第3話 村への道のり

 見渡す限り畑と小さな丸太小屋。異世界って言っても発展してなさすぎやしないか? この世界はこんな生活水準なのか……。


「さあ三郎様、行きますよ」


「お前まだ三郎呼びなのかよ! 俺人生で1回も三郎だったこと無いよ!?」


「では、どのようにお呼びすれば……? まさか囚人番号でお呼びするわけにもいきませんし……」


「当たり前だろ! 何さらっと俺を囚人扱いしてんだ! さっきまで救世主だなんだって騒いでただろ!?」


 高橋はずっとこんな調子なのか……。正直結構めんどくさいなこれ。俺もずっとツッコミ入れなきゃいけないから、疲労感がすごい。


「ところで喉が渇きませんか?」


「ああ、そういやさっきビビったから渇いてるわ。なんか飲みものでも持ってるのか?」


「持ってませんよ。聞いただけです」


「なんだお前この野郎! そういう時はなんか飲みもの持って来るもんだろうが!」


「マヨネーズならありますけど要ります?」


「要らねえわ! マヨネーズを飲みものにカウントすんな! 大デブかお前!」


「昔は大デブに憧れたこともありましたね……」


「嘘つけお前! しみじみすんなそんなことで!」


 息をするようにボケ続ける高橋。逆に俺はもうツッコミでひいひいしてるぞ。どうすりゃいいんだこんなの……。見た目もバケモノだけど、違う意味で中身もバケモノじゃねえか。ボケルト人ってみんなこんな感じなのか……?


 絶望していると、高橋が俺の腰を引いた。


「さあ玄司様、村に向かいましょう!」


「普通そういう時は腰じゃねえだろ! なんで腰引いてんの!? ぶつかり稽古でもすんのか!」


「あ、します? まわしならここに」


「なんであるんだよ! どこで準備いいんだお前は!」


「ところで玄司様は相撲のスコアの付け方をご存知で?」


「知らねえわ! なんだ相撲のスコアって!?」


「そんなこと私に聞かれても……」


「なんでその聞き方で知らねえんだよ! そもそもお前なんで相撲知ってんの!?」


「いやあ、調べたんですよ。これでも1度日本に住もう・・・と思ったことがありまして」


「やかましいわ! 上手いこと言うな!」


「ではすり足で向かいましょう」


「普通に歩いて行かせてもらえる!?」


 やかましい高橋を連れ、俺は村の方角に歩き出した。


 どうやら洞窟は山の上の方にあったらしく、村までの道のりはずっと下り坂だ。下り坂って一見楽そうだけど、実は膝にめっちゃ負担かかってるんだよな。どうせ今死んでるんだから、神様も疲れない体とか与えてくれたら良かったのに。


『私にそこまでの力は無い。そなたの生前の体を再現しただけだ』


「うわあ! お前いきなり話しかけてくんなよ! びっくりするわ!」


『私とていきなり話しかけたくはない。もし会話が弾まなくて気まずくなったらという不安でいっぱいだからな』


「神が気にすんなよそんなこと! 初めてのクラス替えか!」


『そなたはもう友達ができたのか? もしまだなら私と友達に』


「だから初めてのクラス替えかって! 友達にはなんねえから! お前手違いで俺のこと殺してんだからな!?」


 しかしこいつは何しに出て来たんだ。いや出て来たって言っても声だけなんだけどさ。姿とか見たこともねえよ。


『では、詳しいことはそこの高橋に聞くが良い』


「本当に何しに出て来たんだよお前!」


「では、神に代わって私から詳しく玄司様の使命についてお話いたしますね。耳の穴かっぽじってよく聞いてください」


「なんで偉そうなんだよ!?」


 まあでも、そういや何も聞かされてなかったからな。村に着くまでにちゃんと話は聞いておくべきだろう。じゃないと俺何していいか分かんないもん。ただボケてる人にツッコミ入れるバケモノになるもん。


「玄司様、視界の右上に何か見えませんか?」


「右上……? あ、なんかスマホの充電マークみたいなのがあるな」


「それがあなた様の生き返りゲージです。今は0パーセントですが、あなた様がツッコミを入れることで少しずつ回復します。ゲージが100パーセントになると、あなた様は生き返る権利を得ます」


「なるほど、そういうシステムなのか」


 ……ん? ちょっと待て、なら俺が今まであの神様とか高橋にツッコミ入れたのはなんだ? あれカウントされてないのか?


「ちなみに今までのツッコミはゲージに影響を与えていません。今はチュートリアルですので」


「なんだチュートリアルって! 人の命がかかってんだから少しでも回復させろよ! 無駄を削れよ!」


「私の説明が終わりましたらゲージに影響がありますので、ぜひ頑張ってくださいね。カイト!」


「『ファイト』だろ! カイトは凧だわ!」


「この世界はボケルト王国。住民全員がボケる世界です」


「聞けよ!」


 マイペースに説明を続ける高橋。でも今このツッコミはゲージに関係無いんだもんな。じゃあもうツッコミ入れずに真面目に聞いとくのがいいのか?


「ボケルトの発音は、正確には『ボ・ケルト』と言います」


「そんなラ・カンパネラみたいに!」


「この世界に住むボケルト人たちは、日々周囲に向かってボケ続けています」


「なんでそんな無駄なことを!?」


「それはもうそういう生きものだからとしか言えませんね。理解するのではなくそう覚えてください」


「なんだそれ! 公式教える時の数学教師か!」


 前のめりになってツッコミ入れてると、下り坂だからコケそうになるな。結構危ないぞこれ。説明の時ぐらいボケるのやめてくんないかなあ。


「私たち高橋一族は、代々救世主様をお導きするよう神からのお達しを受けていました。あ、でも私たちの神はあなた様をここ連れて来た神ではないんです」


「え、そうなのか? ボケルトの神って別人なの?」


「ええ。ボケルトの神は、常にサツマイモを焚き火に突っ込んでいるという言い伝えがあります」


「ああお前らの神って焼き芋の神なのな!? ろくな神様いねえななんか!」


「さあ、村が見えてきましたよ! 早速村の裏口からこっそり侵入しましょう!」


「正面から入れよ! 何お前指名手配でもされてんの!?」


「そういうわけではありませんが、昔から裏口が好きなんですよ私。小学校も裏口入学したぐらいですから」


「高校とか大学でやれよそんなこと! 何お前義務教育の段階で不正してんだよ! ……あ、ボケルトでは大学みたいな扱いなのか?」


「いえ、義務教育です」


「じゃあ普通に入学しろよ! 何もしなくても入れただろ小学校!」


「裏口入学だったので、名簿に名前が無くて困りましたね」


「待ってお前本当の意味で裏口から学校入ってない!?」


 高橋のアホな経歴が明らかになったところで、俺たちは村の入口に辿り着いた。入口は木の門で閉ざされており、門の前には腹巻きを巻いたオヤジがあくびをしながら寝そべっている。あれが門番なのか……?

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