迷惑異世界のんびり道中記~ちびっ子勇者とともに~
沢野 りお
勇者召喚と逃亡
第1話 勇者召喚 ①
ここは……どこ?
座り込んだ床……、これは石?
家の自室にいたはずの私、それなら床はフローリングで手に感じるのは木の感触なのに、このザラリとした触感は、石は石でも磨かれた大理石とかではなく、ゴツゴツした岩山でもなく、ただの石?
しかも切り出し技術の拙い、デコボコを均す研磨技術も未熟な……石の床?
ここは……どこなの?
「成功だ! 勇者召喚が成功しましたーっ!」
何が「勇者召喚」だ。ただの拉致誘拐じゃんか!
自室でのんびりと過ごしていた、
しかも、家族と一緒に。
兄、
姉、
問題は……最近できたもう一人の家族だ。
「勇者召喚」の叫びと呼応するように、一段高い場所でふんぞり返って座っていた俗物丸出しのおっさん、この国の王様が喜び満面な笑顔で立ち上がった。隣に座る王妃らしき人は、吊り上がった細目をさらに細くして、口元を歪ませている。
どう見ても悪役顔な二人の視線の先には、兄の腕に抱かれた男の子がいた。
一週間前に兄が引き取ってきた橘家とは血の繋がらない遠縁の子。両親を事故で亡くしたあと、親戚の間を一年間たらい回しにされいた不憫な子。
ようやく、私たち兄妹にはにかんだ笑顔を見せてくれるようになったのに、男の「勇者様」の甲高い声に引き攣った顔をして固まっていた。
その後、興奮した王様たちが退室して、私たちが別室に移される前に、一人ずつペタリとデカイ水晶玉に手を付けさせられた。
「?」
なにこれ? と首を傾げる私の後ろで姉がクフクフと不気味に笑う。
「これは……もしかしてもしかする……ステータスの確認かしら……」
ヤバい。実の姉ながら呪文すぎて何を言っているのか理解ができん。
ただ、私たち三人兄妹が水晶に触ったとき、真っ白い装束を着た爺さんが「フンッ」と鼻で笑ったのはわかった。
その爺が、橘家が引き取り我が家の末っ子となった
なんとか、兄妹四人、同じ部屋へと案内してもらいました。
しかも、室内にまで騎士やらメイドさんがわらわらと入ってこようとしたので、断固拒否して奴らの鼻先で扉を閉めてやった。
さて、一体私たちの今の状況はどうなってんの?
勇者とされた小次郎がいるからか、案内された部屋は広く一流ホテルの客室並みに豪華仕様だった。一流ホテルなんて泊まったことないけど。
「ねえ、お兄ちゃん。これ……どうなってんの?」
いつもはダイニングテーブルで家族団欒をするのだが、今はふかふかのソファーに座っているから、なんだか気持ちが落ち着かない。
兄はフルフルと頭を振って、不安で震えている小次郎をしっかりと抱きしめている。
「菊華ちゃん、しー」
姉が口元に人差し指を当て「しー」と静かにするようにと……なんで?
姉はキョロキョロと何かを探す仕草をするが、見つからず諦めて私たちに顔を近づけてくる。
「これってアレよ。勇者召喚! 魔王を倒すために勇者が仲間と共に旅に出て、世界に平和を齎すのよ」
……あー、アレか? ゲームでよくあるドラゴン……。
「むぐぐぐ」
「やめろ、菊華。それは禁句だ」
兄の手で口を押えられ藻掻く私の姿に、小次郎がオロオロとする。
「でもね、これは……アカンほうの召喚だと思うの」
傾国の美女である姉が頬に手を添え悩まし気に「ほうっ」と息を吐いた。
「「アカン?」」
そもそも姉の容貌でエセ関西弁を使うのはどうよ?
「だって、アカンって言うのが様式美なのよ」
フンッと誇らしげに胸を張るが、姉はどちらかというとツルペタだ。
「オタクの様式美と言われても……」
「とにかく、魔王討伐のために勇者を召喚した……ってことが嘘なのよ。本当は自国の領土を拡大しようと目論んでいたり、周辺国とのパワーバランスを崩そうとしていたり、結局は自国の利益のために勇者を利用しようとするの」
私は姉の言葉を聞いて、小次郎へと顔を向ける。
「まだ、小次郎は子どもなのよ? そんな大人の思惑に利用されるなんて」
だいたい、私たちの家に来るまで、散々親戚の家をたらい回しにされぞんざいに扱われていたのに。こんな
「う~ん、じゃあ逃げるかと言っても……ここは異世界なんだろう?」
「ええ、兄さん。きっとここは日本じゃない、どこか違う世界よ。そして……私たちはもう元の世界には戻れないのが定番なの……」
そんな定番イヤだわ……。
「でも異世界っていっても言葉は通じるし、どこが違うのかわからないけど」
「いやね。異世界召喚されると自動翻訳とか自動書記とか特典があって、喋ったり聞いたりするのに支障はないのよ! それにあの水晶。きっとあれには私たちのステータスが表示されているはずよ。私たちの能力がね!」
オタクの姉の熱がすごい。
あのさ……異世界に来て元の世界に戻れないって……私、大学三年生で卒業論文とか就職とかいろいろあるんだけど?
「……じゃあ、やっぱり僕……勇者なの?」
小次郎の小さな声に、私たちは肯定も否定もできずに黙りこんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます