第13話
場所を移してユリアはリーシャとの手合わせを行うことにした。
「リーシャさん、準備はいいですか?」
「はい、私はいつでもいいです」
リーシャのほうはやる気満々のようだ、こちらもきちんと相手をしないと失礼になるだろう。
「それじゃ、始めましょう。リーシャさん、まずはあなたからでいいですよ」
ユリアの言葉にリーシャは少しむっとした表情をする。どうやらプライドを傷つけてしまったらしい。
「随分と余裕なんですね、なら遠慮なくいかせてもらいますよ」
リーシャの周りに炎が巻き起こる。それが形を成してやがて巨人のような形となった。その炎の巨人の手には大剣が握られている。
「へえ……」
(随分、明確なイメージを持って魔法を扱っている。これは凄いな)
魔法とはイメージによって超常現象を起こす技だ。自分の中でこういうことがしたいとイメージが強ければ強いほど魔法の行使は容易になる。
リーシャは最初からあの炎の巨人を作って見せた。彼女の中でそういったことを起こしたいという明確なイメージがあったのだろう。学生の身でここまでイメージが固まっている者は少ない。
「行きますよ! 痛い目にあっても文句を言わないでくださいね!」
リーシャの言葉と共に炎の巨人が大剣を振り下ろしてくる。大きな体に似合わず動きが速い。
(それに加えてリーシャ自らも援護で攻撃をしてきている、見事な連携だね)
巨人に気をとられていればリーシャからの攻撃への対応がおろそかになってしまう。しかもきちんと息を合わせて攻撃をしてくるのだから厄介だ。
「素晴らしいです、リーシャさん」
ユリアは心からの賞賛をリーシャに送る、しかしそれは彼女にとって逆効果だったらしい。
「余裕を見せている人間に賞賛なんてされても嬉しくないです!」
闘争心が余計にかき立てられたのかリーシャは攻撃の手を激しくしていく。炎の勢いは衰えることを知らず激しくなっていった。
「行け!」
彼女の合図と共に炎の巨人が猛烈な勢いで大剣を振るってくる。まるで彼女の意思に答えるかのように。
「っと……」
ユリアが攻撃をかわした先に彼女を囲むように炎が生まれる。リーシャが生み出したものだ。
「これで……止めです!」
炎の壁はユリアを焼き払おうと彼女に迫る。
「なかなかです。ですが」
しかし炎の壁がユリアを焼き払うことはない。彼女に迫っていた炎の壁は雲散霧消してしまっていた。
「なんで……!」
リーシャの顔に焦りの表情が浮かぶ。なにが起きたか彼女は理解できていないようだ。
「リーシャさん、見事です。お礼に私も少しいいものを見せてあげます」
ユリアの言葉とともに炎の鳥が生まれる、綺麗な真紅の炎鳥だった。
「それは……私の……!」
リーシャが生み出された炎鳥を見て驚いた声をあげる。
「はい、参考にさせてもらいました。とてもいいイメージで魔法を練り上げていたので私も真似させてもらいましたよ」
「……っ!! ふざけるな!」
ユリアに自分の魔法を真似されたことがよほど悔しかったのかリーシャは怒りのままに炎の巨人をけしかける。しかし巨人の攻撃がユリアに届くことを炎鳥が許さない。巨人と炎鳥がぶつかり、辺りに炎が吹き荒れた。
巨人と炎鳥はしばらくぶつかっていたがやがて炎鳥が巨人を押し返していく。
「……そんな!? どうして!!」
リーシャの驚く声が響き渡る。炎鳥の一撃が炎の巨人を押し倒して二体の戦いは決着が着いた。そのまま炎の巨人は虚空へと消えていく。
「ここまでです、リーシャさん」
潮時と判断したユリアは戦闘の終了を宣言する。炎鳥も跡形もなく消えていった。
「見事でした、リーシャさん」
ユリアはリーシャに歩みより、手を差し伸べる。リーシャはその手をじっと見てなにやら考え込んでいるようだった。
「……先生はどうやってそこまで強くなられたのですか?」
「私がですか?」
リーシャは真剣にユリアを見つめて問いかけてくる。負けて挫けた者の目ではない、悔しさを糧にしてもっと強くなりたいと願っている者の目だ。
「ユリア先生が強いことは分かりました。最初の非礼は詫びます、申し訳ありませんでした」
リーシャは頭を下げてくる。凄く生真面目な子だなとユリアは思った。
「頭をあげてください、リーシャさん」
ユリアはリーシャに頭をあげるように促す。彼女はそれに従って顔をあげた。
「私のように強くなるにはどうしたらいいですかとあなたは言いましたね。大丈夫です、あなたも含めて私の授業の中であなた達を強くしてみせます」
「本当ですか? 私も先生のように強くなれますか?」
「はい、私が保証します。あなたが今見せた魔法はとても才能を感じるものでした。加えてあなたは今私に謝罪したように素直に謝ることの出来る人間です。そういった子は伸びます、私が保証しますよ」
「……もし私に才能があって先生が私を強く出来るのならお願いします。私をさらに高見へと連れて行ってもらえますか?」
「もちろんです」
リーシャはそれで満足したのか失礼な態度をとることはなくなった。
「リーシャさんの他に私と手合わせしたい方はいますか? 私はいつでも相手しますよ」
他の生徒はユリアの呼びかけに答えることはなかった。皆が静まり帰りユリアのほうを見ている。
(とりあえず認めてもらえたかな)
こうしてユリアの赴任初日は幕を閉じた。
*
「聞いたわよ、リーシャとやりあったってね」
先生としての初勤務を終えた後、レイクロード邸に戻るとアリアがにやにやしながら話しかけてきた。
「なにさ、いきなり」
「いきなり才能のある子とやりあえるなんてあなたも運を持ってるなと思ってさ。あの子、今の魔法学院の生徒の中じゃ一番実力があるかもしれない子なのよ。家もクロックフォード家だから実力も家柄もどれをとっても期待の星なの」
「へえ」
クロックフォード家はユリアもよく知っている家名だ。あの家は代々魔法士を排出していてどの人間も優秀だった。前世の魔王との戦いの時もあの家の人間がよく活躍していたのをユリアも覚えている。
「そうなんだ。確かにあの子の魔法は凄かったけれど」
「あなたから見てあの子のどこが凄いと思った?」
「やっぱり魔法のイメージがはっきりしていたところかな。あれだけはっきりとイメージを持って魔法を使用できる生徒がいるとは思わなかったから」
「ふふ、あなたもそう思うんだ。あの子の凄さはその点に尽きるわ、起こしたい現象を思い描いて魔法をきちんと使用している。あの子は逸材なの、でも負けを知らなかった」
「それで君はごきげんなわけだ。生徒が負けを知って成長してくれそうだから」
「ご名答。才能があっても敗北の経験もないなんて本人の成長に繋がらないからね。あなたに負けた後も前を向いてくれたみたいでよかったわ」
「まったく。初日から大変だった僕の身にもなってくれないかな」
「でも、楽しかったでしょう? 才能ある子を見るの」
「……うん、そうだね。自分の才能だけを前世は磨いてきたけれどそれとは違う楽しさがあった。君のおかげでこの楽しさに気づけたよ」
「そう思うのならこれからも頑張ってね。新米教員さん」
アリアはユリアのほうを見ながらくすりと笑った。その様子を見ながら初出勤にしては上出来かなとユリアは内心思った。
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