第10話 パーティーナイト
天使と地獄をダンスホールかベッドルームに誘うなら最高の街ロサンゼルス。
ただし正気を保てる保証はない。
マスタングが縁石でアイドリングし、
エンジンが檻に閉じ込められた獣のように唸る。
ボビーが運転席に座り、葉巻の火が赤く光る。
ネオンが雨の路面で滲み、街が呼吸を忘れたように静まり返っていた。
「キッド。バーボンと葉巻。2分だ。」
「了解しました!」
アレックスは輝く笑顔で車を降りる。
擦り傷の入ったスーツの膝を直し、
走りながらゲットワイルドのリズムで鼻歌を歌っている。
その明るさが、この街では異常だった。
だがその夜、街もまた異常を孕んでいた。
🕶️【一方、街の裏側】
ロサンゼルスの地下。
ネオンの血管が流れる廃駅跡。
円卓の周囲には、街の“王”たちが並んでいた。
マフィア、カルト、武器商、メキシカン・カルテル、アジア系シンジケート、
そして警察内部の影。
敵同士が同じ煙を吸う夜は、世界が終わる合図だ。
机の中央に置かれたのは、一枚の写真。
「Bobby Callahan — LAPD鬼刑事、登録番号TK-1979」
顔の上には、赤い×印。
そして銃弾で穿たれた「RENT DUE」の落書き。
沈黙。
誰も冗談を言わない。
この男を殺せる者はいないと分かっているからだ。
だが今夜は違う。
理由があった。
机の奥で立ち上がる男。
黒いスーツ、銀髪、片目の義眼。
マフィア連合を束ねる調停人(アービター)、ドミンゴ・レイス。
「この街はもう、奴一人の映画じゃねぇ。
――全ギャング、全派閥、全ハッカー、全狙撃手、全売人に命じる。
Contract No.666:対ボビー・キャラハン共同戦線を発動する。」
床下の爆薬が共鳴するように、円卓の下の携帯が一斉に震えた。
🚬【再び、街角】
アレックスは酒屋のドアに手をかけていた。
その瞬間、背筋を刺すような寒気が走る。
視線。
通りの向こう、暗がりに十数の影。
顔を覆い、無線で交信。
動きは軍隊のように整っている。
「こんばんは!LAPDです。今夜はパトロール中でして——」
言葉の途中で、誰かが囁いた。
「そいつだ。キャラハンの相棒だ。」
次の瞬間、銃声が夜を裂いた。
硝煙の閃光がネオンに咲く。
アレックスは叫び、反射的にゴミ箱の影に飛び込む。
彼のノートが側溝に落ち、雨で滲む。
「サー! 撃たれてます!!」
謎の武装集団からの集中砲火。
火線が高速で光の線を無数に描きマスタングに弾丸のキスの嵐がプレゼントされる。
マスタングの中、ボビーは動かない。
静かに煙を吐き、
まるでこの瞬間を待っていたかのように低く呟く。
「泣けるぜ。」
葉巻を灰皿に押しつけ、
無数の銃撃で変形したドアが乱暴に開く。
まるで近所の路上で騒ぐ悪ガキ共にキレたヒステリーマダムがボロアパートのドアをけ破るように。
トレンチコートが風を裂き、
マグナムの黒が夜を支配した。
通りの影たちが一斉に発砲する。
弾丸が降る。
街灯が割れる。
弾丸のシャワーはボビーに容赦なく降り注ぐ。
しかしボビーは前に歩き出した。
彼に銃を向けることは、神を殺そうとすることと同義だ。
この街の外から来た傭兵達にその常識は共有されていない。意図的に伏せられていた。
だから、全員が彼に引き金を引く。
報酬は一億ドル。
契約名——「The Devil’s Rent」。
アレックス(息を詰めながら叫ぶ):「サー、どうしますか!?」
ボビーは煙の中で一言だけ答えた。
「Lesson Seven:悪魔に家賃を滞納した時点で、契約は終わりだ。」
マグナムの咆哮が、ロサンゼルスの夜に響く。
銃声が止んだ時、通りには煙と静寂だけが残った。
そして遠く、警察無線が悲鳴のように鳴り始める。
“All units, all units — multiple gang factions engaging each other across sectors 5 to 9—
Target code name: Callahan—”
ボビーはネオンの火を背に、静かにマスタングに戻る。
その足跡が、まるで血の契約書のようにアスファルトに刻まれていた。
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