俳句

 わがままや

  じぶんかってと

   えみうかべ


「この俳句がどうしたんですか?」

 某市の市役所勤めをしている私は、広報課に所属をしており、現在市で応募している「子供俳句コンテスト」の入選作品を選考しているところだった。そんな時、課長が私を呼び「この俳句を見てほしい」と言うので見てみたが、なんの変哲もない子供の字で書かれた俳句だった。

「いや、少し気になってな。何か気が付かないか?」

「我儘や自分勝手と笑み浮かべ……。うーん、確かに子供らしくない言い回しな気もしますが、生意気な自分を表したような良い俳句にも思えますがね」

「生意気ねえ……」

 課長は俳句の書かれた葉書の表と裏を交互に眺めて独り言のように呟き、ノートに文字を書き始める。


 我がママや

  自分買ってと

   笑み浮かべ


「こういう漢字だとしたら?」

「まさか売春?」

 課長は頷き続けた。

「しかも子供がいる前でこんな台詞を口にしている可能性が高い」

「子連れで売春ですか?」

「そういう趣味の客もいるのかもしれない」

「一応児童相談所に連携しておきますか?」

「そうだな、あくまで私の予想の範囲だから動いてくれるかは分からないけど一応頼む」

 その後、児童相談所の方は俳句を送ってきてくれた子の家を訪問したらしいが、まさか「子供の前で売春してますか?」など言えるはずがなく、パトロールとお茶を濁して家の様子を口頭でヒアリングしたのみとなり、問題ないと結論付けられた。そしてそれから二週間が経過した。


 さんまんと

  いってわたしを

   たたくまま


「散漫と言って私をママ叩く」

 再び投稿された例の子どもの俳句を読み上げると、私は急いで課長に迫った。

「課長! あの子もしかしたら母親に暴力を受けているのかも!」

 私の声に課長は顎を撫でながら小さく唸り声を上げる。そしてまたノートに文字を書き始めた。

「叩くくらいなら良いけどな」

 そう言ってノートに書かれた文字を私に見せる課長。その文字に私は激しい憤りを感じた。


 三万と

  言って私を

   叩くママ

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