第13話 初級ダンジョン攻略開始
「……良し。いいだろう。健闘を祈る」
「神のご加護があらんことを」
衛兵はジンたちが提示した冒険者証を確認すると、ダンジョンのドアを開いて二人を中へと促す。
ドアの先に伸びているのは地下へと続く石造りの階段だ。
暗く先の見えない階段は、怪物が人を丸呑みしようと口を開けて待っているような不気味な雰囲気があった。
「さあ、行こうアフィン。僕が先導するから、しんがりを頼んだよ」
「任せといて。ジン先輩を襲う不届者は全員ぶった斬ってあげるからさ」
気持ちを入れ替えるように声を掛け合うと、二人はドアをくぐって階段を降り始める。
衛兵がドアを閉めると、鋭い陽の光に変わって仄かで淡い光がダンジョン内を浮かび上がらせた。
決して明るいわけではないが、屋内でランプを灯した程度の明度はある。
入り口の外観と同様に、灰色のレンガが積み上げられた壁が規則正しく奥深くへと続いていた。
コツ、コツ、と足音を響かせながら、二人は慎重に奥へ奥へと進んでゆく。
「ねえ先輩、ダンジョンって照明が設置されているわけでもないのに、結構明るいんだね。どういう仕組みなんだい?」
「それはオレもわからない。ダンジョンを研究をしている部署がギルド内にはあるらしいけど、まだよく分かってないみたいだよ。普通に暗い地下ダンジョンもあるからね」
ジンの経験上、明るいダンジョンは比較的構造が単純でギミックも簡単、命を落とす脅威のある魔物も少ないし罠も少ない印象だった。
しかし、攻略が容易なことと引き換えに得られる物も価値の低い物が多い。
ギルドがこのダンジョンを【初級】としているのは、そういった要素を加味した結果の位置付けなのだろうとジンは思う。
「っと、どうやら最初のフロアに辿りついたみたいだね」
階段を下り終えた二人の目の前には広いと思える空間があったが、ダンジョンの光源はやはり暗く、視界は10メートルといったところだった。
ジンは一度立ち止まると、ローブの襟元から首に掛けていた麻袋を引っ張り出し、その中から一枚の書類を取り出す。
「ジン先輩、それは?」
「このダンジョンの簡易攻略図だよ。といっても、参考程度の資料でしかないけどね」
このダンジョンは既に踏破済みのダンジョンであり、さらには数多の冒険者たちが資源採取のために訪れてはギルドへ報告するので、こうしてノウハウとして情報が蓄積されてゆく。
とはいえ、トラップやギミックは日を跨ぐごとにリセットされ、ランダムに再設置されるのが多くのダンジョンで共通事項だった。
それゆえに、簡易攻略図はそのダンジョンにおけるおおよその普遍的な要素がまとめられた資料となっているのが実情だ。
「んとね、資料によるとこのダンジョンは5階層で、人工地形構造……要するに、垂直と平面で構成されている人為的な建造物に近い構造ってことだね。
下層へのアクセス方法は各フロアのギミックの解除で、難度は【低】。トラップも少ないし、掛かっても比較的軽傷で済むものがほとんどみたい。
遭遇する魔物は『ダンジョンアナグマ』『ダンジョンコウモリ』がほとんどで、稀に『ダンジョンオオカミ』と出くわすけど、コイツは手強いから要注意。
ちなみに宝箱は全て回収済扱いで、ここ数年リポップの報告も無し。ボーナスは無いみたいだね。
あとは、最下層にギルドが設置した慰霊碑に添えてある【献花の短冊】を持ち帰れば、冒険者証に踏破記録を付与してくれるよ」
「へぇ。……何だか冒険っていうよりは、オリエンテーリングみたいな気分になってきたね」
ジンが簡易攻略図に書かれた概要を伝えると、アフィンはなんともいえない表情で頬を掻く。
しかし、ジンは小さく首を振った。
「その気持ちはわかるけど、この簡易攻略図がオリエンテーリングと思えるようになるまでに、数多の礎があることを忘れないようにね。
ここがダンジョンで、オレたちは冒険者で、油断が命を落とす可能性に繋がることには変わりないんだ」
釘を刺すジンに、気が緩みかかっていたアフィンは感嘆を漏らす。
「へぇ、流石は冒険者の先輩。今、ジン先輩からかつてない程に先輩風を感じたよ。最大瞬間風速を塗り替えたといっても過言じゃないね。うん、肝に銘じておくよ」
「馬鹿にしながら素直に納得するの、対応に困るからやめてもらっていいかな?」
後輩の弄りながら持ち上げるといった奇異な行動に困惑しつつも、ジンは気を取りなおすようにかぶりを振ると、麻袋を懐にしまってアフィンを見上げる。
「とにかく……アフィン、ここからは魔物と遭遇する可能性があるから気を引き締めて。もちろん魔物が『ダンジョンアナグマ』だったら討伐して資源を回収するよ」
「へいっ! ……というかジン先輩、さっきから何だか緊張してる? なんかこのダンジョンが初めてみたいな口ぶりだしね?」
「ん、そうだよ。だから、結構緊張しているよ」
アフィンの疑問に対し、ジンは素直に認める。
今までジンは【レックレス】に所属していたこともあって、今回のような低難度ダンジョンは初めてだった。
さらにはパーティーを率いる立場に立つのも初めてのことだった。
いかにダンジョンや仕事内容のレベルが低くとも、齢15の少年に仲間の命を預かって緊張するなと言うのは難しいだろう。
しかし、先輩先輩と言ってここまで付いてきてくれた後輩に無様な姿を見せたくはない。
ジンは自身を奮い立たせるように拳を握りしめると、アフィンに向かって突き上げる。
「でも心配はいらないよ! この経験豊富なジン先輩が、アフィンの初冒険を無事成功に導いてあげるからっ!!」
気丈に振る舞うジンにアフィンはクスリと笑うと、突き上げられた拳に拳を合わせる。
「ま、緊張しているジン先輩も可愛いからいいけど、頼りにしてるよ、先輩」
「先輩に向かって可愛い禁止」
「あ、ごめん。それは無理」
「そ、即答するなよぉ……」
せっかく雰囲気が盛り上がっていたところに、すかさず水を差されて項垂れるジンだった。
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