第25話 決別と紅い雨
--くっー!
久々に目覚めのいい朝だ。俺はどれくらい寝ていたのだろう。部屋のドアをそっと開ける。関水と津田がソファーの上で眠っていた。
--ありがとう。津田。
俺は津田を起こし講義に向かった。そして、一日が終わり、部活へ向かった。関水が道場の入り口に立っていた。
関水「おい。今日は桜ちゃんの後を追うのやめよう。」
--凄い。俺は全く止める事ができなかったのに、津田は一日でやめさせた...
感嘆と共に無力感が俺を襲った。
その日から、関水のホテル通いがまた始まった。心のバケツに穴が空いているのだろう。それを塞ぐ何かを彼は探している。関水の後ろ姿がひどく悲しく見えた。
ポカポカとした空気に、美しく儚く咲く桜。またこの季節がやってきた。
俺は部屋の隅にあるロープを見る機会は段々と減りつつあった。関水はというと、相変わらず何かを探し続けていた。
関水と共にご飯を食べていると、竹田さんが男と二人で店に入ってきた。
時が止まる。
--気づくなよ。
そんな儚い願いは、すぐさま音を立てて崩れた。
関水は落ち着きなく、足は貧乏ゆすりをしている。そして眉間の皺がどんどん増えていく。
--注意を逸らさなきゃ。
「関水さん。今年就活ですよね。行きたいところあるんですか。」
無理やり話題を捩じ込む。
関水「黙れ。」
いやな沈黙が続く。隣の席の箸の音、会話が聞こえ、空気が重くなるっていく。俺は唾を飲み込んだ。
--言葉が見つからない。
関水「あの女、見せつけてやがる。」
「こっちに気付いてないみたいですよ。他にも女の子いますし、気にしないでおきましょ。」
関水「殺すぞ。」
「またまた、怖いですって」
関水「ちょっと、寮戻ったら話すぞ」
「...わかりました。」
--最近落ち着いてたのに。また始まるのか。
無言の車で寮に戻った。
関水「今から、桜ちゃんの家行くぞ」
津田の背中が頭に浮かんだ。
--決めた。もう逃げない。
「嫌です。竹田さんには幸せになってほしい。」
奴の表情は鳩が豆鉄砲をくらった様だった。
関水「お前。俺に逆らうのか。」
「俺はあんたの人形じゃない。」
関水「お前まで、裏切るのか。」
「裏切ってません。最初から操り人形じゃない。一人の人間です。」
関水の拳が振り翳される。俺は咄嗟にそれを避けた。
関水「おい。わかってんのか。俺はお前にいくら払ってきたのか。孤独から救ってやったのは俺だぞ。」
「感謝はしてます。でも、竹田さんの件は別です。」
関水「絶対に許さないからな」
奴の拳が上がる。
キー
俺の中の檻が開く音がした。中学生以来厳重に鍵をかけてきた禁断の扉。
俺は拳を握った。拳は関水の顔面を捉え、そのまま関水を倒した。そして関水の上に座り、感情のままに拳を振り下ろした。
--そうか。結局こいつに頼る事しかできないのか...
握った拳を見つめる。
脳裏に俺に悪意を向けてきた奴らが浮かぶ。
-小学生の上級生。
-小学生のクラスメイト。
-ロリコン教師。
-成金男。
-そして関水。
--俺はこいつらと同じだったのか...
倒れている関水を背に、逃げる様に寮を飛び出した。久々に自宅へ帰ろう。もう二度と支配されてたまるか。
シュッシュッ
誰かが走ってくる音が聞こえた。振り向いたその時だった。
--嘘だろ!!
次の瞬間、俺の視界は真っ白になった。
ザーザー
雨が降っている。雨水と共に赤い液体が地面に広がっていく。
ゴロゴロ〜ドシャン!
雷は二人の男を照らし出す。地面に横たわる誠太と、血に塗れた角材を手にした関水が肩を揺らしていた...
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