第6話

「おかえりなさいませ、お嬢様」


 上級貴族寮最上階の一室。二人のメイドが主を出迎える。

 侯爵家の長女如きには些か不相応な、過剰なまでに豪勢な部屋。本来であれば公爵家以上の子息女が使うべき部屋を、スピカは我が家のように闊歩する。


「マルタさんとロレッタさんを呼んでくださる?」

「畏まりました」


 鞄と上着をメイドに預け、スピカは寝室に入る。


 スカート、シャツ、靴下と足跡のように着ている物を脱ぎ捨てながら窓辺に向かう。

 遂には下着までも脱ぎ捨て一糸纏わぬ姿となったスピカは、窓から向かいに建つ下級貴族寮を見下ろす。


 銀の視線は寮の一室、窓辺に座りティーカップを傾ける青い髪の少女に注がれている。

 少しでも近くで見ようと、スピカは窓に張り付くように体を寄せる。隔てる物の無い小さくも張りのある胸が押し潰され、荒い呼気がガラスを曇らせた。


「ああ、美しい。なんて美しいのでしょう。少しくらい味見しても……いけません。デザートは最後までとっておかなければ」


 少女が少し顔を上げれば、無様に窓に張り付いているスピカの裸体は余すとこなく見られてしまうだろう。その事が余計に体を火照らせる。


 コンコンコン、とノックの音が聞こえた。


 スピカは振り返り、窓の縁に小さな臀部を乗せる。


「どうぞ」


 ノックの主は緊張した面持ちで寝室へと足を踏み入れる。そして、正面で堂々と裸体を晒すスピカに、二人は頬を朱に染めながらも視線は逸らさない。


「さて、弁明があるのでしたら聞いて差し上げますよ」


 クスッ、と妖艶に微笑むスピカに、ロレッタは既に思考を奪われてしまっている。

 その様子にマルタは唇を噛み、意を決して口を開いた。


「あの者の家は第二王女派です。ご実家に知られれば、スピカ様の立場が悪くなります」


 マルタは、少女から得た情報を隠した。それは少女を守る為であったが、同時に自らの喉元にナイフを突きつける事になる。


「ふふ、わたくしの事を心配なさってくれていたのですね。嬉しいです。ですが、嘘はいけませんね」

「嘘、ですか?」

「ブルーロータス家は近いうちに長女が家を継ぎ第一王女に鞍替えします。その事を、貴女達はあの方から聞いていますよね?」


 ドクン、と心臓が跳ねるのをマルタは知覚した。

 全て知っていた。その上で泳がせて反応を楽しんでいたのだ。


「申し訳ありません」

「ふふ、素直に謝るのは良い事ですよ」


 この後の展開に期待してしまっている。胸が高鳴ってしまっている。抗えない興奮に抗う事は既に諦めている。マルタはもう逃れる事はできない事を知っている。


「ですが、嘘は良くありませんね。少しお仕置きが必要です。来なさい」


 ベッドに腰掛けたスピカの元へ、マルタとロレッタは吸い込まれるように近づく。

 二人をベッドに押し倒し、スピカは艶やかな唇に舌を這わせた。

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