第75話 甘い香り
「なんか甘い香りだな、その煙草」
「これは煙草では無い、阿片だ」
「アヘン?」
「使い方次第で毒にも薬にも為る、ハーブみたいな物だよ」
源内は煙管に残った灰をカン!と落とす
「使い過ぎると人間を狂わせて殺してしまうがな」
「げっ、そんな危ねえ物をアルケに使ったのかい?」
「今は痛みを忘れ、身体を休める事が肝心だ … 」
しかし源内はこのままではアルケが助からない事も見抜いていた
氷で直接患部を冷やし、兎に角温度を下げなくては
火傷は身体の表面だけで無く、肉体内部をも蝕み、熱で内蔵や肺を壊し続ける
水風呂に浸け、出来れば氷で患部を冷やしたかった
幸い『リヴァイアサン』には浴槽と潤沢に使える水が在ったので、裸のアルケを水風呂に浮かべる事は出来たが、もっと患部を冷やす為には是非とも氷が欲しい
「オイラのせいだ …… 済まぬ!!」
源内はピラータに土下座する
「何だよ?」
「オイラが彼女にあそこを掘れと言ってしまったのだ、命の危険が在るにも関わらず、うっかりしていたで済む話しでは無い …… 」
「まあでも生きてたから良かったじゃん?ゲンナイが居なけりゃお宝だって見付けられなかった訳だしさ」
「せめて氷が在れば … 」
「氷?ナリノブに頼めば何とか為らないの?」
「いや、薩摩は日ノ本でも尤も暑い土地柄だからな、氷室なんぞとても造れる所では無いのだ」
西欧医学に於いても、未だ細菌や注射等の見識すら無い時代に、平賀源内は実践で身に着けた火傷治療の方策が万事手詰まりであった
「氷?好きなだけ持って行くが良い」
島津の御用邸で
源内は呆気に取られて斉宣を見返すが、若き当主は涼しい顔で氷菓子を平らげた
「ここの処、涼しい夏が続くから、我が薩摩藩でも氷室神社を拵えてみたのだ。深い井戸に横穴を掘らせてな、其処へ土佐の手箱山から氷を運ばせて貯蔵してみたのだ」
源内は斉宣ににじり寄ると、両手を取りブンブンと上下に動かしながら何度も頷く
「な、何じゃ?其方も氷菓子が食べたかったのか?」
斉宣に事情を話すと、『リヴァイアサン』に
「良し!良しっ!良しっっ!!これで何とか為りそうだ♪」
震えるアルケを氷風呂に沈めながら源内は浮かれている
「さ、寒いんだけど … ?」
唇を紫色にしたアルケがガチガチと歯を鳴らす
「辛抱せい、硫黄の島から丸2日。お前様の身体の中に溜まった熱を冷まさねば、再び歩ける様には為らぬやも知れぬのだぞ?」
「せめて何か温かい物が欲しい … 」
「待っておれ、今、薬湯を淹れるからの」
つきっきりでアルケの看病をする源内に、アン ・ ボニーもメアリー ・ リードも何も言わず見守るしか出来なかった
翌朝にはすっかり顔色の良くなったアルケが、自分で歩いて甲板へ出て来た
「おっ!?もう良いのか?」
メアリー ・ リードが目敏く声を掛ける
「よおっ、心配かけたな?」
「何言ってやがる、死に損ないが♪オメーに死なれちゃ喧嘩相手が減って寂しいからな!」
「あら、もう平気なの?」
アン ・ ボニーもアルケに声を掛ける
「ゲンナイはどうしたの?一緒じゃ無いの?」
「いま、寝てるからさ。起こさない様に空気を吸いに来た♡」
アルケは深呼吸をしようとして、火傷痕が引き攣り顔を顰める
「アイタタ …… 皮が突っ張りやがる」
「その調子じゃ、剣を握るのは当分先だな?」
「仕方無いわよ、生きてるのが不思議だったもの」
「ピラータは?宝箱はどうなった?」
「第一功労者の貴女が起きるまで、手付かずで保管中よ」
アドラステアが『アン王女の復讐号』から渡り板を渡ってやって来ると、優しくアルケをハグする
「ゲンナイは?未だ寝てるのかしら?」
「ああ、寝てる間に抜け出して来た」
「そう、ちょっと様子を見て来るわね」
アドラステアはそう言うと、キャビンへと降りて行く
「 …… なあ、アディってゲンナイの事が好きなのかな?」
「はあ?知らねぇ」
「本人に聞いてみれば?」
アン ・ ボニーはクスクスと笑っている
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます