終幕遊戯(End Game)
抹茶葉
第1話いつもの朝
朝の光がカウンターの上に落ちていた。
木の机に反射する光は、昨日とまったく同じ色。
「次の依頼はこちらになりますね」
クロエが紙を差し出すと、勇者が笑う
「ありがとう、クロエちゃん!今日もかわいいね!」
そう言われるのも、もう何度目か分からない。
笑って返すのもいつも通り。
だが最近、胸の奥でざらついた違和感があった。
何かが“止まっている”
人々の言葉も、笑顔も、昨日と寸分違わない
ギルドは今日も賑やかだった。
カーラが奥から顔を出して、軽く眉を上げる。
「またあの勇者、来てるじゃん。何回目だろ」
「……そんなに来てるかな」
「毎日だよ。あんた、モテモテだね」
クロエは曖昧に笑った。
それは、昨日と同じやり取り。
口ではそう言いながら、クロエは眉間に小さな皺を寄せた。
繰り返される日々
その違和感に、誰も気づかない。
ただ、クロエだけが知っていた
この“いつもの朝”が、何度も繰り返されていることを
全てがまるで巻き戻されたように繰り返されている。
勇者たちは同じ依頼を受け、同じ魔物を討ち、同じ報告をする。
報酬も台詞も、寸分違わない。
変わらない
何も変わらない
クロエだけが、そのことに気づいていた。
机の上で、指先が小さく震えた。
誰も知らないまま、時間だけが回っていく。
笑顔を貼りつけたまま、クロエは思った。
――今日こそ、何かが違ってほしい。
だが、その願いさえも、昨日と同じように胸の奥で消えていった。
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