大草原に新たなる風が吹く
冬乃夜
第1話 白銀の風が生まれる
「父様? この子は?」
筋骨隆々な男が赤子を連れてきた。白銀の髪をした赤子でまだ目が開いていない。そして家に着いて娘に聞かれてどう答えようかと男は迷う。すると男の妻がやって来て疑いの目を向ける。さらに威圧感たっぷりな笑顔を見せていた。
「あら? あなた? もしかして……」
「ち、違う! 俺はお前以外愛さない! この子は……その……」
悔しそうな男は歯噛みして俯いた。その姿を見て男の妻は今日何があったかを考え……答えに至る。
「もしかして……!」
男は妻へ頷いてみせた。妻は悲しげな顔をして赤子を受け取る。優しく抱いた赤子はスヤスヤと眠っていた。何も知らない赤子が不憫で男の妻は涙を流す。
そうこの赤子の父親は今日……決闘をして殺されたのだ。最悪は続いた。その父親が殺されたと同時期にこの赤子の母親が病で亡くなる。元々身体が強い方ではなく出産で弱っていたのだ。子を産めば死ぬかもしれない。そう長老から言われていた。
赤子の父親は小部族のランドウェルで希望の光だった。最弱の小部族と侮られ、決闘をすれば全戦全敗。良いカモ状態で何かあればランドウェルを狙え。欲しいものはランドウェルから奪え。そう言われていた。なぜか美人が多いランドウェルは良く女性を奪われている。何度も男たちは血の涙を流した。どうにか勝てないかと考えた時もあるが……結局は無駄であった。
そんな中で唯一勝利を手に入れたのが赤子の父親である。
ランドウェルの希望とまで言われてそこから負ける事はなくなった。積極的に攻める事もなかったが。赤子の父親が自分たちから決闘をする事に反対したからだ。高潔な人物と周囲の部族からも一目置かれていた。
今回の決闘は赤子の父親を手に入れるために行われたのだが……嫉妬した対戦相手が殺害を目論み、成功してしまった。
赤子の父親がいたために周りから侮られる事もなくなっていたが……今回の敗北と希望の消失により、また搾取されると皆が理解していた。
「この子を引き取ろうと思う」
男がそう言うと妻は頷いてみせる。男にとって赤子の父親は親友だった。必ずこの赤子を立派に育て上げよう。そう心に誓いながら赤子の頭を撫でて名を呼んだ。
「マファリ」
この名は小部族の長老に付けられた。古代語で――。
そしてこの赤子が全部族にとって新たなる風を吹かせるとは長老以外誰も予想していなかった。
そう長老だけが予言していたのだ。
「この子は風を吹かせる。それが善か悪かはわからぬが……」
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