落書きと光の境界で
まるた
1ページ目 世界が変わる
際限なく降り注ぐ雷、止まらない大地の揺れ。眼前には熱く揺れる赤とそこここに傾いたビル群--いや、そもそも俺の視界が傾いているのかもしれなかった。
一体、何が起きているのだろう。むしろ、何が「起きたのか」の方が正しいかもしれない--。
* * *
朱色のコンクリートを行き交う人々を、俺は見やる。朝の光がまぶしく、少し頭が重い。昨夜の飲み会で眠れていないせいだ。
俺はただ、その風景をぼんやりと眺めていた。笑い声、スマホをいじる手、コーヒーの香り…いつもの朝。どこか遠くの世界を見ているような、ありふれた日常だ。
…なのに、胸の奥がざわついていた。昨夜の飲み会を思い返す。誰かの視線、グラスに入るお酒の量、笑い声への同調。どうして夜中までわざわざ残ったのだろうか--答えは、何となく分かっている。
さっさと帰って、家でゆっくりしよう。
ピカッ。
急に視界に広がった白に、目を細める。何かが発光したのか、空を見上げるが雲一つない晴天だ。…とうとう俺の頭痛もここまで来たか、と視線を前に戻すと、周囲を歩く学生たちも少しざわついているようだ。先ほどの発光を彼らも観測したのだろう。大雨に曇天であれば、遠方で雷でも落ちたかと推測できるが…。
右手の甲にひやりと冷たい感覚が落ちる。なるほど、雨が降ったのかと右手に目を向けると、そこには緑色の雫。明らかに雨粒ではないそれは、光沢を出している。いや、「光」を出していると言った方が正しいのではないか。
目を疑いもう一度空を見上げた瞬間、次は目にひやりとした感覚が襲い咄嗟に目を瞑る。一体何が…
ピカッ。
またしてもあの光。
指先が震え始める。俺は世界への違和感を察知した時--
キキキキキキ----‼︎‼︎
耳を劈く奇妙な音と共に、視界が揺れ世界が暗くなる。あまりの衝撃に立っていられない、思わず目を固く瞑る。
* * *
…どれくらいの時が経ったのか、目を開けたとき、俺は地面に倒れていた。
朱色のコンクリート。揺れる赤。傾いたビル群。鼻腔には土と硝煙の香りが届き、体もあちこちが痛い。空を見上げると、今にも吸い込まれそうな黒々とした暗雲が世界を覆っている。
一体、何が起きているのだろう。いや、何かが“起きた”のか。
喉が渇く。頭が痛い。何が起きた…?怖い。
今にも心が崩れそうなきしみを感じる。
…ダメだ。それでも、この状況だけは把握しなければ。このままでは、心の軋みに飲み込まれてしまいそうだ。
こめかみを打つ心臓の拍動を感じながら、俺はゆっくりと震える膝に手をかけた。
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