第36話 ヌーベルオルレアン


 ヌーベルオルレアンニューオリンズの港へ入ったのは、ピラータの持つ『黒髭ティーチ』の財宝の在り処を示した地図の手掛かりを求めての事だ


 ピラータに告白されてご機嫌なレダが、聖女の肩書きを利用して、カリブ海中のキリスト教会から情報を掻き集め、ミシシッピ川沿いのこの街に手掛かりが在ると、探り当てた


 人類史上初の世界大戦とも言える『7年戦争』は長年の宿敵であったオーストリアのハプスブルク家とフランスのブルボン家が、プロイセンに対抗する為に手を結び、オーストリア、フランス、ロシア、エスパニア同盟軍対、ブリアニア、プロイセン同盟軍との戦いで、欧州のみならず植民地の覇権を争い、新大陸からインドに至るまで世界中を巻き込んだ大戦争である


 この戦争の結果、ブリタニアもフランスも深刻な財政難に陥り、フランス革命やアメリカ独立のきっかけと為った

 マリア・テレジア、フリードリヒ大王、ロシアのエリザベータ女帝、後にマリー・アントワネット、ナポレオン、ジョージ・ワシントン等と著名人が並ぶ事になるが、兎に角新大陸ではブリタニアイギリスが勝利した形で停戦調停された為、フランスの支配地域はミシシッピ川より西岸のエスパニアスペイン領に挟まれた僅かな部分にまで追いやられて居た


 勿論、欧州本国で停戦合意されても、新大陸ではまだ継戦中であり、そんな所に革命で追いやられたマリー皇女を置き去りにする訳にはいかない


「良くもまぁ、こんな所で暫定政権樹立なんて夢を見たものだわ」

 港街の食堂で名物のジャンバラヤを食べながら、ピラータがシャルルに言う


 統治者がエスパニアからフランス、今はブリタニアへと変わったが、だからと言って元々この街に暮らして居たエスパニア人やフランス人の全てが、其々の支配地域へ逃げた訳では無い


 が、あからさまな差別はそこかしこに見られる

 マリーがフランス革命から逃げ落ちた王家の姫君だと知れたら、只では済まないだろう

「仕方あるまい、フランス本土では新大陸の実情処では無かったのだから …… 」

 生牡蠣をしゃぶりながらシャルルが答える


 己の足元に火の着いた貴族達は、それどころで無いのは当然だろうが、それにしても食糧が足りなく為り『アン王女の復讐号』を襲うとか、新大陸で捲土重来を図るとか、余りにも無計画過ぎる

 無謀としか言えない計画の首謀者が呑気にシャンパンを飲んでいるのを見て、アン・ボニーも嫌味を言う


「アンタじゃあ、フランス海軍の追手には勝てなかっただろうぜ?精々アタシに感謝しな?」

「『ラ・フランス』は最新鋭の大型艦だ!負ける筈が無い!」

「今は『リヴァイアサン』な」

「うっ」

「アタシに負けた癖に」

「ぬぐぐ … 」


 王族御用達船は内部に王宮の一室を再現し、不自由無い居住性を求めた結果、大砲等の武装が犠牲と為っていた

 毎日新鮮な卵と牛乳を手に入れる為に、鶏舎と牛小屋まで在るのだ

 勿論、牛は売り払い小屋は撤去した


「まあ、腕っぷしも弱えしなぁ♪」

 メアリー・リードが追い打ちを掛けて誂うと、シャルルは顔を真っ赤にして立ち上がるが、横に座るマリーに袖を引かれて席に戻る

「 …… 負けた訳では無い」

 中々頑固な負けず嫌いである


 その時、アルケは道行く人波の中に違和感を感じた

「なあ聖女様、あの連中って何かおかしく無えか?」


 アルケが指差す方向を一瞥してレダが答える

「この街にも屍人が居る様ね、見ての通りここもブードゥの街よ」

 レダはあらかじめカリブ海の教会から情報は仕入れている


「げっ!じゃあアイツ、此処に居るのか!?」

「それは分からないわ、そもそも此処へ来た目的は別だし、向こうから仕掛けて来なければ、どうこうする積りは無いわね … 」


 レダはそう言うと、隣に座るピラータの手に自分の手をそっと重ねる

 

 


 

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