2-3 本当の事が言えない
次の週の水曜日、駿は部活を休み、複合商業施設に向かうと、既に美生が待っていた。
「ごめん、待たせた?」
「うんうん、大丈夫だよ」
自分の家の買い物をするのに美生を待たせてしまい、申し訳ないと感じながらも、複合商業施設の中へと入る。
まず、女性用のシャンプーのコーナーへと向かい、結が使ってるシャンプーを探そうとするが、似たようなシャンプーばかりで、毎回、ちんぷんかんぷんしてしまう。
とりあえず、それっぽいシャンプーを美生に聞いて入れようする。
「結がシャンプー買ってきて欲しいって、言ってたんだけど、これで良いの?」
「違うよ、結ちゃんが欲しいって言ってるシャンプーはこっち」
「どれも似たような物ばかり全く分からない…」
「男性のシャンプーも、どれも似たようなものばかりで、同じくらい分かりにくいと思うよ」
「そう?」
「うん、それに駿君の家庭事情もあるけど、駿君が結の欲しい物を買い間違えないようにする為に私が一緒に来ているんでしょ」
優しく笑顔で応える美生に頭が上がらない。
「ほんと、毎回ありがとう」
「どういたしまして」
必要な買い物を済ませて帰路に着き、喋りながら帰っていると、唐突に美生が果奈の事を喋り始める。
「最近、果奈ちゃん凄く明るくなってる気がするの。何か心当たりある?」
果奈と美生は高校1年生の時に同じクラスになり、意気投合して親友のような関係になった。今はクラスは違うが、連絡し合ったり、休日も共に遊ぶ程の仲だった。その為、駿が1年生の時から美生と話す時にちょくちょく果奈の話題が出る時があった。
「いや、全然…」
周りが変化に気付く程、果奈が自分と付き合って嬉しそうにしてると知れて、自然と嬉しくなる。
「もしかして、誰か好きな人でも出来たとか?」
その一言に、思わず体がビクッと反応してしまう。
「そ、そうなのかな?」
美生の言葉を誤魔化すように笑ってみせたが、心臓の鼓動が少し早くなっていた。
「何でそう思ったの?」
「なんかそんな感じがしただけ」
「そうなんだ…因みに美生って好きな人居るの?」
話を逸らす為に美生に気になってる人が居るのか
聞いてみる。
「・・・そうね〜辰巳君はかっこいいと思うけど、今は居ないかな。逆に駿君は好きな人は居るの?」
話を逸らす為に質問したつもりが、美生から更に質問を返されて動揺が走る。
「お、俺もまだ居ないかな〜」
頭に果奈の姿を浮かべながらも、息を吸うように、美生に嘘をつき、更に、それを誤魔化すよう、近くの公園にある時計の時間を見て、時間が押している事に気付き、少し急かすように話し始める。
「ヤバい!もうこんな時間か、結もお腹を空かせて待ってるだろうし」
「ほんとだ!早く帰らないとね」
結局、美生に果奈との関係を言えないまま、家に着いてしまった。
夕飯が済み、美生も自分の家に帰り、明日の準備も終わらせて寝ようとしたが、美生の「果奈ちゃん、凄く明るくなった」という言葉が耳から離れない。
誰かと話せば、少しはモヤモヤが晴れるのではと思い、直己に電話をかける事にする。
「どうしたんだ駿、こんな時間に?」
「ごめんな、実は相談があってさ」
「何だよ、相談って?」
「今日、美生と買い物に行ってたんだけど…」
「島内さんとね〜」
何気ない一言だったがその一言に直己の葛藤が伝わってくる。
「俺も何かしら協力出来る事があったら、協力しようか?」
「心配してくれてありがとう。でも、自分で何とかするから大丈夫。それで何があったんだ?」
直己が大丈夫って言うなら、大丈夫なんだろうと思い、美生に果奈と付き合ってる事を言えなくて、悩んでいる事を打ち明かした。
「なるほどな、駿と早川さんがどこまでの仲になっているのか分からないけど、俺はもう少し早川さんとの関係が深まったら、島内さんに言えば良いと思う。そもそも、付き合ってから、あまり日にちが経ってないんだし」
「確かにな」
「俺からはこんな事しか言えないけど、また、悩んでる事があったら、相談してくれよな」
いつもくだらない会話ばかりをしてきた友からのフォローに心のモヤモヤが晴れていく。
「ちょっと気持ちが楽になった。ありがとう」
「それは良かった。夜も遅いし、また明日な〜」
「また明日」
直己からの言葉も受け、果奈との関係を深める事に今は専念して、ある程度の関係になったら、美生に打ち明けると決意し、眠りについた。
——その「いつか」は、自分が思っているほど、先ではなかった。
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