偽りの聖女と罵られ婚約破棄、森に捨てられたので魔王様と手を組みます。今さら戻ってこい?もう遅い、最強の闇の力で全員に後悔させてやる
藤宮かすみ
第1話「偽りの断罪」
広場に響き渡ったのは、かつてこの世の誰よりも愛した人の声だった。
「聖女エラーラ。偽りの力で民を欺いた罪は重い。よって、貴様との婚約を破棄し、この場をもって王都から追放処分とする!」
私の目の前に突き付けられたのは愛を誓う婚約指輪ではなく、冷たく鈍い光を放つ剣の切っ先だった。
それを握るのは、私の婚約者であるはずの王国騎士団長、アレス・ラングフォード。彼の整った顔は憎悪に歪んでいる。
「……どうして、アレス」
やっと絞り出した声は、自分でも驚くほどか弱く震えていた。視線を上げると、彼の隣には勝ち誇ったような笑みを浮かべる女、リナの姿があった。アレスの幼馴染だと名乗り、最近になって王都に現れた彼女。彼女こそが「真の聖女」なのだと、アレスも、そして王国の誰もが信じ込んでいる。
「決まっているだろう。お前は偽物だったからだ! 真の聖女は、私の隣にいるリナただ一人!」
「そんな……私はずっと、この国のために、この力で人々を……」
「黙れ!」
アレスの怒声が、私の言葉を叩き潰す。彼は見せつけるようにリナの肩を強く抱き寄せた。その瞬間、広場を埋め尽くした民衆から、堰を切ったような罵声が私に浴びせられた。
「そうだ、偽物を追い出せ!」
「リナ様こそ本物の聖女様だ!」
「俺の母親が治らなかったのは、お前が偽物だったからか!」
嘘だ。
つい数日前まで、あなたたちは私を「聖女様」と呼び、涙を流して感謝していたではないか。病が癒えた子供たちが、私の手に花を握らせてくれたではないか。その笑顔も、感謝の言葉も、すべてが幻だったというのだろうか。
今、私に向けられているのは、石でも投げつけんばかりの憎悪の視線だけ。手のひらを返すとは、まさにこのことだ。
神から与えられた私の治癒の力は、奇跡だと教えられてきた。その力を発動するには身を削るような深い祈りが必要で、一度使えばひどい倦怠感に襲われる。それでも一人でも多くの人を救いたかった。国のため、民のため、そして何よりこの国の平和を守るアレスの力になりたかったから。その一心で、私は今日まで祈りを捧げてきたというのに。
「連れていけ! 二度と王国の土を踏ませるな! 生きては戻れぬ『呪われた森』へ捨ててこい!」
アレスの非情な命令が下される。返事をする間もなく、屈強な騎士たちが私の両腕を掴んだ。抵抗する力など、どこにも残っていない。引きずられていく私の目に最後に映ったのは、不安げなリナを安心させるように優しく微笑みかけるアレスの姿だった。
私には一度だって向けられたことのない、甘く慈愛に満ちた微笑み。
ああ、そうか。
そういうことだったのね。
私の力だけが必要だったんだ。私の存在そのものではなく、「聖女」という便利な道具が。そして、もっと都合のいい新しい聖女(おもちゃ)が現れたから、私は用済みになった。ただ、それだけのこと。
単純で、残酷で、あまりにも分かりやすい真実。
ぷつりと音を立てて、私の世界から光と色が消え失せた。
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