第二十六話……新たなモンスターがスキルを取得したんだが……
「『バクスが初めて会った人間』だって。『恥ずかしいから言いたくなかったけど、この際、私の初めてを全部バクスに捧げたい』って」
「やっぱり流行ってるのか……。それはともかく……何も恥ずかしがることはないんだぞ。誰にだって、どんなことだって、初めての時は必ず訪れるんだから。それをバカにするヤツの方が恥ずかしいと俺は思う。それこそ、記憶でもなくしたのかと思うぐらいに。『お前、二回目からどうやってできたの? 次元跳躍でもした? 初体験が遅い? だから? そんなの勝手だろ』って言い放つね。
むしろ、初めての方が俺は嬉しいよ。それを恥ずかしげに告白してくれたら、絶対にこの相手を、この経験を大事にしよう、してもらおうと思う。早かろうが遅かろうが関係ない。焦って後悔するよりずっと良い。
焦らせるヤツは何を考えてるんだと思う? 自分に得があるから誰かを焦らせてるんだよ。精神的マウントでもある。そういうヤツには騙されないように、自分の信念や考えを日々確認することが重要なんじゃないかな。
俺の周りのみんなには、それこそ周知のことだが、俺は手続きや過程を重視してるんだ。一足飛びは簡単に後戻りできないから。取り返しが付かないことにはしたくないから。逆にそれを重視しすぎて失敗したこともある。でも、それは単に思慮不足だっただけ。その手段自体を否定するものでもない。
おかげで見えてきたんだ。理想のパーティー像が。そして、それはお前達に会って、なお更新された。もちろん、これまで仲間の助けがあって、俺は今ここにいる。俺も仲間を助けたい。まさにそれが仲間であり、互いにそう思えることこそが、俺が理想とする最高のパーティーの十分条件だ。
お前達は、どう考える? 俺からは加入してくれとは言えないんだ。強要防止のためにな。でも……初めて冒険者パーティーに入って、それが最高のパーティーだとしたら、きっと楽しいんじゃないか? もちろん、それを最初で最後のパーティーにするつもりだ。
まくし立ててしまったが、伝わったかな……?」
「バクス……私……感動したよ……。バクスを好きになって良かった……」
「う、うぅ……うぅぅ……」
二人とも俺のアツいセリフを聞いて、涙を流していた。そこまで感動されると恥ずかしいが……。
ん? 二人?
「ちょっと待て! 俺がメムに目をやった一瞬の隙に、蛇から人間に変身してるぞ!」
「え? あ、本当だ!」
「……⁉️ わ、わた、私……ほ、ほん、本当に……」
まだ言葉がたどたどしいが、そこには、お嬢様のような長い黒髪の美少女が全裸で涙を拭き、自分の体を確認しようとしている姿があった。
その涙を俺が拭き取ってやりたいところだが、変身が不十分で、これが分泌された毒の場合は俺が死んでしまうから、慎重に行動する必要がある。
冷静に観察してみると、蛇が慣れない人間の姿に変身したら、少なくとも下半身は蛇のようになるかと思いきや、普通に人間の脚のようだ。できるだけ自然な人間の姿になりたいという気持ちが勝ったのかもしれない。とは言え、その代わりに太い蛇のような尻尾が生えている。一応、ドレススカートで隠せないことはないサイズなので安心した。
「焦らなくていいぞ。時間はあるんだ。お前のおかげでな。そうだな……名前は『フレウ』っていうのはどうかな? ギルドがお前を呼ぶ時の名前から取って短くしたものだが、悪くないんじゃないかな」
「フ……レウ……。うん! フレウ!」
「私の時は、猫の鳴き声二回を捻ったものだったよね。そのままだと、『ママ』と被っちゃうから」
メムの時は、偶然にも記憶操作のスキルと関係した名前になったが、今回はどうなんだろうな。かなり強い感情をフレウから感じたから、すでに後天的スキルを取得している可能性が高い。
「私……嬉しい。バクスの……パーティーに……今すぐに……でも……入りたいって……思ったら……うぅ……嬉しいよぉ……」
「フレウ、俺も嬉しいよ。今すぐにでも抱き締めたいほどだが、その流れている涙が毒なのかを確認したい」
「うん、待ってね……。大丈夫……これは……毒じゃない。全部……確認した方が……良いね……。みんなを……死なせたく……ないから……」
フレウはそう言うと、自身の体の色々な所に触れて、目を瞑りながら一つ一つ分析しているような素振りを見せた。
また、わざと毒を出してみたり、引っ込めたり、それを操れたりできるかも確認していた。
そこで、俺が浮かんだ疑問をフレウに投げかけた。
「毒を引っ込められるようだが、俺にはその毒が皮膚に吸収されたというより、そこから消えたように見えたんだが、気のせいか?」
「多分……これが私の新しいスキルなのかも……。前はこんなこと……できなかったから……。それに、いくらでもこの姿でいられる気もする……。体力が減る気がしない……。何て言えばいいんだろう……状態を最初に戻せるみたいな……限界はあるだろうけど……」
「すごいよ、それ! でも、バクスを赤ちゃんまで戻せたら、確かに怖いもんね。多分、強くもなってるんじゃないかな」
「そうだな。そのスキル、考えようによっては、いつまでも新鮮な気持ちでいられるとも言えるか。フレッシュと言うか、リフレッシュのような……。
俺が初めての方が嬉しいと言ったことと関係があるんだろうか。俺達が毒を受けても最初の状態に戻せれば、みたいな望みも含まれているのかもしれないな。それが可能だとしたら、回復役に最適なスキルだ。あとで色々と試してみよう」
「うん。バクス、好き……」
俺が話しながらフレウに近づき、彼女を強く抱き締めると、彼女からも抱き締め返してくれて、さらにキスもしてきた。
それはすごく甘く、ずっとそうしていたいぐらいに気持ちの良いキスだった。体の疲れも取れていくような感覚だ。思った通り、他者にも効果のあるスキルのようだ。
でも、この気持ち良さ……。まさか、スキルだけじゃなく、この姿のフレウの分泌物には、毒から発展して、薬のような作用もあるんじゃ……。頭もボーッとしてきたし……。
「フレウ! バクスを骨抜きにしちゃダメだからね! そういうのは夜にしないと!」
「あ、ご、ごめんなさい……。私も気持ち良くて、つい……」
「いや、いいんだ……。だがメム、助かった。おかげで仕事中だということを思い出せた……。よし、当初の予定通り、フレウの蛇の姿で、どのぐらいのペースで進めるか一度確認したい」
「うん! バクス好き!」
妙な語尾で了解した後、フレウが蛇の姿になり、俺達を乗せて洞窟の奥へ出発した。
どうやら、スキルのおかげで、頭でなく背中に乗っても問題なくなったとのことなので、そうすることにした。結局のところ、頭に乗った場合、ものすごいスピードで進んで行く際の風圧と、暗闇の中で岩壁が間近に迫ってくる恐怖に耐えられそうになかったからだ。
それから十分後、フレウの背中にしがみついていた俺達の休憩ということで、これまでの道のりをマップに記録しつつ、俺は魔壁までの想定時間を計算した。
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