月光の迷宮
宝
第1話 空虚な入学
俺は田中誠太。
大学入学したばかりの一年生。俺はとにかく自分のことが嫌いだ。
コミュニケーション能力が無く、いつもウジウジしている。高校の文理選択時、皆は好きな科目や将来なりたい職業を元に選択していた。だが俺は、可能な限り人と関わらなくていい職に就く為、理系を選んだ。人生の大事な選択でさえも逃げの思考になってしまう自分が情けなかった。
更には、まさかの大学受験失敗。浪人生活が始まった。一年勉強に明け暮れた筈なのに、センター試験の点数は現役よりも低かった。プレッシャーに弱い自分がほとほと嫌になった。試験が終わった時には疲れ切り、もう一年浪人する気力は沸かなかった。俺はまた逃げの選択をした。第三希望の大学。安全牌。
--また逃げた。
大学の門をくぐる。周りの人は期待で胸を膨らませ、希望に満ち溢れた表情をしている。その中で俺は一人終わった人間の顔をしていた。
--大丈夫だろうか。俺は。
入学して二週間たった。案の定、俺には友達はできていなかった。
--俺はこのままで、ちゃんと働いて生きていけるのか?
そんな問いかけが頭を駆け巡った。
モヤモヤを打ち消す為、スマホを取り出し"就活 有利"とググった。画面をスクロールし、"部活動"という文字が目に止まった。
--よし、行くか!
直後、俺の足は大学の柔道場に向かっていた。
--ここか。
道場の入り口には桜の木があった。風に吹かれ、散っていく花びらが俺を後押しした。
俺は高校から柔道部に入っていた。他にやりたい部活もなく、そのまま柔道部を選んだ。
「す、す、すみませーん。あ、あ、あの見学させて欲しいです」
大男「見学か。珍しいな。名前と学部は?」
その男は身長が190近い大男だった。まるで巨大な壁のようだった。
「えっと、田中誠太、工学部機械工学科です」
ぞろぞろと道着を着た男達が集まってきた。気怠そうな男、こちらをじっと見てくる男、ニコニコしている男、俺はこの場から逃げ出したくなった。
--ここで逃げてしまったら、今後生きていけるのか?コミュニケーションはすぐに上達できないぞ。部活動やって、就活を有利にするんじゃなかったの?
頭の中の声が俺を縛った。
痩せ細った眼鏡男「こんにちわんこ!ワンワン!」
大男「おい、関水!初対面でギャグかよ。俺らまで馬鹿に見えるだろ笑」
男達は笑い出した。
しかし、痩せ細った眼鏡の男は笑いながらも、その目は俺を見ていた。その視線はひんやりとした冷気を帯び、どこか深い闇から覗き込んでくるような不気味さを感じた。
--なんだこの眼鏡男。俺を観察している?気のせいか。
ただ、みんなに好かれている気はする。
俺とは真逆の人種なんだろうな。いいなぁ...
ここですぐさま踵を返すべきだと俺は気づけなかった…
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