第一章2 穏やかな朝と不思議な少女

王都のような街の門を出て歩き、森を少し抜けた先に小さな村があり、二階建ての木の扉の店が見えてくる。


「着いたよ。」


看板には''Caf Lune''(カーフ・リュンヌ)と刻まれている。

扉の隙間から、あたたかな香ばしい香りとパンの焼いた匂いが漏れてきていた。


(いい匂い、これはコーヒーかな、、)


扉をくぐると、――カランと小さな鈴が鳴り、

中は柔らかな灯りに包まれ、木のテーブルと陶器のカップが並んでいた。


その時、カウンターの奥から、ふわりと薄いミルクティー色の髪を後ろでお団子にまとめた少女が顔を出した。

見た感じ同い年くらいかな。


「アルフさん、おかえりなさい。……今日は早いですね?」


「いやぁそれが少し面白い拾い物をしてね」


(…拾い物って、、)

目を細めながらフユキは不貞腐れた表情をする。


その細めた目で少女の方を横目に見ると彼女は申し訳なさそうに、はにかむように笑ながらフユキの方を見ていた。


その表情に、フユキは一瞬だけ美有の笑顔を思い出した。


その瞬間全身の力が抜け、横に倒れるようにして気を失っていた。





香ばしいパンの匂いと、木を焦がしたような温もりが鼻をくすぐった。


フユキは目を細めながら、

「……夢、じゃなかったんだな。」とボソッと言い、起き上がると、薄い毛布の端に猫のような生き物が丸まっていた。もふもふだ。

灰と白の綺麗な毛並み、琥珀色の瞳。尻尾の先がゆらりと揺れる。


「お、おはよう……誰?」


その小さな体はぴくりと動き、大きな口を開け「みゃあ」と鳴いた。しっぽがもふもふ、、もふもふしたい。


「かわいい……」

フユキがその猫のような生き物を触ろうとした時、奥から声がした。


「ミーネですよ。うちの看板娘。」


顔を出したのは昨日の美しい少女だった。

淡いミルクティー色の髪を後ろで束ね、生成りのゆるいブラウスに袖口はレースのように絞られており、動くたびにふわりと揺れていた。

スカートには手縫いで何度も直された跡がある。手先が器用なのだろう。

首元には綺麗な青いペンダントをしているが、それすらも、少女の美しさの添え物にすぎない。


「ミーネ、またお客さんの上で寝てたのね。ごめんなさい。」

「い、いや全っ然。むしろもふもふで気持ちよかったし。」


ヤバい、、、女子と久々に喋るせいか上手く目を見て話せないし、若干俺今カタコトだったよな、キモがられたよなー、、


少女の隣を見ると、その店の店主だろうか。

赤い帽子を被り小さな丸メガネをかけた、見るからに優しそうなおじさんがニコニコしながらこちらを見ていた。


少女は微笑み、テーブルに湯気の立つカップを置きながら、

「あの人はサトツおじさんこのお店の店主ですよ。」


「サトツおじさん?」


おじさんの方を見ると今度はニヤリとしながらグッドサインをしている。フユキもわけも分からず頭にハテナを浮かべながら謎にグッド返しをしていた。


少女は正面に座り「これは花茶。昨日は大変だったのでしょう?」


「……なんで、分かるんですか!?」


「顔に書いてありますよ。」

と微笑みながら言う。


フユキは頬を触り少し照れくさそうに笑う。

花の香りが喉を通り抜け、胸の奥が落ち着いていく気がした。


「ところで君の名前は?」

ずっと気になっていたので聞いてみることにした。


「私はミトレア」


「ミトレア、さん、、、この世界は、」


「ミトレアでいいですよ。敬語も不要です。

それからフユキさん不思議な格好をしていますね。この国の人じゃないでしょ?」


「たしかに、、って、なんで俺の名前を!?」


寝巻きパジャマ姿のフユキはマヌケな姿でおどろき、背中は昨日倒された時地面に擦れたせいか大きな穴がお気にのパジャマに空いていた。


「アルフさんから聞きました。異形に襲われていただとか」


「そうだ!聞きたいことが山ほどあるんだ!、、その異形てなんなんですか?」


「あなた、異形も知らないの!?あなたこの世界の人間!?」


「いや俺は地球の人間で、、」


「地球?なーに?それー?」


こりゃ伝わらないだろうと思い、

「アルフラムさんは?」

と自分で聞いといたくせに話をすり替える。


「外です。朝の散歩だとか言ってましたけど毎日朝見回りをしているみたいなんですよ。」


「へぇ……真面目だな。俺とは正反対だ、、」


そう言うとミトレアが笑いながら、パンとスープを並べた。

スープの中には野菜と、小さな赤色の豆。


「...いただきます」

「...いただきます」


二人が声を合わせ、静かな朝が流れた。

窓の外では、鳥が優雅に羽ばたいている。

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