはなんだか笑えて来た。
常に焦っていて、置いて行かれないようにしないととか、早く強くならないと彼らと一緒に居てはいけないような気持ちでずっと居た。
自分を仲間だと迎え入れてくれた彼らが、そんなことをするはずもないというのに、ようやくそれに気付いて随分と優しい気持ちに今はなれている。それを教えてくれたヴェリスの姿を思い返し、マイは穏やかに笑った。
――焦って彼らに追いつく必要など、きっとない
――それでもわたしは彼らに追いつきたい
――無理や無茶はよくないと頭では分かっている
――けれど、それがわかっていてもそうしたいと願うのが、きっとわたしなのだ
「……うん、頑張るよ」
ぽつりとつぶやくように言われたマイの言葉に、アルガは「不安ねえ」と吐くのだった。
*
マイたちと別れて、ヴェリスは自分が本来行くべきだったクエストへと向かっていた。
対象モンスターは古龍種。マイと戦いに出ていた危険種甲殻種よりも、更に高難易度に位置しているモンスター。もっと言えば、マイが向かっていたのは上位級の範囲内であり、今ヴェリスが向かっているのは最高危険難易度のものであった。
交換したマイのカードを思い浮かべて、その色でマイの階級が今上位級であることを示していたのを思い返し、ふと息を吐く。ヴェリスの居るこの階級は、ギルドから認められた本当にごく僅かな人間しか到達できないものだ。
ちなみに、ヴェリスは自分が向かうクエストに同行者をつけない。自分レベルの人間などほぼ居ないに等しく、そうでない人と行くことになれば、そいつが足手まといにしかならないからである。
ヴェリスとしては不本意ながら、その実力に目を付けられ、知人になってしまっているナビーさんに頼まれてしまったこのクエストに赴きながら、マイのことを考えた。
(……彼女は多分、その内ここまで上がってきてくれるだろうなあ。アルガちゃんなんかはたまに一緒に行くこともあるし……そうなってくれたらおじさんは楽だけど)
ぽつりとそんなことを思って笑い、目を細めたヴェリスが頭に浮かべたのはとあること。
記憶喪失だという彼女の名前の由来を教えてもらったその時に、見せてもらったイヤーカフ。ヴェリスはそれ自体に見覚えがあったのだ。
(……あれは、西の村の方でよく売られているデザインのイヤーカフだった)
そして、更に思うのはその時ついでのようにマイと会話した内容。
(俺の言った通り、記憶喪失にゃ大まかに三通りあるわけだが……彼女の、マイちゃんのパターンは多分、臭いものに蓋をしているやつだろう)
マイに言ったこととは違う、そんなことを考えたのには当然理由があった。
(何かの衝撃で記憶が飛んでるのだとしたら……普通、飛竜に襲われたことだって覚えてるはずないからなあ)
そう、ヴェリスが思った理由はマイの話にあった。マイは、雪山を歩いているところで飛竜に襲われて崖下に落ちた、と、そうして気が付いたらエルレ村に居た、と言っていた。それは、外的要因で記憶がなくなっているのならば、飛竜に襲われたの部分が完全に不自然な情報となっている。
気が付いたらエルレ村に居たというならまだしも――外的要因を受ける直前のことを、そんなにも鮮明に覚えているのは、あまりにも不自然だ。
(ん~……彼女とは長い付き合いになりそうだし、今度西の方に行く用もあるから、ちょ~っと調べてみてもいいかもな……)
そんなことを考えつつ、ヴェリスはナビーさんに頼まれた古龍種の討伐へと向かうのだった。
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