第12話:最終目的①
赤い夜だった。
先刻まで その眼に映っていた平和な世界は、一瞬で鮮血に彩られた。
母の愛刀で、母を貫いた父。
突然の惨劇にオウカは現実を受け入れられなかった。
”自覚した悪夢から抜け出せない”
そんな錯覚を覚えた。
満月が放つ光が、朱に染まった世界を照らす。
芸術──というには あまりに悪趣味な美しさを湛えていた。
身体から心が抜け落ちた。自分が空っぽになった。
父に対する復讐心と殺害衝動が その心身を満たすのは、その数時間後だった。
赤い夜を、黄金の月光が照らしていた。
――自然公園の一角、静かにたたずむ大きな樹の下。
オウカは、トコトコと近寄ってきた野良猫の頭をなでながら、太陽光を反射してキラキラと輝く湖を眺めている。
「Hey!そこの可憐なお嬢さん、俺とお茶しない?」
エレナの声が後ろから聞こえてきた。
振り向きながら、答える。
「そうだな、じゃあ訓練所の売店のコーヒーでも」
国衛隊の正規隊員 選抜試験から、1ヶ月が経過していた。
-バシィィッ!-
鈍い音が響き渡る。
正規隊員同士の徒手格闘術の訓練。
その一環――組手訓練。
拳撃。
前蹴り。
肘打ち。
膝蹴り。
組み付き、からの投げ
──からの踏みつけ。
多彩な技が繰り出される。
相手の技を臨機応変に捌き、反撃する。
反撃を受けて、体が吹っ飛ぶ。
多くの隊員たちが、休憩をはさみつつ、幾度となく組手をやらされる。
――戦闘訓練は、武器格闘術に多くの時間が割かれる。
戦争時は、武器格闘がメインとなるからだ。
徒手格闘術は、基本的には 武器破壊・武器奪取された後に行使する技術なので、訓練時間は比較的少ない。
そして、徒手格闘訓練の中でも組手は、月に数回しかやらない。
今日は、その組手が行われている。
”ARレンズに赤マーカーが表示された者を、制圧する”
選抜試験でやった組手試験と 大体同じルールだ。
(ただ、ケガをすると訓練に響くので、
拳にはオープンフィンガーグローブ、頭部には視界を遮らないヘッドギア、胴体にはプロテクター、脛ガード着用)
――組手訓練、開始。
組手は、ローテーションで行われる。
組手訓練は 自分が闘うのはもちろん、他人の闘いを観るのも学びになる。
他者の長所は、自分の学びになる。
そして、他者の短所もまた、自分の、学びになる。
……例えば、相手に接近する際 踏み込みの足が力んだり 体軸が傾いたら、容易に察知されてしまう。
そのような短所を反面教師として自分に戒める、それはとても有効な学びだ。
組手訓練では、敵=赤マーカー・味方=緑マーカー、が表示される。
一方、休憩がてら見ている者には代わりに、対象者の頭上に[組手中](赤 または 緑)と表示される。
表示の色分けは、”誰と誰が敵同士なのか” を、休憩中の者にも わかりやすくする目的だ。
……しばらくしていると、エレナが立ち上がった。
エレナの組手だ。
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