第4話 お金ざくざく

「どうぞ……こちらが報酬です」


 窓口の姉ちゃんがちょっと引き気味でカウンターに革袋を置いてくれた。

 中を確かめると鈍い金銀の輝き。金貨銀貨ってやつだな、何でも鑑◯団で見た。

 一応エリシアからこういう通貨が流通していることは聞いていたが、詳細はさっぱりだ。でもきんだろ?異世界でも価値は高いんじゃないの。しらんけど。


「じゃあ続いて冒険者登録を。名前と特技を教えて下さい」


「クゼだ。特技は格闘と治癒魔法だな」


 特技っていうかこれしか使えない。


「登録証は用意してあるので名前だけ刻んでおきます。はい、これで完了です」


 そうして渡された小さなプレート。ドッグタグみたいなのを想像していたのに意外と大きい金属プレートだった。何か書いてあるが読めない。


「魔石の買い取り時などに見せてください。それと、本来ならE級からのところを今回はD級からになっています。戦う力は認めたって感じです。今度からは問題起こさないでくださいよ」


「ふーん、ありがとう。んじゃもらっていくわ」


 冒険者のシステムなんて興味ないよ、俺はさっさと魔王を倒してスローライフをするのだ。冒険なんか絶対しないぞ。


 冒険者ギルドを出て宿に戻った。まずは宿泊費のお支払いだ。


「まいど!」


 女将さんに金色コインを一枚渡したら満面の笑みを返された。多すぎた気がする。施しも回収もおおらかな女将のようだ。


「クゼさん、多すぎますよ。一年中泊まるつもりですか?」


 娘っ子が話しかけてきた。女将さんの娘、ガルンさんの妹のミーナちゃんだ。


「どうせ魔物を倒したらすぐ稼げるし大丈夫だろう?お金の価値がよくわかんなくて面倒なんだ。あ、そうだ。ミーナちゃん、俺の代わりに買い物してくれないか?服とか小物とか」


 そう言ってもう一枚コインを取り出した。ミーナちゃんの目は釘付けだ。


「で、でも服とかは自分で見ないと――」


「余ったのは全部ミーナちゃんの小遣いにしてくれていいから」


「行ってきます!」


 ミーナちゃんはコインを掴んで走り出した。

 金の力に物を言わせてしまったな。だが構わない、これもスローライフの1つだ。

 あくせく買い物に走ることもなく、部屋でのんびりして過ごす。いいじゃないか。


 というわけで部屋に戻った。まずは金を数えて、今後の行動を考えないとな。


「ファーマ、金の価値は分かるのか?」


「知りませんよ人間の使ってるものなんて」


 つっかえねぇなぁとは言葉に出さず、とりあえず金をジャラジャラと並べてみた。

 金貨が7枚。銀貨が10枚。他に細かいのは無し。


「金貨の方が価値があるんだろうな。銀貨は使いやすいように入れてくれたのか?でもこういうのって含有量とかが問題なんだっけ?」


「そんなのどうでもいいじゃないですか。それより、これからどうするんですか?」


「うーむ……」


 エリシアが教えてくれたことを思い出す。彼女は悲壮な顔でこの世界の現状を語ってくれた。


――――――――――


  魔王がやってくる以前、この世界は自然に溢れていた。数多くの精霊たちの恵みの下、完全な調和とスローライフが実現していたそうだ。

 だが、突然異世界からやってきた魔王は、次々と自然を破壊して精霊たちを追いやった。

 精霊達は自然の現象そのもの。基本的に不滅の存在だ。当然魔王と戦った。

 しかし魔王と配下の魔族たちは強く、精霊達の力を奪って各地に封印してしまったのだ。


「精霊が居なくなったらどうなるんです?」


「精霊は自然そのもの。精霊を封印するということは、その自然自体を封印することに等しいのです。やがて自然は全ての力を失い、この世界は滅びるでしょう」


「じゃ、じゃあ、例えば若草の精霊が封印されたら、もう若草が生えない?」


「すぐではありませんが、やがてそうなります。そして世界は魔の力によって滅んでしまうのです」


――――――――――


 様々な自然現象を司る精霊達が居なくなった今、人間たちは魔法の力でなんとか植物を育てているって話だ。じゃあ人のいないところでは?植物が減ればそれを食べる動物も減る。自然は荒れる。代わりに居着くのは魔物だ。


 この辺りはまだ精霊の力が残っているが、魔王が降り立った地域は既に禿げ上がっているんだとか。全男性の敵だな。

 そして世界からスローライフを奪った魔王を、俺は絶対に許すことができない。こいつを倒さなくては完全無欠のスローライフは実現しないのだ。


「エリシアはしばらく魔物を狩って力を付けろって言ってたよな。でももう十分戦ったんじゃねぇか?」


 森の奥の方が明らかに魔物が多く強かった。逆に街が近づくほどに弱く少なくなったんだ。魔王城周辺スタートみたいなもんだよ。


「封印された大精霊ってのを解放しに行こうぜ。近くにいるんだろう?」


「近くにいるのは、大精霊じゃないけど力ある精霊ですね。芳果の精霊ベリエル様です」


「芳果の精霊?なんだそれ?」


「芳しい香りで虫を集める果実の精霊ですよ。この方が封印されたままだと、そのうち果実が取れなくなってしまうんです」


「ふーん、そりゃ早く封印を解かないとな」


 決めた。まずはこの精霊の封印を解く。世界が自然の力を取り戻すほど、逆に魔王の力は弱まるって話だしな。


「封印は魔族が守っているかもしれません。魔族がいなくても強力な魔物が守っているはずですよ」


「まぁなんとかなるだろ」


 サクッと解放して、スローライフへの一歩を刻むぞ!

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