第27話 魔法剣

 

 翌日、訓練場でルシアンが身体の周りに浮かべた30余りの魔力の塊に属性を付与し、それを高速で性質変化させていく。


「こ、これは……。こんなに高速で性質変化オルタレーションした魔力を制御するなんて」


 超スピードの性質変化により、シルビィの目にはルシアンが性質変化させた魔力の塊をただ自身の身体の周りを回らせているように見えてしまった。


「シルビィ。もっと良く見なさい。ルシアン様が行っているのは、貴女が思うように単純なことではありません」


「え、単純って。これのどこが?」


「はぁ……。ルシアン様、性質変化の速度を少し遅くできますか?」


「できるよー」


 高速でルシアンの身体の周りを回っていたように見えた魔力の塊。実はそれ、位置はまったく変わっていない。


「えっ、えっ? なにこれ……。もも、もしかして、お身体の周りに浮かべた魔力の塊を順に性質変化させてるんですか? それもこんなにたくさん?」


「全部で32個の魔力塊です。それを火、水、土、風の順で性質変化させています。その速度を上げれば、まるで身体の周りを回転させているようにも見える。ルシアン様、もう一度お願いします」


「はーい」


 再び火や水の塊が、ルシアンの身体の周りを回り始めた。


「う、嘘でしょ? だってこんなの、宮廷魔導士グランドキャスターとかでも絶対にできない御業みわざじゃないですか」


「えぇ。私もここまでの才をお持ちとは知りませんでした」


「これ面白いね」


 ルシアンは昨日、魔力の性質変化を学んだばかり。その時から今日この時間まで、暇があれば自室でも隠れて性質変化の練習を行っていた。


「……ふむ。やはり魔法は、その修得を楽しむ者の方が早いらしい」


「早いとかのレベルじゃないですよね!?」


「まぁよいではないですか。私たちはこれからルシアン様に魔法や剣技を教える師になるのです。弟子は優秀な方が、教え甲斐があるというもの」


「既に優秀すぎると思うんですが」



 ──***──


「せっかく性質変化オルタレーションを覚えたので、それを剣に付与してみましょう。ということで今日は私とシルビィの合同訓練です」


「わーい! 魔法剣ルーンセイバー、使ってみたかったんだよねぇ」


上位スペリア以上の魔法使いが、十数年剣術を学んではじめて可能になる魔法剣なんですけど……。ルシアン様なら本日中に修得してしまっても驚きません」


「どの領域を修得と呼ぶか次第ではありますが、剣に性質変化した魔力を纏わせることならできてしまいそうです。日が落ちるまでに剣への魔纏マギドミナスを数秒維持出来るようになれば上々。訓練を続け、もし剣を振りながら性質変化させた魔力を放出するという真の魔法剣が使えれば、ルシアン様が剣聖になる日も近いでしょう」


「勇者様が使っていたような魔法剣は流石に無理では」


 グレアとシルビィがそんな会話をしていた時、ルシアンが剣を振った。


「せいっ!」


 振った瞬間、ブレードに魔力を流す。

 流しながら性質変化させていく。


 そして剣先が最高速に達した瞬間、彼はそれを前方の壁に目掛けて放出した。


 炎の斬撃が、対魔法性能を強化された的を容易く焼き切った。


「あ、できた」


「「…………」」


 よく状況が理解できない大悪魔と元聖騎団長。


「あの、ルシアン様。とりあえずもう一回やってもらって良いですか?」


「私が見間違えていた可能性もあるので」


「うん。次は水属性にしてみるね」


 シルビィが教えた通りの所作でルシアンが剣を構える。彼から放出される魔力は、グレアの教え通り1/100に制限されている。


「せいっ!」


 先ほどと同じように魔力がブレードを通る間に性質変化オルタレーションされ、水の斬撃となって飛んでいく。


 既にターゲットとなる的はなく、ルシアンが放った水の斬撃は訓練場の壁を大きく切り裂いた。


「うーん。やっぱり、ひゃくぶんのいちだと壁を壊せないなぁ」


 不満げな主を見ながら、グレアたちはなんとか状況を理解しようとする。


「ちなみになんですが、大悪魔カーディナルともなればルシアン様のように1回で魔法剣を使えたりするんでしょうか?」


「……3年です」


「えっ」


「私は悠久の時を生きる悪魔族なので、それほど真面目に鍛錬しませんでした。それを考慮しても、剣を振りながら性質変化オルタレーションした魔力を放出するのには少なくとも3年はかかりました」


 剣に魔力を纏わせ、それを振った瞬間に放出させることならグレアもすぐに修得した。しかし剣を振るという僅かな時間で性質変化させるという技術の修得には、魔力の扱いに長けた彼でも長い年月を必要としたのだ。


 なお、異世界から召喚された勇者のように神から異能チートを受け取っていない人族の剣士、もしくは魔法使いが魔法剣を使うには数十年の修行が必要だとされている。


 現時点でも異常だが、新たなおもちゃを得た少年の好奇心は止まらない。


「次は剣と鞘を使った十字クロス魔法剣ルーンセイバーね!」


 剣と鞘を構えるルシアン。

 そんな彼をグレアが慌てて止めた。


「ルシアン様、今日はもう止めにしましょう。これ以上はいけない。もう持たないんです。主に私の、大悪魔カーディナルとしての自尊心プライドが」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る