第19話 依頼達成と報酬
その後、ジンたちは依頼の報告のために冒険者ギルドへと訪れていたのだが、そこではちょっとしたざわめきが起こっていた。
「……こ、これはまた、随分と大量の素材を採取してきましたね」
受付カウンターの上に山と盛られた素材の数々を見上げ、ギルド職員の男は目を白黒させる。
そして、この場に居合わせていた周囲の冒険者たちも動揺していた。
それも当然だろう。
その素材を持ち帰ってきたのは、昼間散々馬鹿にしていた『役立たずとイキり新人』のコンビなのだから。
「というかこれ、お二方でダンジョンから持ち帰ったんですか? この量を?」
「あ、それはジン先輩が────いてっ!?」
「そうですよ。この後輩は腕っぷしが自慢なのでコキ使わせてもらいまいました」
口を滑らせかけた後輩を肘でど突きつつ、ジンはギルド職員にしれっと言う。
嘘はついてない。
オオカミの素材は全部アフィンに持たせたし、ダンジョンから持ち帰ったのも事実だ。
だが、ロビーで聞き耳を立てていた冒険者たちは耳を疑っていた。
「おいウソだろ。あの役立たずのジンだぞ? しかも新人と二人でオオカミの素材まで? あり得ねえ……」
「つっても初級ダンジョンだぜ? まぁ、オオカミはちょっとアレだけどよ……」
異様な雰囲気の中で居た堪れない気持ちになりながらも、ジンはギルド職員に先を促す。
「それでは精算をお願いします。出来れば急ぎで。オレもアフィンもまだ今夜の宿を決めてないので」
「あ、そうですね。それではお二方の冒険者証を一度お預かりしますね。 ────誰か、手が空いてたら手伝ってくれないか?」
ギルド職員が他の職員を呼ぶと、商業ギルドから出向している職員が駆けつけ、手慣れた手つきで鑑定をしてゆく。
「ふむふむ。はい、確かに。『ダンジョンアナグマの革』が10個。依頼達成ですね。あとは追加採取として『ダンジョンコウモリの羽』が15、『ダンジョンオオカミの牙』が2、『ダンジョンオオカミの毛皮』が1、『ダンジョンオオカミの尾』が1、『ダンジョンオオカミの獣耳』が2……っと」
テキパキとリストアップされて行く中でも、やはりオオカミ素材は格別に大きい。
そしてちゃんとレア素材の扱いとして鑑定されているので、周囲の冒険者たちも生唾を飲み込む。
「え? スゲェなあれ。初級ダンジョンってあんなに稼げたっけか?」
「いや、初級ダンジョンに行ってたのは駆け出しの頃だし、その頃にオオカミなんて相手しきれなかったし……」
「ランク上がったりパーティー全体の評価が上がると、そもそも初級ダンジョンなんかの仕事回ってこないしな」
「つかオオカミ一式揃ってんのヤバいぜ。職人に渡せばいい装備になるぜアレ。むしろ俺が買い取りてぇよ」
野次馬と化した冒険者たちが、感嘆とも困惑ともいえる感想を漏らしながら見守る中、ついに結果が言い渡される。
「えっと、はい。ではこちらになりますね。依頼達成報酬がこちらで、残りの素材は依頼とは関係のない採取なので若干値が下がりこちらになりますね」
ギルド職員が小さな黒板に書き込んだ明細を差し出しながら問うと、それを遠目に覗き込んでいた冒険者たちから『おぉ……』と思わず声が漏れる。
それも無理もなかった。
やはりオオカミの素材が高く、査定が下がっているとは言え物価の高い王都で二週間は遊んで暮らせる評価額だったのだ。
「ジン先輩、なんかさっきから外野がうるさいね」
「まぁ、そこそこ値が張る素材が手に入ったからね。冒険者ギルドあるあるだと思って良いよ」
アフィンが少しだけ鬱陶しそうにしていると、ジンは苦笑を浮かべて宥める。
それこそ、普段はジンだって野次馬の立場だったのだから彼らの好奇心を咎めることは出来ない。
「ちなみにオオカミの素材は一式揃っていますので、職人ギルドを介して装備品に加工する事もできますけど、どうしますか?」
ギルド職員の勧めにジンは少しだけ悩む。
確かに買取となると、オオカミとコウモリの素材は今回の依頼とは関係がないので、冒険者ギルドの在庫となるために買値は下がる。
しかし、ジンが欲しいのは今後の冒険のための蓄えだ。
オオカミの装備一式となれば駆け出しにとっては良い装備だが、加工代もけっして安くはない。
「いえ、今回は全て買取でお願いします。アフィンもそれで良いよね?」
「ああ、僕は構わないよ」
同意を求められたアフィンは快諾するが、すぐに何かを思い出したようにパチンと指を鳴らす。
「あ、でもさ、オオカミはジン先輩一人の功績だから、僕の取り分からは差し引いておいてね」
「え、それは折半でいいよ。いや、アナグマとコウモリを全部倒してもらった分、アフィンの取り分が6でもいいくらいなんだけど」
「いやいや」
「でもでも」
取り分について二人が遠慮し合っていると、その様子を窺っていた冒険者たちはまたざわつきはじめた。
「……おい、俺の聞き間違いか? あのジンが一人でオオカミを倒したって言ってなかったか?」
「……奇遇だな。俺もそんな幻聴を聞いた気がするんだ。もしかして、ダンジョンで呪いのトラップにでもかかってたのか俺たち?」
そしてにわかに信じがたい光景を目の当たりにして彼らは自身の正気を疑い始めたのだが、当の本人たちは譲り合いに夢中になって気づいていなかった。
「あ、あのー、お宿が決まってなくて急いでいたのでは?」
そんな中、ただ一人冷静なツッコミを入れてくれたギルド職員にジンはハッと我に返ると、アフィンに向かって奥の手を使った。
「オレ、先輩、アフィン後輩」
「ああ、そうだね」
「先輩の指示には?」
「そうきたかい……いいよ。仕方ない。折半にしよう」
そうして、二人はそれなりの報酬を折半してギルドを後にするのだった。
そして、ロビーにいた冒険者たちはしばらく二人の話題で盛り上がるのだった。
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