第50話 三分の一
四回の表もシーグルズは無得点。
ヒットが一本出たが、得点源に進めず。
二番から始まるライガース打線の前に再び智久が立ちふさがる。
今日はどこまでか、そんなことを考えながらミットに投げ込む。四回になって少し球速が下がってきているが、そこまでの差異はない。
(まず抑える......)
打席に入ったのはアイトン。
前の打席よりもバットを短く持っているのは三振に倒れたからなのか。特に気にせずボールを投げ込む。
遊び玉を二つ使いながらストライクを二つと追い込む。
アイトンはさらにバットを短く持って少し身を屈める。
ストライクゾーンが狭くなるも、智久には通用しない。
もともとスイッチヒッターや構えを小さくするのは制球が悪い投手には効果的だが、智久のようなコマンダーには外国人特有のパワーを打ち消した欠陥打法だ。
上手く打たせてポップフライを打ち上げる。
アイトンの悔しげな表情を横目に智久は自身のグラブで捕球、ピッチャーフライ。
そして鳴り響くは重低音。
魔王のような登場に智久は武者震いをする。
(あいつが魔王、いや俺が魔王か......)
勇者は魔王を討伐する、これはRPGの定番。
これは打者が投手を倒す構造に似ている、ならば中浜が勇者の方が正しいのだろう。
構えに入った中浜にクイックでストレートを投げ込んだ。ランナーの居ない場面でのクイック、ファンやベテラン選手などはセコいなどとも言われる。だが、智久にとっては、いや技巧派にとっては勝負の手札の一つだ。
少しびっくとしたように見送る中浜。
中浜は睨みつけることもない、これが勝負の一つだと知っているから。だが、ライガースファンは違う。
「「「ブーーーーー」」」
四方八方からこれでもかと言われるほどブーイングが起こる。これもライガースの楽しみ方の一つでもある。選手からしたらたまったものではないが、智久は意外に疎かった。
とはいえシーグルズファンもけっして民度が良いわけではないから大声では言い返せない。
二球目に選んだのはチェンジアップ。
スプリットを多投しはじめてから投げる頻度は減ったが、カウントを整える球種としてはとても優秀だった。
少し浮いたチェンジアップを中浜は仕留め損なう。
下を擦った打球はバックネットに突き刺さった。
ツーストライクノーボール。
完全に投手有利のカウント、ここから智久はボール四つであと一つのストライクをどう取るか。
そこから遊び玉を一つ使ってタイミングをずらす。
最後はカットボール、決まっていた。
智久はここもクイック気味で足を上げない。
前の球のカーブを活かすために。
外角へと鋭く曲がるカットボールに中浜はなんとか反応する。かろうじて伸ばされたバットにボールはコツンと当たる。
打球はふらふらとセカンドとライトの間を漂う。
智久の打席のように上がった打球をセカンドが飛び上がって捕球しようとするがポロリと落ちる。
勝負には勝った、だが結果は負けたと言えるだろう。
智久は少し気落ちしたものの、持ち直す。
だが、智久は忘れていた。中浜が走攻守において一流の選手だということを。
盗塁しにくい左投手にも物怖じせず、中浜はスタートを切る。クイックが速い智久に肩の良い中川のコンビも完全に盗まれ、何も出来なかった。
「セーフ!」
ショートの大友が良いタッチをするもセーフ。
余裕のセーフだった。
これで智久は調子を崩す。
滅多にない暴投を地面に叩きつけ、中浜が三塁に到達。
お役目御免と言わんばかりに四番が犠牲フライを放って一点。
ライガースにとっては先制。
この試合では、とてもとても大きな一点だった。
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