外伝 Episode I:ボビーの休日


――Bobby’s Day Off


天使が電子レンジに頭を突っ込んで自殺する街、ロサンゼルス。

鋼鉄の悪魔にも、休暇は存在する。


ボビー・キャラハン――ロサンゼルス市警刑事課所属、通称「家賃回収人」。

彼には、市警本部の地下三百メートルに秘密のアジトがある。


正式名称は存在しない。

職員たちは知らず、知ってはいけない。

その存在を把握しているのは、BBC(ビッグバン・コーポレーション)のCEOと、

わずかな研究員幹部のみ。


この地下要塞は、かつて地球侵略を企てた異星生命体の前哨基地だった。

ボビーがLAPDに配属された初日、偶然発見し、

わずか半日で壊滅させた戦場跡地である。

(それでも午後には勤務報告を提出しているのだから恐ろしい。)


☠️ バットケイブ


全長四キロ四方に広がる空間。

内部は大まかに五つのブロックに分かれている。


① シネマシアター


ボビーが私財――そして悪党たちの“家賃”を投じて違法建築した個人映画館。

5Dシネマサラウンドシステム、シネマソウルシステムなど、

本人開発による独自テックを搭載。

彼はここで新旧すべての映画を鑑賞し、

己の“シネマティック・エナジー”を補給している。


② ガンパウダー・ルーム


映画で使用された実銃のコレクションルーム。

もちろん全て実弾装備。

500メートルの地下ロングレンジ射撃場が併設されている。

映画館と銃庫が同じフロアにあることを、

彼は「合理的」と呼ぶ。


③ ハリウッド・ダイナー


1982年の映画『ダイナー』を完全再現した食堂。

地下三百メートルなのに、

なぜかウェイトレスもシェフに客も“普通に存在する”。

彼等が誰なのかは、誰も知らない。

知ってはいけない。


④ ハリウッド・ミュージアム


ボビーが収集した歴代ハリウッド映画の小道具・衣装の聖域。

市場価値はすでに天文学的。

BBCの研究員はそれを「映画文明の墓標」と呼び、

ボビーにとっては「魂の教会」である。


⑤ ターミナル・コマンドルーム


数十台のモニターが並ぶ電子の要塞。

ロサンゼルス中の監視網、LAPD回線、

果てはNASAの衛星データまでもがここに接続されている。

ここが彼の寝床であり、司令塔。


この“バットケイブ”の運営費は、

ロサンゼルスの悪党たちから徴収した善意の寄付金――

すなわち“家賃”によって賄われている。

犯罪がある限り、この要塞は潰れない。

皮肉なことに、正義の活動資金はいつも悪から流れてくる。


🥃 そして、夜。


スクリーンでは古いフィルムが流れている。

『Dirty Harry』のクライマックス。

ボビーはバーボンを飲みながら笑った。


「Lesson 休日 ― 正義も悪も、上映時間の外には存在しねぇ。」


照明が落ち、

街のノイズが遠ざかる。


ロサンゼルスは、ほんの一瞬だけ――眠りについた。

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