第3話 もしも、あの二人が「恋文とDM」を書いたなら……
夕暮れ。
窓際の光は金色に溶け、教室の机をやわらかく染めていた。
文芸部には、甘い香りが漂う。
清子の机の上には、ピスタチオクリームのタルトとアイスカフェオレ。
「これが“映えるおやつ”よ!」と本人は得意げだ。
一方、紫の机には、桜色の羊羹と緑茶。
淡い香りが立ちのぼり、湯呑みの縁に光がゆれる。
「え〜、それ地味すぎじゃない? インスタで映えんよ」
「食は映すものではなく、味わうものです」
「味わいも大事だけど、見た目もプレゼン力の一部でしょ〜?」
「……まこと、あなたはすべてを“映像”で測るのですね」
「うん、フォロワー数でね」
兼は心の中で思う。
(“カフェラテうまし”よりマシだな……)
そんな“お菓子論争”の
「ねぇ、“好きな人に贈るスイーツ”とか企画したらバズりそうじゃない?」
「……恋を“企画”と呼ぶあたり、すでに俗です」
「じゃあ紫はどうすんの? 本気の恋とかしたら」
「……手紙を書くでしょうね」
「手紙⁉ ウチなら即DMで済ますわ」
清子はスマホを掲げ、画面に映るハートスタンプを見せつけた。
「百文字以内で愛を伝える時代、マジ便利じゃん?」
紫はそっと顔を上げる。
長いまつげの影が机の上に落ちた。
「百文字では、人の心は収まりません。文字とは、思いの器。小さすぎれば、こぼれてしまいます」
「え〜、じゃあ何文字ならいいの?」
「……一生では、足りません」
沈黙。
そして、兼は胸の奥でつぶやく。
(うわ、名言っぽい……けど、重っ)
清子は首をかしげる。
「でもさ、紫って、好きな人とかにガチで手紙書くの?」
「……ええ。たとえ返事がなくとも、言葉は残ります」
「それ、ちょっと切ないね」
「切なさこそ、恋の真。“あはれ”とは、報われぬ想いの輝きなのです」
「報われなくていいの!?」
「恋とは、求めぬところに花開くもの」
清子はタルトのピスタチオをスプーンで崩しながら、
小さく息をついた。
「……ウチ、もしかして、“あはれ”体験してんのかも」
「おめでとうございます」
「祝うなっ!」
兼は笑いをこらえながらノートを閉じた。
「まあ、恋文もDMも、結局は“誰かに伝えたい”ってことなんだよね」
「伝わらない方が、美しいのです」
「伝わってバズる方が、尊いっしょ」
窓の外、夕暮れの光が金色にゆらめいた。
甘くて、少し苦い――
それはまるで、恋と菓子の後味のようだった。
――恋の形は変われども、待つ心だけは、千年を越えても変わらない。
(つづく)
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