第13話
「——お嬢様ぁぁぁああ!」
この場で聞こえる筈のない声が聞こえた。頭上から。
ズドン!
舞い上がった土煙が乱れた気流を可視化する。
地面を陥没させる勢いで着地したソレはゆっくりと立ち上がり、その身に纏うメイド服をその影に映した。
土煙が晴れると、そこには泣きそうな顔のフランがいた。
「ご無事ですか、お嬢様!」
「うん、それはこっちのセリフではあるかも」
もの凄い勢いで降ってきたけど、大丈夫?
駆け寄ってきたフランは、私の右足を見て顔を真っ青にした。
「お、お嬢様、その足は」
「ああ、ちょっとヘマしちゃった」
てへ、と舌を出してみると、フランは真顔で私を見下ろす。
あれ? スルー? やめてよ。私が痛いヤツみたいじゃん。
「それをやったのは、アイツですか?」
「うん、まあ」
「わかりました。直ぐにあの首を取って来るので、少々お待ち下さい」
そう言ってフランは、長いスカートをフワリと舞わせ、太ももに隠していたナイフを抜いた。
「あの時の従者か。チッ、アイツきっちり殺さなかったのか」
フランの巻き上げた土を巻き込んで茶色くなった巨大な風の球をフランに向けて放った。
いくらフランの変態的防衛力でもアレを防ぐのは無理だ。それでも、フランは両手にナイフを持って迎え撃とうとする。
しかし、そもそも風の球はフランまで届かなかった。
グオオォォォォ!
天を衝き、地を揺らし、大気を震わせる竜の咆哮が魔術を掻き消した。
バキバキと木々を薙ぎ倒しながら、白竜とその背に乗る純白の騎士が私達の前に舞い降りる。
「遅くなってすまない、ブルーロータス。もう大丈夫だ。よく頑張ったな」
白竜フラウから飛び降りたクラウディア先生が、ぽんぽんと私の頭を優しく撫でた。
あ、やばい。涙出そう。
「ヤツを捕えるのは私に任せてもらおう。君は彼女の治療を」
「はっ! そうです! お嬢様、今治します!」
フランはナイフを投げ捨て、ガッと私の肩を掴んだ。
痛い痛い。あと鼻息が荒い。怖い。
「いや、これくらい唾つけとけば治るから」
「いけません! 私が治します!」
有無を言わさず、フランは私の唇に自分のソレを重ねた。更に、舌を無理やり捩じ込んでくる。
これは、フランの変態性が暴発したわけではない。
フランは特殊な体質で、体に魔術式が刻まれているというか、フランの体自体が魔術式のようなもので、体に魔力を巡らせる事で魔術を発動させる事ができる。
その魔術は治癒魔術で、対象は自分だけだが、例外がある。粘膜接触をする事で治癒範囲をその相手まで広げる事ができる。
だから、これは治癒の為に仕方なくやっている事なのだ。
「んっ……はぁ……おじょうさまぁ……」
治癒の為に仕方なくやっている事なのだ!
別にいやらしい事をやってるわけじゃないから! だからクラウディア先生、チラチラこっちを見ながら耳を赤くしないで下さい!
「では、フラウ、彼女達の事を頼んだ。その、あまり邪魔はしないようにな」
やめて! 気を遣わないで! 治療だから!
フランの魔力が口から流れ込んできて全身を巡る。右足の痛みが徐々に引いてきた。
ほらね! ちゃんと治ってるから!
「フラン、もうだいじょう——」
「おじょうさま……はぁ、んっ……」
おい! 離れろ! 私はもういいから! 私よりシアンの方が重症なんだよ!
無理やりフランを引き剥がすと切なそうな表情で、親指の腹で唇を拭った。なんかちょっとえっちなのやめろ。
「フラン、シアンの傷は治せる?」
「どうでしょう。お嬢様とアイリス様以外に試した事はないので。恐らく、お嬢様が魔力を与えた方が効率が良いかと。ただ、お嬢様の娘であるフランと口付けするのは、背徳感があって私としてはそれはそれでアリなので、試してみるのも吝かではありません」
「本当に止めて。フランに近づかないで、変態」
「冗談ですので、そんな気持ち良い視線を向けないで下さい」
ダメだ。コイツはもう手遅れだった。何をしても喜ぶ変態にはどうやって対処すればいいんだ。誰か教えて。
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