第11話 新たな聖騎士団長

 

「ルシアン様。少しよろしいでしょうか?」


「いいよー」


 グレアが部屋を飛び出していって少しした後、リナがやってきた。


「朝ご飯ができたって呼びに来てくれたの?」


「それはグレアに任せたはずですが……。来ていないのですか?」


 リナが怒ってる。

 怖いから正直に答えよう。


「さっきまでいたんだけど、ご飯の話は聞いていないかな」


「まったく、あの男は。後で私が〆ておきます」


「ちょっとだけにしてあげて」


 グレアが出ていったのは、僕が元聖騎士さんを欲しいって言ったから。


「簡単な仕事すらこなせない者に対しては躾が必要です。ましてやあの男は私たち使用人を管理する執事。見過ごすわけにはいきません」


「そっかぁ。じゃあ仕方ないね」


 怒ってるリナには反対しないのが良いって僕は学んだの。


「朝食の準備ができたというのとは別に、もう一点お知らせがあります」


「奴隷市場から奴隷さんが逃げたって話しならグレアから聞いたよ」


「そうですか。ではその続報です」


 もしかしてもう捕まっちゃったのかな?


「逃げ出した奴隷はテクラシウス聖教の聖騎士でした。そして聖教を破門された聖騎士からは消えるはずの聖印が、なぜか消えていなかったようなのです。つまりその奴隷は、聖騎士としての力を有した状態で逃げていることになります」


「へぇー」


 だから強そうだったんだ。

 なんかオーラが見えたもん。


 リナとか、僕が力をもらう前のグレアも同じようなオーラをしていた。みんな色は違うけど、そのオーラを持っているのはすごく強い人ってことなんだと思ってる。


「テクラシウス聖教にもそのことが伝わり、本日のお昼ごろに聖騎士団の方々がこの城へ来訪することになりました」


「あのお姉さんを捕まえにくるんだ」


「お姉さん? 私は、聖騎士としか……。グレアにも性別は伝えていません。もしやルシアン様、また奴隷市場にいかれたのですか?」


 あっ。しまった。


 リナにはしばらく奴隷市場に行っちゃダメって言われてたんだった。


「るーしーあーんーさーまぁー?」


「その、ごめんなさい。小さい子たちが売られてないかなーって」


「もぉー。あなたが買ってきた子たちを育成するの、ぜーんぶ私の仕事なんですからね? 奴隷の子どもを短期間で使えるメイドにするのなんて、私じゃなきゃできないんですよ。そこのところ、ちゃんとわかってます?」


「うん。いつもリナには、ありがとうって思ってる」


 そう言って彼女の腰に抱きつく。

 この状態でリナの顔を見る。これが大事。


「また良さそうな子がいたら買ってきたいんだけど、あとふたりくらいなら大丈夫だよね? お願い、リナ」


「ルシアン様のお願いとあれば断れませんね。ちょうどマイたちが使えるようになってきたので、ふたりなら問題ないでしょう」


「わぁ! ありがとー」


 僕は知ってるんだ。

 こうやってお願いすればリナは断らないって。



 ──***──


 お昼ごろ。


 お父様に呼ばれて、僕はリナと謁見の間へ。

 グレアはまだ帰って来てない。


 お父様と騎士団長さんたちのお話しを少し離れたところに座って聞いていると、リナが小声で話しかけてきた。


「ルシアン様。伯爵様の正面に座っている男が、テクラシウス聖教で現在の聖女を守護する騎士団の団長です。今後ルシアン様がおひとりで会う機会があるかもしれません。覚えておいてください」


「ふーん。僕あの人、ちょっと苦手かも」


 笑顔がさわやかな感じのおじさんなんだけど、目が笑ってない。


 それに目の奥に色んな色が混じってて気持ち悪い。


 牢屋で見た聖騎士のおねーさんは綺麗な色だったな。僕はあの人の目が好き。


「ルシアン様を不快にさせるとは……。あの男、後で消しておきましょう。聖騎士団長にはもっと相応しい人物を据えねば」


「ダメだよ。偉い人なんでしょ? リナが捕まっちゃう」


「……ふふっ。冗談ですよ」


 冗談で言っているように聞こえなかった。


 リナならあの騎士団長さんにも勝てちゃうと思うけど、聖教を敵にするのは大変だと思うんだよね。


 あー、でもそっか。聖騎士のおねーさんを僕の仲間にするのなら、それを止めようとするあの人たちには、ここからいなくなってもらわなきゃダメなんだ。


 グレアにやってもらおうって思ったけど、どこまで行っちゃったかわかんない。


 ちょっと困った。

 どうしよーかなー?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る