万夜神酒
蟹文藝(プラナリア)
一章 出会い
誰に
参道を行く者の目は常に
ただ、風と月とが夜ごと我が祠に訪れるだけであった。
だが、不思議なものよ。たった一人だけ。
夜の静けさを
本殿へと黙々と往復し、帰る前にかならず我が祠の前に立ち止まる。
そして、缶に詰められた甘酒を石の上に置き、無言のまま去ってゆくのだ。
その
最初は気まぐれかと思ったが、百夜続き、千夜を超えても途切れることはなかった。
彼は
疲労にも
誰に
何を願っているのだろうか。願っているのは本殿であるため、余には願いを知ることは許されず、知る
ただ、毎夜繰り返される
本殿の
―とは言うものの、本殿と祠に
神といえど
獣の手では缶が開けられぬし、かつて一度だけ
よりによって
油揚げや
その夜も同じであった。
甘酒の置かれた岩が乾いた音を残し、男がくるりと背を向けた
「ちと、待たれよ。」
その声が岩の隙間から
男が振り返る。
闇に沈んだ参道に、白い顔が浮かび上がる。
「…誰」
私は影の
男は目を見開き、息を
「狐?」
「
男は
信じまいとする理性と、
私はその
「その甘酒、余には合わぬ。次よりは供えぬがよかろう。」
男は一瞬ぽかんとして、それから口元を
その
「変な神だな。」
「変で結構。余は
男は言葉を失ったように私を見つめ、やがて小さく首を振る。
それでも胸の奥に
その夜からだ。
男は参拝を終えるたびに私のところに必ず団子や
言葉少なであったとしても、言葉を交わし、「お稲荷さん」と呼ばれるたびに忘れかけていた炎のようなものが胸の中で時を打つ。
なぜだろうか。いつしか私は彼の願いを知りたいと思ってしまうようになった。
だが、それでも知りたかった。
この男が何をこのように身や時間を割いてまで叶えたいと思っているのか。
だが、彼は「あなたのような人には到底教えることはできません。」と悲しげに首を横に振るだけであった。
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