FBI捜査ファイル11 Fairy Bee Irish(F.B.I.)

天使がWWEのスーパースターになる夢を見て、

フィットネスジムで汗を流す街――ロサンゼルス。


そんな街の片隅、FBIの移動式指揮トレーラーの中。

エリン・パーカー捜査官は山のような書類と格闘していた。


「はぁー……最悪。今日は帰れないかも。

今夜も配信、無理ね。フェアリー達、悲しむかな。

またランキング下がったら……嫌だなぁ。」


エリンはFBI捜査官であると同時に、TikTokの人気配信者。

通称――フェアリー・ビー・アイリッシュ(Fairy Bee Irish)。


そう、彼女は“FBI”の二重の意味を持つ唯一の存在だった。


彼女の配信スタイルは、

コスプレ × ダンス × 生歌。


アメリカだけでなく、日本国内でも大人気。

配信が始まればコメント欄は瞬く間に炎上――いや、祝福の嵐に包まれる。


「ガチ、天使♡」

「CG? ねぇCGじゃないの?」

「結婚してくれ!!」

「アメリカンドリーム!!」


だが現実は――夢ほど美しくない。


「……私、捜査官に向いてないのかしら?」


PCのキーボードを叩く音が途切れる。

ロングレッグス事件の報告書、LAPDへの抗議文、

ボビー刑事への訴追状、経費の再計算……


机の上は地獄のタスク・マウンテン。


「なんで私だけ残業なのよ?

他の捜査官は先に帰還させて……これ、パワハラ?パワハラよね?

訴えてやろうかしら?」


そんな愚痴を心の中でこぼしながら――

彼女は、ふともう一つの夢を思い出していた。


「私だって……夢があったのよ。」


エリンは自分の疲れた顔が映る画面を見つめる。


「FBIなんかより、女優になりたかった。

そう、ハリウッドスター。


全米の女の子どころか、地球上の女の子みんなが一度は夢見るでしょ?

でも私は諦めた。勇気も実力も、覚悟も足りなかった。


だから……TikTokで踊るくらい、許されてもいいじゃない?」


彼女は小さく笑い、

その笑顔の奥に、痛みを隠した。


――その瞬間。


モニターの端に、新着メール通知が点滅した。


件名:召喚(Summons)

送信者:???


エリンは訝しげにクリックする。


本文には、こう書かれていた。


宛先:特別捜査官 エリン・パーカー(別名 Fairy_B_Irish)

件名:今夜、ロサンゼルス警察署に出頭してください。

話す必要があります。

敬具――あなたのフルメタルボディの友人より。

追伸:ダーティ・ハリーだと思っているターミネーターより。


「……何よ、これ?」


エリンの瞳が細まる。

その瞬間、街の遠くで雷が鳴った。


――嵐の最終決戦。


Buddy Cop II(インテリジェンス・アイデンティティ)

  VS

F.B.I(フェアリー・ビー・アイリッシュ)


その時が、静かに――しかし確実に、迫っていた。








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