最後の約束
小説王に俺はなる!!
第1話 最後の夏、父と
翔太は、いつものように自分の部屋で目を覚ました。カーテンを開けると、薄曇りの空が広がっている。夏休みが始まったばかりだというのに、どこか元気が出ない。
「あー、もう、つまんねぇな……」
ぼやきながら、翔太はベッドから飛び起きた。普段ならすぐにゲームをしたり、友達と遊びに行ったりするのが夏の定番だ。しかし、最近はそれもどこか気乗りしない。
部屋を出ると、リビングで母親が朝食の支度をしていた。
「翔太、今日はお父さんと一緒に買い物行くんだろ?」
「え?」
翔太は驚いて母親を見た。父と出かける予定なんて、全然覚えていなかった。
「そうだよ。昨日、お父さんが言ってたよ。君と一緒に買い物行きたいって。お父さん、仕事忙しいからなかなか君と過ごす時間が取れなくて」
母親の言葉に、翔太は少し黙った。和也、父親の顔が浮かぶ。その顔は普段からどこか硬くて、翔太にとっては少し遠い存在だった。
「……まあ、いいけど」
「じゃあ、準備しておいてね。お父さん、今日は早く帰ってくるみたいだから」
「わかった」
翔太は、少し不安げな顔をしながらも、部屋に戻って服を着替え始めた。
夕方、翔太は父・和也と一緒に外に出るために玄関で待っていた。和也は少し遅れて出てきた。スーツ姿で、普段通りの無表情だが、どこか疲れているように見える。
「お待たせ」
和也は軽く笑って、翔太の頭をポンと撫でた。その手が少し冷たく感じる。翔太は気のせいだと思い込むように、足元を見る。
「今日は何を買うの?」
「それはお楽しみだよ」
和也は穏やかに言ったが、その顔にはどこか硬さが残っている。翔太はその違和感に気づきつつも、無理に会話を続けることにした。
二人は近所のショッピングモールへ向かい、食料品を買ったり、翔太が欲しいものを探したりして過ごした。途中、和也が偶然見かけた家族連れと話す場面もあった。和也はその家族ににっこりと笑いかけ、普通の父親のように振る舞っていたが、翔太はその笑顔に少し違和感を覚えていた。
「父さん、なんか最近、笑顔が少ないよね?」
思わず口にしたその言葉に、和也は驚いた顔をして翔太を見た。
「そうか?」
「うん。……なんか、ちょっと元気なさそう」
和也は黙って歩き続け、やがて言った。
「最近、少し忙しくてね。でも、大丈夫だ」
その言葉には説得力がなかった。翔太はそれ以上は何も言わず、黙って和也の横に並んで歩き続けた。
家に帰ると、和也はいつも通りソファに座り込み、疲れた様子でため息をついた。翔太はそれを見て、何かを感じ取っていた。だが、無理に話しかけることはできなかった。
その夜、夕食の後、和也は突然言った。
「翔太、ちょっと話がある」
翔太はその言葉にびくっと反応した。どうして、急にそんなことを言うのだろう?
「どうしたの?」
和也はしばらく黙っていたが、やがて深呼吸をして口を開いた。
「実は、お父さん……余命半年だって言われた」
その言葉に、翔太は硬直した。目の前の和也が、まるで他人のように遠く感じた。言葉が出ない。
「余命半年って、どういうこと?」
声を震わせながら、翔太は言った。
和也は静かに目を伏せた。
「病気だ。お前には言ってなかったけど、お父さんは病気で、もう治らないんだ」
その言葉に、翔太は震えが止まらなかった。
「なんで、早く言ってくれなかったんだよ!」
翔太は涙をこらえながら、声を荒げた。
「お前が死ぬなんて、信じられない!」
和也は黙って座り込んだ。
「言わなかったのは、お前に心配かけたくなかったからだ。でも、もう無理だ。これからはお前と一緒に、少しでも時間を大切に過ごしたいと思ってる」
「……父さん、嘘だろ?そんなの嘘だよ!」
翔太は叫び、そしてそのまま部屋を飛び出した。
「翔太!」
和也の声が背後から追ってくるが、翔太は振り返らなかった。
その夜、翔太は自分の部屋に閉じ込めた。心の中で、父が死ぬなんて信じられなかった。
でも、それは確かに現実だった。
「お父さんがいなくなったら、どうすればいいんだ……?」
翔太は自分が涙を流す理由も、悲しみの意味もわからなかった。ただ、胸が苦しかった。
窓の外に月が浮かび、静かな夜の空気が部屋に流れ込む。
翔太はその冷たい風を感じながら、初めて本当の意味で父の大切さを理解し始めた。
「どうして、もっと早く気づかなかったんだろう……」
心の中で、ただひたすらに父に対する思いが募っていく。
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