第31話 花火
パンッ パンパンッ!
夜空に花が咲く。色とりどりの花火が弾けるたび、観客の歓声が波のように広がった。
「……すごいね」
「うん」
相原さんは缶ジュースを手にしたまま、光を反射して瞬きを繰り返す。その横顔の儚さに、俺の視線が釘付けになる。
「ちょっと遠いけど、あんまり混んでない場所あってよかった」
溶けるような笑顔に見惚れていると、相原さんが俺をからかった。
「もう、ななちゃん花火見てる?」
「み、見てるよ」
慌てて誤魔化し、急いで視線を空へ戻す。
花火はクライマックスに近づいていた。でも、どれだけ豪華な花火も、相原さんの前では魅力がかすむ。
そう思っていたら、ひときわ鮮やかなピンク色が空に広がった。
「あ、ハートだ」
ピンクのハートが、パッと空に打ち出される。浮かんだ花火はシャラシャラと音を立て、一瞬で溶けていった。
「私、こんなにちゃんと花火見たの初めてかも」
ふっとこぼれた笑み。胸の奥がじんわり熱くなる。
静かな沈黙。
花火が一瞬止んだ瞬間、俺の口が勝手に動いた。
「あのさ」
「ん?」
「……もう一回告白してもいい?」
「え?」
ちょ、俺、何言ってんだ!
言った瞬間血の気が引く。
自分で自分が恥ずかしくなるが、出てしまった言葉はかき消せない。
相原さんは驚いたように目を丸くした。
「い、一回振られてるし、相原さんは俺に興味ないってわかってるんだけど、その、どうしても言いたくて……」
言い訳みたいな声が震える。
相原さんは何も言わない。ただ黙って、何度か瞬きした。
どれくらい時間が経ったんだろう。
せっかくここまで楽しい雰囲気だったのに、2人の間にはぎこちない空気が流れている。
……何やってんだよ、俺。
「それではスターマインです!」
やけに元気なアナウンスの声が響く。
「……わぁ」
続けざまに巨大な花火が夜空に広がり、二人の沈黙を押し流していった。
一際大きな花火が弾け、祭りのフィナーレを飾った。
♡
帰り道。
話題を変え、さっきの告白未遂は無かったことにしようか、とも思った。でも、そうやって逃げたらもう一生言えない気がした。
また、あっけなく振られるかもしれない。それでも良い。夏の魔法が解ける前に、自分の気持ちを口にしたい。
「あのさ、さっきの話なんだけど」
相原さんが小さく顔を上げる。
「相原さんのこと、本気で好きです」
声が震えているのが自分でも分かった。
「最初は、顔が可愛いなって思ってただけだったけど……。宿題手伝ってもらったり、ななちゃんとしてお茶行ったり、今日こうして花火見たりして……。気づいたら本当に、大好きになってました。性格も、仕草も、全部」
祭り客のざわめきが遠ざかっていく。
二人の周りだけ、音が消えたみたいだった。
暗がりでもわかるほど、相原さんの耳が赤い。
「……好きな、だけですか」
「え?」
「“大好き”の……続きは、ないんですか」
小さな声。でも、確かにそう言った。
俺は息をのむ。
「……そ、それって、どういう意味……?」
「女子に言わせないでよ、ばか」
はっと心臓が跳ねた。
これは――そういう意味、だよな?
勇気を出せ。ここでいかなきゃ死ぬまで後悔する。
「……好きです。付き合ってください」
夜の空気に、俺の声が溶けていく。
心臓が爆発しそうだった。
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