ATM補充サボりと、金融テロの警告
『教典(サボりメモ)』を授与された新人(アリアの部下)がコンビニに入ってから、悠斗のシフトは劇的に快適なものとなっていた。
(『品出し、適当でOK』=流れを止めない!)
「(超高速で補充しながら)うおおお! 『流れ』を! 止めるな!」
(『レジ、面倒』=金銭に固執しない!)
「(神速のレジ対応をしながら)物質的価値(レジ)に! 固執するな!」
新人(エリート)が、勘違いによって超人的な働きを見せる中、悠斗は(指導が不要になり)レジカウンターの内側で、快適に虚空を見つめていた。
(あの新人、有能すぎる。俺、マジで何もやることないな…ラッキー)
その、平和な静寂を破るように、バックヤードから店長の声が飛んだ。
「真木くーん! ごめん、そろそろATMの補充、お願いできる?」
「(げ…!)」
悠斗の顔が、わずかに引きつった。
(忘れてた。今日、ATMの紙幣補充日かよ…)
あの作業は、コンビニ業務の中でも最上級の面倒ごとだった。重い紙幣の束(カセット)を運び、店長と二人一組で(監視カメラの元)時間をかけて行う、厳重な作業。
(新人がいても、この作業ばっかりは俺がやらなきゃいけないのか…だるい…)
「はーい」
悠斗は気の抜けた返事をしつつ、店長がバックヤードで発注確認の電話を始めた隙を狙った。
(…今だ)
悠斗は、客がいないのを確認すると、レジカウンターの下に常備してある「調整中」の札を手に取った。
そして、まるで猫のように静かに、しかし素早くATMに近づき、その画面に札を貼り付けた。
(よし。これで客は使えない。補充は次のシフトの奴か、店長が気づいた時にやればいいだろ…)
彼は作業(という面倒ごと)を完璧にサボり、レジカウンターの内側に戻ると、再び虚空を見つめ始めた。
◇
その一部始終を、新人(エリート)が(床掃除をしながら)目撃していた。
彼は(胸ポケットの教典(メモ)に触れながら)即座にアリア(アパートで家事中)へと(隠しマイクで)報告する。
「シスター! 導き手が、今、ATMに『調整中』のサインを掲げられました!」
「(通信越しに)…何ですと!?」
アパートで完璧に皿を拭いていたアリアの動きが止まる。
(導き手が、聖域(コンビニ)の『富』の象徴であるATMを、ご自身の御手で、意図的に『停止』された…!)
(何を『調整』されるというのですか…!?)
アリアは、悠斗が「ただサボった」だけとは微塵も思わない。
(…! そうか! 導き手は、この世の『富(紙幣)』の流れそのものに『介入』されたのだ!)
(『物質的な価値(カネ)』がいかに無意味であり、脆いものであるかを、我々に(そして世界に)お示しになった…! これは、現代文明に対する『警告』だ!)
アリアは、新人(部下)に厳命した。
「心して拝聴しなさい。導き手は、今、世界の『価値』を調整(ジャッジ)しておられるのです…!」
「はっ! (ゴクリ)」
新人は、悠斗の(サボっている)背中に、神の姿を見た。
◇
一方、その頃。『レヴィアタン』の司令室。
彼は、エピソード4の『教典(サボりメモ)』の解読(深読み)を続けていた。
「(『レジ、面倒』…やはりヤツは『富』の概念を否定している…)」
その分析の最中、レヴィアタンは、次なるテロ計画の最終実行許可を出そうとしていた。
それは、世界の「金融システム(オンラインバンク)」への大規模ハッキング。世界の『富』を、数秒間だけ『無』にするという、知性的なテロだった。
「オペレーション開始まで、あと30秒…」
部下がカウントダウンを始めた、その瞬間。
「レヴィアタン様! 緊急事態! 導き手が聖域(コンビニ)のATMを『停止』!」
「ディスプレイに『調整中』のサインを確認!」
レヴィアタンの動きが止まった。
(ATMの停止(物理)だと…? この、我々が金融テロ(デジタル)を実行する、寸分の狂いもないタイミングで…?)
(まさか…!)
レヴィアタンは戦慄した。
(ヤツは、我々の『金融テロ計画』を予見し、『カネの流れは(俺が)止めた(調整中だ)』という、我々への『警告(サイン)』を送ってきたというのか…!)
(物理的なATM(アナログ)を止めるという、あまりにも古典的な手法で、我々のデジタルな計画を『嘲笑って』いる…!)
「ぜ、全オペレーションを停止しろ!」
レヴィアタンは叫んだ。
「ヤツはこちらの『知』の上を行っている…! このまま実行すれば、我々の『富』が『調整』されるぞ!」
世界の金融システム(と、それに伴う悠斗のネットバンクの預金)を揺るガすはずだったテロは、実行寸前で中止された。
◇
その頃、コンビニ。悠斗は、ATM補充という面倒な作業を(一時的に)回避できたことに、深く満足していた。
(あー、ラッキー。これでシフト終わりまでレジでぼーっとしてられる)
(あの札、便利だな。店長、気づくかな…)
数時間後、客からの「ATM使えないんだけど」というクレームで、店長が「あれ!? ATM止まっ READ.ME
てる! 真木くん気づいた!?」と騒ぎ出す。
悠斗は、虚空を見つめたまま、完璧なポーカーフェイスで答えた。
「さあ? 知らないです。客が何か変な操作でもしたんじゃないですか?」
悠斗は、自分が世界経済の危機(金融テロ)を救ったことなど、知る由もなかった。
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