第27話
西園寺家への挨拶という最大の山場(?)を乗り越えた俺は、ある意味、怖いものがなくなっていた。 いや、怖いものはある(雪菜の父親だ)。 だが、「雪菜の恋人」として堂々としていよう、という覚悟は、本物になっていた。
学園は、すっかり秋一色。 次の大イベント――文化祭(・・)に向けて、校内全体が浮き足立っている。
「よーし、A組! ウチの出し物は『和風メイド&執事喫茶』に決定だ!」 「「「おー!」」」
クラスの実行委員がそう宣言すると、男子生徒たちの視線が一斉に、ある一点に集まった。 言うまでもなく、雪菜(ユキ)だ。
「西園寺さんのメイド服……だと……?」 「神に感謝……!」
「あ、でも西園寺さん、そういうの着てくれるかな……」 みんなが不安そうに雪菜の顔色を伺う。 当の雪菜は、きょとんとした顔で俺の隣に座っていた。
「ユキ、メイド服だって。どうする?」 俺が小声で聞くと、雪菜は「うーん」と考え込む。
「メイド服かぁ……。あんまり趣味じゃないけど……」 「だよな。嫌なら断って……」
「でも!」 雪菜は、俺の顔を見上げて、ニパッと笑った。 「ヒロくんが『執事』をやるなら、私も『メイド』やる!」
「「「(ヒロ、グッジョブ!!!)」」」 クラスの男子たちが、心の中で俺にサムズアップしたのが見えた。 (……俺、逃げ場なくないか?)
放課後。 教室は、文化祭準備の作業場と化していた。 段ボールを切る者、壁紙を貼る者、衣装の採寸をする者。
俺は、雪菜と一緒に、喫茶店で使うテーブルの装飾を担当していた。 不器用な俺がカッターで曲がった線を引きそうになると、雪菜がそっと後ろから俺の手に自分の手を重ねてきた。
「ヒロくん、ここはこう。カッターの刃は、こっちの角度で……」
「わっ……!?」 背中から、雪菜の柔らかい感触と、シャンプーのいい匂いが伝わってくる。 (……作業に、集中できない……!)
「あ、ごめん。近かった?」 「い、いや、大丈夫……」
顔を真っ赤にしながら作業を続ける俺。 その様子を、雪菜が隣でくすくすと笑いながら見ている。
「ヒロくん、顔赤いよ?」 「ユキのせいだろ……」 「えー、なんで?」
こんなやり取りも、日常になってきた。 俺が、暑くて額の汗を手の甲で拭おうとすると、 「あ、ダメ」 と、雪菜がハンカチを取り出した。
彼女は、俺の前に立つと、優しくポンポン、と俺の額の汗を拭ってくれる。
「もう、ヒロくんは頑張り屋さんなんだから」 「……ありがと」
その光景は、完全に「新婚夫婦のイチャつき」にしか見えなかった。
「「「…………」」」
気づけば、クラスメイトたちが作業の手を止め、俺たち二人を、ニヤニヤと生暖かい目で見守っていた。
「ヒロ、お前……」 「雪菜様(・・)に汗拭かせてんじゃねえよ!」 「場所をわきまえろ、バカップル!」
野次が飛んでくる。 俺と雪菜は、同時にカッと顔を赤くした。
「ち、違う! これは不可抗力で……!」 「そ、そうですよ! ヒロくんが汗かいてたから……!」
俺たちが慌てて弁解すると、実行委員の男子が「まあまあ」と笑いながら近づいてきた。
「いやー、お前ら、マジでお似合いだよ」 「見ててこっちが恥ずかしくなるわ」
「だから、推薦しといた(・・・・)から」
「え?」 俺と雪菜は、同時に首をかしげる。
「推薦って、なにを……」
実行委員は、ニヤリと笑って、決定的な一言を放った。
「決まってんだろ」
「文化祭のメインイベント、『ベストカップルコンテスト』だよ!」 「お前らA組代表だから! 頑張れよ!」
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