第45話 山賊の襲撃

 ガサリガサリと音がして、しげみから次々と山賊が現れる。

 その数は十を超えていく。

 まずいな、近衛兵二人で対処できる数じゃない。しかも、これで全部とは限らない。まともに戦っては勝ち目がなさそうだ。


「おまえら、なにものだ!? 我らをスキュレット近衛兵と知っての行動か!」


 ヘクトルは大声をあげる。

 だが、山賊どもはそれには答えず、ジリジリと距離をつめてくる。


「クソ! きさまら」


 ヘクトルとファウストが剣を抜いた。

 どうやら応戦するつもりらしい。

 だが、かなり厳しい戦力差だ。勝機はあるのか?

 とはいえ、馬車から馬を解放してしまっている。逃げるのも難しい。


「われらが食い止めます。殿下は馬に!」


 まあ、それしかないよね。

 自分たちが時間を稼いでいる間に俺だけ馬で逃がすのが、近衛兵として一番現実的な選択だ。

 でも――


 木の陰からまた山賊が現れた。それは馬をつないでいるすぐ近く。

 山賊はおまえたちのやることなど全てお見通しだと言わんばかりに、俺たちと馬の間に立ちふさがった。


「クッ!」


 これはけっこう絶体絶命だな。

 しかし、この山賊の行動、積み荷が目的じゃないな。

 狙いはやっぱり俺(ラピス)か? スキュラにいるラピスがニセモノだとばれたらこまるやつらの差し金。

 ――いや、まだ判断しきれない。本当にただの山賊で、貴族をさらって身代金を要求する手口の可能性もある。


「ラピス殿下、降参しましょう」

「な!」


 降参を提案したのは分隊長ファウストだ。

 そして、それに驚いたのはヘクトル。信じられないといった表情でファウストを見る。


「ばかな、近衛兵が山賊なんぞに降伏しろと!?」

「それが一番、生き残れる可能性が高い!」


 降伏か……。

 たしかに、こいつらが本当にただの山賊なら、降伏しても助かる可能性はあるな。

 だが、ラピスがニセモノだとバレたら困る勢力だった場合、俺の命はない。

 やっぱり降伏はムリだね。今回はヘクトルが正しい。


「降伏など納得できるか!」


 ヘクトルはそう叫ぶと、ピイイと口笛を吹いた。

 その瞬間、木につないでいた馬の一頭がヘクトルに向かって駆け出す。

 すると不思議なことに、木につないでいたはずの紐がスルリと木から外れていくのだ。


 え? なんだ? あれ。

 これにはさすがに驚いた。


「殿下、馬に!」


 馬は不意を突かれた山賊を蹴り飛ばし、猛然と駆けてくる。

 手綱をつかもうと手を伸ばすヘクトルとの距離はあともう少しだ。

 だが――


「ヘクトル!!」


 俺はそう叫ぶと、石を投げた。

 なぜなら、ファウスト分隊長がヘクトルの背中に剣で斬りかかろうとしていたからだ。


「ぐあっ!」


 ヘクトルはすんでのところで体をひねって剣の直撃をかわした。

 しかし、右腕をザックリ斬られてしまった。あれじゃあ剣は握れない。


「ヘクト~ル。困るんだよ、勝手なことをしてくれちゃあ」


 ファウストはそう言いながら切っ先をヘクトルに向けた。


「グッ。ファウスト分隊長、気でも狂ったか?」

「いいや、俺は至って正常だよ。こうするのが一番いいのさ」


 そう言うとファウストはクククと笑い声をあげる。

 それに同調して山賊どもも笑い声をあげた。


 そうか、やはり近衛兵の中に裏切者がいたか。

 ヘクトル、ファウストともに疑っていたんだけどね。

 どうやらファウストだけが裏切者らしい。

 じゃあ、ヘクトルは助けないとね。


「いや、よくはないねファウスト分隊長、それは一番おろかな選択だよ」


 割って入ることにした。

 注意をこちらに向けさせてもらう。

 トドメとばかりにバッサリ斬られても困るからね。


「なんだって、ラピス殿下? 石を投げることしかできない弱者が、ずいぶんエラそうな口をきくじゃないか」


 そう言って振り返ったファウストの顔は、これまでの温和そうな面影などひとつもなく、とても醜悪な顔をしていた。


「それが本当の顔かい? ファウスト分隊長」


 まじ悪人面だな。山賊の頭でも違和感ないよ、まったく。


「……フン、当たり前だろう。なぜ、わたしが混じり物に頭を下げねばならんのかね?」


 混じり物!

 それは俺がレスターとスキュラ両方の血を引いてることを言ってんのか?

 コノヤロー、さすがにちょっと傷ついたぞ。


「なぜってそりゃあ、頭を下げたら石に当たらなくてすむからじゃない? 痛かったでしょ? 後頭部」


 そうなのだ。じつは俺の投げた石は見事ファウストの後頭部に直撃していたのだ。

 それでも平気な顔をして剣を振っていたファウストはなかなかの石頭だ。

 

「クッ、口の減らねえガキだ。今の状況分かってるのか?」


 ファウスト分隊長に言われるまでもなく、状況は理解している。

 山賊はすでに俺たちの周りを取り囲んでいる。

 もう馬で逃げるのもムリだ。


「もちろん、分かってるよ。アンタがニセモノ擁立派で、この山賊どもを雇ったんだろ?」


 もし俺がニセモノ擁立派だったらって考えたら出た案の一つ。

 首都に向かう途中襲撃する。

 そして手引するなら一緒に行動している人。あんたら二人しかいないもんね。


「クククク、やるじゃないか。まさか最初から疑ってたのか?」

「当たり前でしょ。変な行動多かったもん。最初に会ったときヘクトルとのやり取りをなかなか止めなかったし」


 ヘクトルがイキリ散らしてるとき、ファウストは止めなかった。

 というか、ずっと俺を観察してたよね。気づいてたよ、俺。


「ほう?」

「あと、俺がラピスだって証拠求めなかったでしょ。普通証拠があるって言われたら確認しない? 王に見せるもんだよ」


 変なもの王に見せられたら自分たちの身だって危ないのにさ。

 それを確認しないのは最初から見せる気がないか、あるいは――

 

「……」

「あと俺の顔知ってたよね? 見たことあったんでしょ? レスター領で」


 ファウストは最初から俺がラピスだって知ってた。

 だから証拠とかどうでもよかったんだよね。俺が生きてること自体邪魔なのよ。


「クックック、ずいぶん頭の回るガキだ。ならもう分かってるよな。自分が殺されるって」


 あー、ついに悪役全開のセリフがきたか。

 もちろん、分かってるよ。あんたたちが俺を生かすつもりがないことぐらい。

 でもさ。


「い~や、アンタに俺は殺せないね。分かってないでしょ? 俺が時間稼ぎしてるって」

「なに!?」


 準備オーケー。

 もう俺の勝ちね。


「俺が石を投げるだけしかできないって? じゃあ、この石はどう? 当たってみる?」


 そう言って指先を大きく天に向ける。

 それからスーっと下におろしてきて、ファウストの後ろの木でピタリと止めた。


「は? おまえ、なんのマネ――」


 ドゴンとすさまじい音がした。それは超高速で打ち出された岩が、木々を粉砕していく音だった。

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