第19話 休息の丘
ある日、一人の旅人が、かつてのコミュニティの跡地を訪れた。
彼は、努力集団の一員だった。
しかし、最近、疲れていた。
「休みたいな……」
彼は、呟いた。
そして、丘に登った。
そこで、草に覆われた石を見つけた。
「これは?」
彼は、草を払った。
人工的に加工された跡があった。
「墓か……」
彼は、座り込んだ。
「ここに、誰かが埋まっているのか。」
「どんな人だったんだろう。」
「どんな人生を送ったんだろう。」
彼は、想像した。
きっと、この人も、悩んだのだろう。
努力すべきか、横になるべきか。
そして、どちらを選んだのだろうか。
「教えてくれよ。」
彼は、墓に向かって言った。
「俺、どうすればいいんだ。」
「努力し続けるべきなのか。」
「それとも、もう休んでいいのか。」
答えは、なかった。
ただ、風が吹くだけ。
しかし、その風は、心地よかった。
「そうか。」
彼は、理解した。
「答えなんて、ないんだ。」
「自分で決めるしかない。」
彼は、立ち上がった。
「ありがとう。」
墓に向かって、礼を言った。
そして、丘を降りた。
どこへ行くか、まだ決めていなかった。
努力集団に戻るか。
躺平集団に移るか。
あるいは、一人で生きるか。
でも、それでいい。
答えは、これから見つければいい。
急ぐ必要はない。
ゆっくり、考えればいい。
時には、横になりながら。
さらに時が流れた。
二千年後。
地球は、すっかり変わっていた。
人類は、まだ存在していた。
しかし、文明は、二度と発展しなかった。
なぜなら、人々は学んだから。
文明の発展は、破滅を招く、と。
だから、意図的に、原始的な生活を維持した。
農業はしたが、工業はしなかった。
道具は作ったが、機械は作らなかった。
文字は使ったが、印刷はしなかった。
すべてが、手作業だった。
すべてが、ゆっくりだった。
そして、人々は、二つの生き方を受け入れていた。
努力する生き方と、躺平する生き方。
どちらも、正しいと。
春には、畑を耕す人もいれば、横になる人もいた。
夏には、働く人もいれば、木陰で休む人もいた。
秋には、収穫する人もいれば、それを眺めるだけの人もいた。
冬には、備蓄を管理する人もいれば、ただ暖を取るだけの人もいた。
そして、それで良かった。
完璧な社会ではなかった。
でも、誰も完璧を求めていなかった。
ただ、それぞれが、それぞれの人生を生きていた。
それが、新しい人類の形だった。
かつて僕と藍の墓があった丘は、今では森になっていた。
大きな木が生え、鳥が巣を作り、動物が住んでいた。
もう、墓の痕跡はなかった。
すべてが、自然に還っていた。
しかし、不思議なことに、この丘は「休息の丘」と呼ばれていた。
人々は、疲れた時、ここに来た。
そして、横になった。
木陰で、草の上で、ただ横になった。
何もせずに。
何も考えずに。
ただ、在った。
それが、最高の癒しだった。
そして、十分に休んだ後、人々は立ち上がった。
再び、自分の人生に戻っていった。
努力する人は、努力に戻った。
躺平する人は、躺平に戻った。
でも、誰もが、この丘のことを覚えていた。
いつでも戻ってこれる場所として。
いつでも横になれる場所として。
それが、この丘の役割だった。
そして、それは、僕たちが遺したもの、だったのかもしれない。
努力も大切だが、休息も大切だ、という教え。
頑張ることも必要だが、横になることも必要だ、という真理。
それが、この丘に染み込んでいた。
そして、それが、人々を癒し続けていた。
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