第27話 ハルロゥのダンジョン攻略4
第2層へと降りてから以降も、ジンたちは順調にダンジョンの奥へ奥へと進んでいく。
やはり本来は【初級】とされていることもあり、遭遇する魔物は全て弱く、アフィンやクナイの戦闘力を以てすれば取るに足らない障害でしかなかったからだ。
とはいえ、制限時間という観点から見ると少し焦りが生じていた。
それはひとえにこのダンジョンの構成に起因している。
ハルロゥのダンジョンという場所は、下層へ降りても第1層と同様に一本の通路とそれに沿って並ぶ部屋で構成されており、人工地形構造という括りの中でも際立って人工的だった。
そして部屋の内部にしか魔物と罠は設置されておらず、アフィンの【サイレントマスター】を用いれば無駄な戦闘も回避可能で、下層への階段を開放する条件も全て魔物の討伐という単純明快なものだ。
しかし、問題は層を降りる毎に部屋の数が6部屋ずつ増えてゆく構成になっていることであり、第5層へと到達した現在、フロア全体の部屋数は30にも達している。
部屋の数が増えるということは単純に制限時間が削られていくことと同義であり、ジンたちは順調な進行とは裏腹にジリジリと追い詰められていた。
ジンが【
「30部屋はさすがに骨が折れるね。ここに来るまでに50分近く経過している。もういっそ僕とクナイが二手に分かれて、片っ端から部屋の雑魚を片付ける方が手っ取り早くないかい?」
不測の事態に備えて体力を温存するためとはいえ、これまで通りひと部屋ひと部屋を慎重に精査していてはタイムオーバーなのは必至だ。
そんな考えから至ったアフィンの提案だったが、クナイは小さく首を振る。
「それは同意致しかねます。魔物を倒すだけならアフィンの案でも良いと思いますが、私たちはトラップに関しては無知なのでジンさん頼りです。
そしてその案を採った場合、ジンさんは私に帯同してもらいますので、アフィンは確実に死にます」
「確かにそうかもしれないけどさ、親指立てながら言うことじゃないと思うんだ……いや、だからって下にも向けないでくれよ」
さりげなくジンを傍らに引き寄せながらアフィンの提案を否定するクナイ。
そんな二人のやり取りにジンは苦笑を浮かべながら頬を掻く。
「いやまぁ、そこは大丈夫だよ。30部屋あるのは確かなんだけど、この層は部屋を調べる必要はないんだ。そして、この第5層が最下層だよ。おそらくね」
その言葉に二人は顔を見合わせると、言葉の真意を問うように顔を覗き込んだ。
「ということは、このフロアのどこかに慰霊碑の部屋があるってことかい?」
「ジンさんは魔物の位置が把握できるということですから、すでにその部屋の場所も判明しているということですね」
ジンはコクリと頷くと、頭の片隅にある【意識の羊皮紙】と目の前に伸びる通路を重ねて最奥を指差す。
「このフロアの一番奥にある部屋が、慰霊碑のある部屋で間違いないよ。魔物も罠も設置されていない唯一の部屋だからね」
ここに至るまで全ての部屋に魔物が配置されていたせいで下層への部屋を虱潰しに探す必要があったが、この第5層だけは魔物と罠の存在が表記されてない部屋がひと部屋だけあった。
そしてジンの予想が正しければ、その部屋こそがハルロゥの隠し倉庫代わりとなっている場所のはずだ。
「行こう。あと10分でハルロゥの衛兵が異変に気付くはずだからね。追いつかれるまでに多少の猶予はあると思うけど、早く裏帳簿を見つけ出して王都に戻ろう」
そう言って先導を再開したジンに、アフィンとクナイは頷いて後を追う。
そして長い長い通路を抜け、三人はついに最奥の部屋へと辿り着く。
ジンは緊張をほぐすように一度深呼吸をしてから、ゆっくりと扉を開き、慎重に部屋の中へと入る。
「────な、これって……」
そして、部屋の中に広がっていた光景に絶句した。
「……これはこれは、実に壮観だねぇ。感心するよ」
「……そうですね。人とは、これほどまでに欲望に忠実になれる生き物なのですね」
後に続いて部屋に入った二人も、辺りを見渡して呆れたように皮肉を漏らす。
かつて『ダンジョンボス』の部屋であった場所には、攻略の礎となった冒険者たちを讃えるための慰霊碑が建立されている。
しかしその慰霊碑は、今や略奪によって山と積み上げられた金銀財宝に埋もれ、ハルロゥという者の満たされることのない欲望に呑まれようとしていた。
まさにクナイの言っていた『強欲の魔物』の姿がそこにはあった。
しかし、いつまでも狼狽ている時間はない。
「……探そう。これだけの隠し財産だからね。裏帳簿は絶対にあるはずだよ。アフィンはオレと手分けして探索。クナイは入り口を見張ってて」
「へいっ!」「はい!」
ジンは込み上げる怒りをどうにか堪えながら、二人へ次の行動を促した。
アフィンとクナイも表情から感情を消すと、欲望の沼の中でそれぞれの行動に移る。
硬貨の海を掻き分け、財宝に中に埋もれた宝箱を開き、宝石の山から突き出た衣裳箪笥を覗き込む。
目も眩むような輝きの中で反吐を吐きそうになりながらも、ジンはついにそれを見つけた。
「あった! これだ!!」
宝石を散りばめた人皮装丁で拵えられている、一冊の重厚な本。
ただでさえ悪趣味なその一冊は、こともあろうか、冒涜に冒涜を塗り重ねるように慰霊碑の影へと隠されていたのだ。
恐る恐る開くと、その中には夥しい量の略奪記録や裏取引が事細かに記されており、怪物の深淵を覗き見たジンは吐き気を催した。
「ジン先輩、大丈夫かい? そんな醜悪なモノを眺めるのは目に毒だよ。早くバッグに仕舞って」
駆け寄ったアフィンが支えてくれたおかげで、ジンはどうにかその場で崩れずにいられた。
ともあれ、これで目的の物を手に入れることが出来た。
あとはこれを王都へと持ち帰り、然るべき者に手渡さなければクエスト完了とはならない。
そしてタイムリミットも限界、一刻も早くこの胸糞悪い場所から離脱しなければならない。
「クナイ、帰ろう────」
ジンが帰還のためにクナイを呼ぼうとした、その時だった────
「そこまでだコソ泥ども」
────アフィンやクナイのものではない、第三者の声が響き渡った。
ジンの背筋にゾクリとした悪寒が走る。
そして弾かれたように振り返ったジンは、視界に飛び込んだ光景に思わず叫んだ。
「クナイっ!!」
部屋の入り口を見張っていたはずのクナイはジンの呼びかけに応えることはなく、四肢をだらんと弛緩させ、後ろ髪を鷲掴みにされていた。
ジンは恐る恐るクナイを捕らえている者を見上げると、その正体に息を呑む。
「……え、Aランク冒険者、クラッド=ティヴァーっ!?」
「よくもまあ、この俺様のシマで好き勝手に狼藉を働いたものだ。貴様ら、代償は高く付くぜ?」
その男────クラッド=ティヴァーは、そう言って悪意に満ちた
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