第5話:障がい者の平等と自由
障がい者の方々の平等と自由についても、同様の課題がある。日本は二〇一四年四月に「障害者権利条約」を批准し、二〇一三年には「障害者差別解消法」を施行した。この法律は、障害を理由とした不当な差別的取り扱いを禁止し、合理的配慮の提供を義務づけている。合理的配慮とは、障がい者が他の人々と平等に社会参加できるように、必要に応じて負担になりすぎない範囲で調整することだ。例えば、車いす利用者のためのスロープ設置や、聴覚障がい者への手話通訳提供などである。政府は「障害者差別解消法」やバリアフリー法を通じて、ユニバーサルデザインの推進を図っている。駅のエレベーター設置や点字ブロックの整備は進んでいる。しかし、実際の運用はどうか。国土交通省のデータによると、二〇二三年時点でバリアフリー化された鉄道駅は約七割だが、地方の小規模駅では未対応が多い。公共交通機関での移動自由は、障がい者にとって制限されている。身体障がい者が電車に乗る際、介助者がいなければ利用できない場合がある。これは、自由の侵害だ。しかし、個人レベルでは障がい者への理解が不足し、差別意識が根強い。例えば、車いす利用者が電車内で「邪魔だ」と睨まれたり、知的障がい者が就職面接で「使えない」と拒否されたりする事例は後を絶たない。
教育現場でも問題は顕在化している。文部科学省の調査(二〇二二年)では、特別支援学校の待機児童が全国で約二千人いる。インクルーシブ教育、つまり障がい児と健常児が一緒に学ぶシステムを推進しているが、教師の不足や施設の不備で実現していない学校が多い。知的障がいを持つ子どもが普通学級でいじめられ、孤立する事例は後を絶たない。就職面では、法定雇用率(二・三%)を達成している企業は約五割だが、達成していても低賃金や単純作業に追いやられるケースが多い。厚生労働省の報告書によると、障がい者の平均年収は健常者の約半分だ。これは、経済的平等の欠如である。障がい者が自分の能力を発揮し、自由に職業を選択する権利は、十分に保障されていない。社会的身分による差別が、憲法第十四条で禁じられているのに、現実は異なる。
政府の制度整備に加え、個人レベルの意識改革が急務であると考える。具体的には、小学校からのインクルーシブ教育の義務化、企業向けの障がい者理解研修の法定化、メディアでの障がい者活躍事例の積極的発信が有効である。ユニバーサルデザインは物理的環境だけでなく、心のバリアフリーも含む。障がい者を「特別扱い」するのではなく、「共に生きる存在」として認識する意識の変革が、差別の根絶につながる。
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