配信に興味のない私と3度の土下座
突然、結界の中に突入してきた女の人にびっくりして、カレー皿をひっくり返しかけた。金髪金眼で、アイドルみたいに可愛らしい顔をした人だ。多分20歳くらいだろうか。高めの位置で結んだ肩くらいの長さのツインテールで、インナーカラーなのか水色がちらほら見えてるのがお洒落。身長は多分170くらい。スタイルも出るとこ出てる感じで羨ましい……顔つき的に、多分純日本人だと思う。
ダンジョンが出来てから、何故だか知らないが髪や目がいろんな色になるようになった現代の中では、オードソックスな配色だ。ちなみに私は、白髪に蒼目。
それにしても、なんだかすごい息を切らしているし、汗塗れだけど、何かあったんだろうか…?イレギュラーが発生したとか?
「あの、大丈夫ですか…?」
「こっちのセリフなんですけど!?」
「えぇ……?」
なんか怒鳴られた。私が何をしたって言うんだ。しばしの硬直ののち、彼女は少し息を整えて、私に向かって再度質問を投げかけた。
「その、本当に大丈夫ですか…?」
「……………???」
「なんで首を傾げるんですかそこで!」
「ご、ごめんなさい…」
いや、本当に私が何をしたって言うんだ!ソードスコルピオ殲滅してドロップアイテム回収してショートソード作って砂ウツボ食べてただけだぞ…!
女の人は、息を整えつつ汗を拭う。
「はぁはぁ……ふぅ……いえ、すいません、説明不足でした。その、あなたが、ダンジョンを落ちていったようなので、心配で降りてきたんです」
…………?私が、ダンジョンを落ちた……?……もしかして最初のショートカットのことだろうか?
「あれはその……ここに来るためのショートカットで…」
「シ、ショートカット…?」
「はい。浮遊魔法で着地すればいいだけなので、楽なんですよ」
「………………え、じゃあ、私の勘違いってこと……?」
「はい。なんかその……すみません……」
「……はぁ〜……」
ふかーいため息をつかれてしまった。話を聞く限り、飛び降りてショートカットした私を心配してここまで来てくれたようだし、本当に悪いことを……いや、待てよ?ここに来たのは数時間前だからもしかして……
「もしかして、私が落ちていくの見てから今までずっと駆け下りてきました…?」
「…………えぇ、まぁ……」
"数時間ずっと駆け下りてきたのか…”
"めっちゃいい子やん…”
"なお、当人は砂ウツボに夢中だった模様”
"これはギルティ”
若干気まずそうに目をそらす女の人。ぱっと見、武器は後ろに担いでいるハルバードのようだから、間違いなく近接職なわけで。となると、碌なショートカットも何もなくここまで駆け抜けて来たはずだ。自分の行動を思い返して、冷や汗が噴き出す。この人は、数時間ずっと、私を心配してここまで駆け抜けて来てくれたというのに、私と来たら。砂ウツボの白焼きを堪能しカレーをのんびり煮込んでたわけで……さ、流石に殺されても文句言えないぞ…!土下座したら許してくれるだろうか…!?即座にカレーを置いて正座し、そのまま土下座の体勢に移行。
「大変申し訳ありませんでした…!」
「ち、ちょっと!何やってるの!?」
「どうか許してください…!」
「許すも何もないから!?やめて、やめてってば!……って力強!?」
「命だけはどうか、どうか…!」
「そんなことしないから!!」
無理矢理起こそうする彼女と土下座し続ける私。2人ともが冷静になるまで、しばらく続いた。2人とも混乱してたんだ。しょうがないよね。
お互い、変に息を切らしながら、とりあえず落ち着いて話をすることに。
「今回は、本当にご迷惑をおかけして…」
「い、いや、私の勘違いだったから気にしなくていいって!」
「そういうわけにも…」
「本当にいいってば!何事もなく、無事で良かったよ」
正座したまま萎れていると、そんなふうに慰めてくれる。良い人だ……なんか色んな人に好かれてそうな人だなーとか、敬語が抜けてる状態が素なんだろうなーとか考えていると。くぅー…っと可愛い音が。女の人が、お腹を押さえて顔を赤らめていた。
「う……」
も、申し訳なくて死にたくなってきた。だって、この人がわざわざここまで来たのも、今お腹空いてるのも、全部私のせいなのである。確かに彼女の勘違いから始まったものかもしれないが、それでも原因は紛らわしいことをした私なわけで…
「あの、良かったらカレー食べます…?」
「え、いいの…?」
「むしろ食べてくれないと、申し訳なさすぎてちょっと…」
「ほ、ほんとにいいの?結構食べるよ私」
「どうぞどうぞ」
とりあえず、皿にカレーを盛り付けスプーンと共に彼女へと渡す。本当に、食べてくれないと申し訳なさで死ぬぞ私は…!好き放題生きている自覚がある分、他人の善意を無駄にするような、こういった迷惑の掛け方は本当に申し訳なくなる。
おずおずと、カレーを受け取る女の人。こちらとカレーを交互にチラチラ見ている。気にしなくていいから食べてくれ。私の分のカレーを持つと、若干安心したような空気になる。私の分があるかどうかの心配してくれたのか。本当に、良い人すぎないかこの人……!まぁ、良い人だからここにいるんだけど……う、うぐぐ…ざ、罪悪感が…
か、彼女の性格的に、私が先に食べたほうが気兼ねなく食べてくれそうなので、さっさと食べてしまおう。
「いただきます」
「い、いただきます!」
カレーをぱくり。うーむ…米と一緒に食べると、若干味が薄いような。思ったよりもウツボから水が出ているようだ。もうちょっと水を減らすか煮込むかするべきだな次は。ウツボもぱくり。皮に焼き目を付けたのが良かったのか、アクセントにいい感じだ。さっきの白焼きよりも身のトロトロ感が出ている。
女の人の方をちらりと見ると、ギリギリ下品な感じはしないくらいの速度でかき込んで食べている。お口にあったようで何より。
「これ、美味しいね!」
「お口にあったようでよかったです」
「特にこの……魚?が美味しいな。何の魚なの?」
「それはですね、す………」
「す?……大丈夫!?顔色ヤバイよ!?」
さーっ……と自分の顔から血の気が引く音が聞こえた。顔が真っ青になっているらしく、女の人から心配される。や、やばい。完全に忘れてた…!これ砂ウツボのカレーだって説明してない!!ど、どうしよう…!?ほ、本当のことを話すしかない……よね。嘘吐くのは良くないし…!
再びカレー皿を置き、正座に移行。いつでも土下座を出来るようにしてから事実を告げる。
「えっとその……す、砂ウツボです……」
「…………え?」
「ですから、その白身魚みたいなやつは、砂ウツボなんです……」
「……砂ウツボ……?あの……?」
「その、おそらく思い浮かべているやつです…」
「ここのダンジョンに出てくる、穴から飛び出して来るあの……?」
「その砂ウツボです…」
「………………???」
ポカンと口を半開きにした彼女の背景に、宇宙の幻覚が見える。 完全に情報の処理ができてない顔だあれは。それはともかく。
「本当にごめんなさい!説明もしないで食べさせてしまって…」
2度目の土下座である。とにかく頭を下げるが、もう本当にダメだと思う。これは許してもらえると思っていない。突然モンスターを食べさせられて許す人なんているわけがない。あまりにも情けなくて涙が滲むが、泣くわけにいかない。加害者に泣く権利などない。
沈黙が痛い。自分の心臓と呼吸の音がうるさい。
「………あのさ、顔上げてくれる?」
「……はい」
おそるおそる顔を上げて、彼女の顔を見る。なんというか、呆れているような表情だ。怒ってる感じじゃ、ない…?
「いくつか質問するから、正直に答えて?」
「……はい」
「とりあえず、このカレーは毒物だったりする?」
「……味見の時点で、耐性スキルが何も反応しなかったので、そういった類いではないです」
「……次に、これを食べさせたのは、私への嫌がらせが目的?」
「それは……」
「それは?」
「……それは違います。その、信じてもらえないと思いますけど、本当にただ、せめてものお詫びにごはんを。とおもって……」
「そう……最後に、普段からあなたは……モンスターを食べているの?」
「…………はい」
「…………そっか」
最後の方は声が震えてしまった。再びの沈黙が痛い。視線が下に行く。唇を噛みしめる。膝の上に置いた手を握りしめる。涙が出そうになる。全部、全部私のせいなのに……
彼女から、空になった皿を差し出された。よくわからないがとりあえず受け取る。
「カレー、もう一杯もらってもいい?」
「…………え"!?」
「ダメ?」
「い、いえ、どうぞ!!」
米とカレーを再びよそって彼女に手渡す。ありがとう。とだけ言って彼女は再びカレーを食べ始めた。え、どういうこと…?
黙ったまましばらく食べ進め、半分ほど食べたところで、彼女は口を開いた。
「正直、言いたいことは色々あるよ。あんなに心配して駆け下りたっていうのに、当人はのほほんとカレー作ってて、結構ムカついたしさ。ご飯食べさせてくれるなんて優しいなーって、思ってたらモンスター食べさせられて、何してくれてんだ!って」
「…………」
「でもさ、あなたの態度とか表情とか見てると分かるよ。本当にただ、心配かけた私に謝りたくて、何かお詫びをしたくて。そして、たまたまそこにあったのが、このカレーってだけなんだろうなっていうのはさ」
「でも、私がやったことは……」
「まぁ、確かにそうだけどね……でもね」
真っ直ぐこちらを見てくる、綺麗な金色の目。目があって、しばらくして、彼女はにっこりと笑った。
「このカレーが美味しいから許す!」
「……ぇ?」
「だって本当に美味しいもんこれ。ちょっと薄いけど、それがなんていうかこう……学校行事で作ったカレーって感じで、外で食べてる今の雰囲気にあうしさ」
「え、あの……」
「それに、こんな機会なんてないと、砂ウツボがこんなに美味しいなんて知れなかったと思うし。ね?」
「あ……ぅ……うぅ……」
「ん?あー、もう泣かないの……よしよし」
なんだそれは。なんでそんな……色んな感情とか考えなんかが、頭の中をぐちゃぐちゃにして、とうとう限界になってしまって、泣いてしまった。彼女に優しく頭を撫でられる。なんだかその手がお母さんみたいで、私はしばらく泣き続けた。
「その、色々とすみません……」
「いいよ別に。カレー、ごちそうさま」
「はい、お粗末さまでした」
なんというか、今度は羞恥心で死にそうな気分だ。今度は耳まで真っ赤になっている顔を振りながら、カレーの皿を回収し、水で適当に流す。洗うのは家でやるので、表面の汚れを流すだけだ。カレーはまだ少し残っていたので、タッパーに詰め直す。寸胴鍋と飯盒も同じく水で流して、コンロと食器の類と一緒に収納魔法に放り込む。
「その、上までお送りします。浮遊魔法で飛べばすぐですし、2人分なら大した負担になりませんから」
「え、ホントに?ありがとう!」
「こ、こんどこそちゃんとしたお詫びを……」
「ふふ、それはもういいってば」
結界石の結界は、発動した地点に残り続け、時間経過で勝手に消えるか、こっちで消すかになる。遠隔でも消せるので、上についてから消すことにする。忘れ物がないか確認してから彼女に背中に抱きついてもらい、飛ぶ準備だ。武器のせいもあって若干重いが、問題ない。これくらいなら、すぐに上までいける。
「じゃあ、いきますよ」
「うん……お、おお!?ホントに速いね!」
1分ほどで上まで着いた。モンスターは魔力で威圧して追い払ったので、安全に登れた。今度こそちゃんとお詫び……お詫びなのかこれ?ま、まぁ、お詫び……ということに……
そのまま、二人で少々雑談しつつ、ダンジョンの入り口まで戻る。色々と、本当に色々とあったが、彼女とはここでお別れだ。
別れの挨拶をしようと彼女の方を向くと、なんだか変な顔をしている。なんだろう?私の胸の辺りを見ているような…?
「…………ねぇ、それってカメラ?」
「……!…………はぃ」
「撮ってたり……する?」
「その、撮ってるというか……」
「というか?」
「は、配信……してます……」
「……………」
私は、彼女に対して、3度目の土下座をした。最後までなんにも上手くいかなかったよ本当に!!アーカイブを消すように頼まれたので、目の前で配信を切って、アーカイブを消した。
後日改めてお詫びをしたいと言って、彼女と連絡先を交換させてもらった。本当に、何から何まで迷惑をかけ続けて死にたくなった一日だった。
”乱入者来たときはどうなるかと思ったわ"
”ただのめっちゃ良い人だったな"
”あまりにもてぇてぇやり取りで死にそう"
”丸く収まって良かったよ。特に砂ウツボカレー"
"マジで不意打ちモンスター食は流石にね…”
"アーカイブ消すくらいで許してくれるのマジで良い人過ぎる”
"まぁ、アーカイブは常に消してるから、何も残らないけどな!”
"おかげでまったく登録者数増えないし、過ごしやすくていいよ”
"それな”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます