第7話
『あーヤダヤダ、見せ付けてくれちゃって』
「何よぉー、良いじゃない別にっ」
あたしがベッドに入るとまたアマネセルが出て来た。
あたしの相好は完全に崩れてしまっている。
いわゆる『ノロケ』た表情だ。
だって、こんな幸せなことってなかったもんね。
やっぱり兄妹だった事はショックだけれどさ。
それよりあいつの相棒宣言の方が嬉しくて、あたしの頭の中はそればっかりだった。
『ったくよォ……俺様はこーゆー楽しんでる人間ってのが一番嫌いだぜ』
「なんで? 良いじゃん、幸せって良いもんだよ?」
元天使、って言うアマネセルの肩書が……ちょっと気がかりだったけれど。
今のあたしははっきり言って、そんんなのどーでも良かった。
『誰かの不幸ってのを食って俺たちは生きてるんだよ。だからお前みたいに生きてることをメチャメチャ楽しんでる奴は、だーいっキライなんだ』
面白くなさそうに、蝙蝠バリの羽をばさりと言わせて宙返り。
空を飛べるってなんか面白そうだなあ。便利そうで羨ましいかも。
『何だよ。いくら俺様が美しいからってそう見るな。穴が開くだろう』
「アホか」
……まだ知り合って半日も経ってないけど。こいつって変わってる。
確かにキレーな顔してるわよ。
気の強さを称えているような眼は赤くて綺麗だし、
尖った牙もオプションとしては引き立て役になっている。
背中の羽の真ん中に垂らしている暗紫色の髪。
それとマッチしている異常に白い肌。
線の細い顎の下に目を向けると、ちぎれた鎖の付いた黒い革の首輪。
黒いエナメル系の袖なしから出ている細っこい二本の腕。
伸びすぎた爪に引っ付いた指には髑髏の指輪。
総合的、フロウとは違う意味の美形ってところかしらね。
「あんたみたいに羽があったら良いだろうね。面白そうだもん」
『別に』
アマネセルは天井と平行に静止した。
『最初っから自分が持ってるものなんて、誰もありがたがりはしないだろ。なくしてから精々、惜しいことをしたぐらいに思うんだろーな。貪欲に欲しがってばかりいて、現状に満足できないのは生物のサガなんだよ』
意外としっかりしたことを言ってくるわね、こいつ。
ま、確かにそうかもしれないわね。
『欲しい』って思ったことはあっても『十分』って思うことって少ないもの。あたしだってそのクチだ。悪魔に諭されるとは……ちょっと反省(差別かしらこれって)。あたしって貪欲なのかなあ?
「アマネセルってそう言うところは天使っぽいのにねえ」
『嬉しくねーよそんなこと言われても。俺は天使が嫌で魔界で転職したんだ。だから今の自分が本性って感じだぜ?』
ふーん……。
考えるもんじゃない。
そうだよね、何も考えてない奴なんていないってことか。
あたしやフロウが一緒にいるのも考えることが一緒だってだけで。アマネセルが一緒にいるのも利害一致ってだけ。
『敵』はただあたしたちと違う考えを持っているだけなのかも……ただ『敵』って考えて納得してるだけじゃ不公平なのかもしれない。
あたしはもっと上手にみんなの事を理解しなきゃならないんじゃないのかしら……。
――なんてさ。
そんなの結局エゴイズムなのかもしれない。
『お前、何か妙なこと考えてるだろう』
「え、別にっ?」
やばやば、まだばれちゃダメだよね。
あたし……あたし、いつか絶対、天使も悪魔もフロウもあたしもみんなが仲良く出来れば良いんじゃないかって思ってる。
ハイテンションな頭がそんな事を考え付いたけれど、それは死ぬほど大変なんじゃないのかな。
「ねえアマネセル、天界と魔界ってなんでそんなに仲が悪いの?」
『聖書を読めシスター。まあこうしてずっと冷戦状態だったからな、ここらで魔界がお前らを支援したら、一気に世界中が天地入り混じる混沌とした時代に逆成長して……惑星の一つや二つ滅ぶ大戦争なるかもなー』
あっさりとしたこの言葉を聞いて、あたしは背筋に寒気を覚えずにはいられなかった。
世界の逆成長……そんなことになったらあたしやフロウも死んじゃうのかしら。
そしてまた生まれ変わって出会うのかしら。
あたしたちの今してることすべてが未来に可能性を撒くのだとしたら。
どんな結果になっても、それはあたしの所為……なんだよね。
「それよりも……だわ」
『あん? なんか言ったか?』
「ううん」
あたしの当面の問題は。
フロウが『誰』を愛しているの香なのかもしれない。時間が経って頭が冷えて来ると喜んでばかりはいられないんだわ。
愛した瞬間裏切りが始まる。
フロウが好きなのは、
『マリア』なのか、
あたしなのか。
あたしはそれを虚空に訊ねる。
あくびをして、半日寝っ転がったベッドにまた眠るために潜り込む。
……神が何だってんのよ。
神なんかより、生きてるあたしたちの方がよっぽど大事だもん。
これがラストの願いと言っても、
きっと聞いても叶えてもくれない。
そんな神ならくたばっちまえってんのよ……。
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