第13話 お披露目会本番

 11月27日 午後19時05分

王国『パラティーヌ』

王宮・鏡の間にて


 絢爛豪華な鏡の間。きらびやかなドレスに身を包んでいる貴婦人たち。シワ一つない燕尾服を着ている紳士たち。


 そして、燕尾服姿のエドガーと共にいるのが、赤いドレスを着たシオンだった。


 だが、彼女の顔は緊張でひきつっている。隣にいたエドガーは小声で尋ねた。


「なに?緊張してんの?」


「そ、そうだよ…。一応…私は聖女で、今回の主役だけど……いくら聖女でも緊張ぐらいするわよ!」


 小声で返ってきたシオンの反論に何を思ったのか、エドガーは彼女の手を引いて歩き出す。


「わっ! ちょっと!?」


 突然、手を引かれ困惑しているシオンを他所に、エドガーは早歩きで進んでいる。


 その道中。近くを通りかかった使用人からグラス二個貰い、中庭に繋がる扉を開けて中庭へと出ていった。


     ーーーーーーーーーー


 11月27日 午後19時05分

王国『パラティーヌ』

 王宮・中庭にて


 中庭に入ったエドガーは、中央にある色々のベンチにシオンを座らせ持っていたグラスを一個渡した。


「こ、これって……」


「ザクロジュース。聖女もそうだけど……、俺たちはまだ子供だからこれしか飲めないの。いや、こう言うパーティーとかは『ザクロジュース以外は飲んではいけない』」


 シオンにグラスを渡した後、自分のグラスを持って、エドガーは彼女の右横に座った。


「そ、そうなんだ……って、『俺たち』?」


 シオンは首をかしげる。彼女の疑問を聞いたエドガーは、ザクロジュース一口飲んだ後、口を開いた。


「俺以外に…あと二人いるんだ。ドゥラーク公爵家って言う、禁忌の魔法を扱える家があるんだけど……その子供がいるんだ」


「禁忌の魔法……」


「そう。ドゥラーク家は、アレクリア姉さん曰く『禁忌の魔法を扱えたり、管理している家系』って言った。で、話戻すけど…その家の子供が俺と同い年なんだ」


「へぇ…、お友だちなの?」


 シオンの発現に、エドガーは驚きのあまり飲んでいたザクロジュースを吹き溢しかける。


「なっ! 友達じゃないと思うけど……仲は良い。ルエムとジュアンって言うんだけど……。ウサギっぽいのがルエムで、犬っぽいのがジュアン」


「な、なんか……適当すぎない?」


 シオンから向けられている冷ややかな目に、エドガーは気まずさを覚えてしまう。


「べ、別に良いだろ…本当の事だし…。だって、ジュアンは部屋に入ってきた人や訪ねてきた人を気配だけで分かるし……。ルエムは、遠くにいても声や音をハッキリ聞き取れるし……」


「うわ、何? その……本物の犬とウサギ見たいなヤツは……」


「そうなんだよ。アイツらって、動物見たいなんだよな……。ジュアンはさ、雪を見ると…なんか知らないけど、頭からダイブするし……。ルエムは穴を見つけると、中に入ってウサギみたいに丸くなって寝るし……」


「なんか……本当に犬っぽい子とウサギっぽい子だね……」


 苦笑しながらシオンは、ザクロジュースを一口飲む。


 爽やかだが、深い甘さが舌を刺激する。けれども、ほどよい酸味もあるため飲みやすい。


 ザクロジュースに舌鼓を打っていたシオンの耳に、エドガーの声が入ってくる。


「あ、そう言えば……この前、アクレリア姉さんのお使いでドゥラーク家に行った時……ルエム、穴掘ってたな……」


 突然のエドガーの発言に、ザクロジュースを吹き溢しかけるシオン。


「な、な…え?穴掘ってた……?」


 驚くシオンに対し、エドガーは頷く。


「そう。姉さんから頼まれた資料をリアンさんに渡しにドゥラーク家に行った時、廊下から庭が見れんだけど…、庭の端っこにルエムがいて、手で必死に穴掘ってたんだよね」


「で、穴掘って満足したのか、堀りたてホヤホヤの穴に入っていったの。驚いた俺は、急いでリアンさんに報告してんだけど……慌てている俺を見たリアンさんが……笑いながら…『あいつルエムは良く、穴を掘って中で眠っているんだ。可愛いだろ?』って言ってた」


「も、もう……それ、ウサギでしょ……」


 シオンは思わずそう言ってしまった。エドガーは頷き、彼女の言葉に賛同する。


「あとさ、ジュアンは誉められて頭を撫でられると、目を細めて喉を鳴らすんだよね。昔、トキ兄さんとかアレクリア姉さん、リアンさんが誉めて、頭を撫でてたの見たことあってさ、その時ジュアンは目を細めて喉を鳴らしてた」


「え?喉を鳴らす……?」


「そう。『ゴロゴロ』だったかな? ジュアンは誉められて頭を撫でると、目を細めて喉を鳴らす。それとさ、昔姉さんたちに内緒で、魔物を召喚したんだよ。中型だったんだけど……、ジュアンが犬みたいにめっちゃ唸ってたし、めっちゃ威嚇してた」


「な、なるほど……」


 エドガーの話を最後まで聞いたシオンは、個性的な友達がいるんだなぁと、心の中で思ったのであった。


     ーーーーーーーーーー


「って、聖女まさ。緊張解れてきてるじゃん」


 エドガーの言葉に、シオンは「え?」となってしまう。


「さっきまで緊張してたのに、今はいつも通りだし……ここにきて正解だったね」


 そう言って、エドガーはザクロジュースを飲み干す。


「ここの中庭さ、俺が社交デビューしてまもない頃に、通ってた場所なんだ」


「そうなの?」


 シオンの言葉に、遠い目をしながらエドガーは頷く。


「うん。俺さ、実は姉さんと兄さんとは血が繋がっていない。姉たちとは母親が違うんだ。それに、俺の母親は娼婦の娘だったし……」


「あとさ、俺には双子の弟がいたんだよね。でも4歳の頃に…俺が熱で寝込んでいた時に、母と弟は事故でなくなった」


「ま、俺は昔から、魔導書や色んな本を読み漁ってたし、魔法の研究だってしてた。それで、事故を起こしたのは『気味の悪いエドガーがやった』って、ウワサがたって…父や使用人たちから嫌われたんだけどね」


 そう言った後、エドガーは立ち上がる。


「昔の事は、あんまし好きじゃない。社交デビューが遅くて、緊張で中庭にきてたってだけだし…。もうすぐ時間だから、早く戻ろう」


「じゃないと姉さんたちが心配する」


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