第3話 悪ふざけの暴走と身体の熱


 佑樹の股間に向けられた文香の視線は、優等生である彼女の理性という名の防壁が、既に崩壊寸前であることを示していた。その瞳に宿る抑圧された性的な好奇心は、菜月の無邪気な挑発よりも、佑樹に深く、重い衝撃を与えた。彼の屈辱的な秘密が、親友の恋人の心を揺さぶるという、この倒錯した事実に、佑樹の心臓は激しく鼓動していた。


 菜月は、床の上から立ち上がり、佑樹のベッドへと這い上がってきた。彼女の体からは、微かな雨の匂いと、ホテルのアロマとは異なる、甘い汗の混じった女性の体臭が漂ってくる。その匂いは、佑樹の理性を微かに揺さぶり、緊張感を高めた。


「ふうん、膨張率の問題ね。つまり、今はデカいってことだろ?」


 菜月は、そう言いながら、佑樹の腰のあたりに座り込んだ。彼女の丸い瞳が、まるで獲物を見つけたかのように輝いている。彼女は、この状況を幼馴染同士の悪ふざけという、最も安全な枠組みに閉じ込めようと試みているが、その行為自体が、既にその枠を大きく逸脱していた。


「やめろ、菜月。小学校の時の悪ふざけではないのだから、いくらなんでも、冗談が過ぎる」


 佑樹は、声のトーンを下げ、最後の理性を絞り出して警告した。彼は、この行為を「小学校の時の無邪気な悪ふざけ」という過去のカテゴリーに戻すことで、現在の行為が持つ性的な意味合いと、彰太への裏切りという罪悪感を否定しようと試みた。彼にとって、この言葉こそが、友情の境界線を死守するための最後の砦だった。


 しかし、菜月の能動的な好奇心は、その言葉を最も残酷な形で打ち破る。


「うんうん、一緒にお風呂に入ったり、スカートを捲られたり、パンツまで摺り下げ合ったりしたこともあったわね」


 菜月は、楽しげに過去の記憶を列挙しながら、佑樹の警告を無効化した。彼女の瞳は、「ほら、私たちは最初から境界線なんてないのよ」と、佑樹の自己欺瞞を容赦なく突きつけている。


「他の女の子では、なおさら相談できないでしょう?」


 その言葉は、優しさとも皮肉ともとれる、複雑な響きを持っていた。菜月は、佑樹の「性的トラウマ」という弱みを、「特別な幼馴染だからこそできる献身的な行為」として再定義し、彼が抵抗できない状況を作り出したのだ。この行為は、佑樹の性的承認欲求という心の傷を突く、最も効果的な方法だった。


 佑樹は、その言葉に、全身の力が抜けるのを感じた。彼女の言う通り、彼にはもう、この屈辱的な秘密を打ち明けられる相手はいない。菜月と文香だけが、彼の欠陥を知り、そして今、それを乗り越えさせようとしている。彼は、この泥沼のような状況を、受け入れるしかないと悟った。


 菜月は、佑樹の沈黙を、屈服と受け取った。彼女の指先が、躊躇なく佑樹のジーンズのボタンを外し、ファスナーを下ろしていく。硬い布地の摩擦音が、ホテルの部屋の静寂の中で、異様なほど大きく響いた。それは、彼らの長年の友情が、今、決定的に破られていく音だった。


 佑樹の心臓は、警鐘のように激しく鳴り響いた。彼の理性は「止めろ」と叫ぶが、下半身は、幼馴染という二人の女性の体温と匂い、そして背徳的な状況によって、既に甘美な屈服を始めていた。彼の股間が、ジーンズ越しにもわかるほどの硬さをもって、鼓動を打ち始めている。この屈辱的な興奮こそが、彼が元カノに振られた後に渇望していた性的肯定の歪んだ形だった。抵抗の意思と、欲望の衝動が、彼の体を内部から引き裂こうとしている。


 菜月は、佑樹の微かな抵抗を「照れ隠し」として受け取った。彼女の指先が、下着の中に滑り込む。彼女の指が、熱を帯びて怒張した佑樹の性器の根元に触れた瞬間、佑樹の口から制御不能な吐息が漏れた。彼の身体は、既に彼女の欲望に完全に反応している。


 直後、菜月は勢いよく、佑樹のジーンズと下着をまとめて引き下ろした。


 薄暗いラブホテルの照明の下で、佑樹の性的トラウマの原因となった、規格外に大きく、熱を帯びた男性器が、白く硬い肌を露わにした。そのあまりの光景に、菜月は一瞬、息を呑み、そして興奮した笑みを浮かべた。その眼差しには、驚きと、この肉塊を独占する者への優越感が入り混じっていた。


「マジかよ、佑樹。デカすぎだろ。確かに立派だわ」


 菜月は、感嘆とも驚愕ともつかない声を発した。彼女の視線が、佑樹の右膝にある、交通事故の際にできた白く硬い手術痕と、その上にある熱を持った肉塊を交互に見た。彼の「英雄的な過去」と「屈辱的な現在」が、肉体的な対比として、彼女の前に晒されたのだ。菜月は、その肉塊が、佑樹のコンプレックスの原因であり、同時に彼女の好奇心を満たす特別な鍵であることを理解した。彼女の口元が、挑戦的な弧を描く。


 そして、その時、文香は、ついに理性の限界を超えた。


「っ、ごめんなさい、佑樹君」


 文香は、か細い謝罪の言葉を口にした瞬間、自分の顔を覆っていた両手を一気に下げた。彼女の黒縁眼鏡が、佑樹の性器を詳細に捉える。文香の白い浴衣の裾が、ソファから床へとわずかに滑り落ち、その豊満な胸元から、彼女の弾力のある豊かな胸郭が、喘鳴のような呼吸に合わせて激しく上下しているのが見えた。彼女は、知識と理性で抑圧してきた自身の性的な好奇心を、もはや隠すことができなかった。その瞳は、文学少女という仮面の下に隠されていた、官能的な小説を読み耽る彼女の内なる激情を、完全に映し出していた。


 文香は、佑樹の裸の股間に、無遠慮なほど長く、熱を持った視線を注いだ後、自分の手を自制心を失ったかのように震わせながら伸ばし、佑樹の性器の根本の太さに、恐る恐る触れた。


「っ、熱い……」


 文香の指先が、佑樹の性器の膨らみに触れた瞬間、彼女は小さく呻いた。彼女の冷たい指先と、佑樹の熱を帯びた肉体との皮膚の接触が、佑樹の屈辱的な興奮を倒錯的な快感へと一気に変貌させる。文香の瞳には、彰太の触れ方とは全く異なる、生々しい肉体の要求が、満たされるかもしれないという予感が宿っていた。彼女の指は、性器の硬さと、その熱を確かめるように、僅かに圧力を加える。


「文香! アンタまで何やってんだよ!」


 佑樹の制止よりも早く、菜月が嫉妬心と独占欲を剥き出しにし、文香の指先を払い退けた。菜月は、佑樹の膨張した肉塊を、自身の小柄な体躯と甘い体臭の中に、強引に抱え込んだ。


「先は、私がもらうんだから!」


 菜月は、佑樹の性器全体を、彼女の小柄な胸部と、豊かな唇が触れるか触れないかの位置まで引き寄せた。佑樹の股間は、二人の女性の甘い体臭と、罪悪感による極度の緊張によって、限界まで怒張していた。彼は、二人の幼馴染の欲望によって支配されるという、倒錯的な全能感と、止めようのない罪悪感の板挟みになっていた。


 この行為は、もう誰にも止められない。佑樹の屈辱的な秘密は、幼馴染二人の間に、友情を越えた、性的な共犯関係を、一瞬にして成立させてしまったのだ。彼の頭の中で、「どうにでもなれ」という、人生の目標を失った者特有の虚無的な諦念が、静かに響き渡った。


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