外に出ると死ぬので、移動要塞【俺の家】に引きこもったまま世界無双します。~戦略級の砲撃で敵を消し炭にした直後、家族になった美少女たちと囲む温かい食卓が最高すぎる~
ミオニチ
第1話 【俺の家】、起動。
──だから決めた。家ごと、往く。
***
ズドォン! 轟音とともに放たれた一撃が仮想標的を爆砕させる。跡にはチリ一つ残っていない。
それを確認し、俺は――仮想戦闘モードを終了させた。
「よっし! 3021項目の動作チェック、すべて完了! 約3年、15歳にして……くーっ! ついに、完成したぜ!」
青白い魔力光が操作室を満たし、壁の魔力回路が脈打つように輝く。
カタカタと操作盤を叩く指を止め、俺――魔導技師ヒキール・コーモリックは両腕を上げ、快哉を叫んだ。
俺は筋金入りの出不精だ。
いや、正確には「出られない」と言うべきか。
生まれつき魔力が異常に多く、外に出て少し魔力を使うだけで自家中毒を起こす。
ちょっと走っただけで息が切れ、高熱を出して動けなくなる。最悪、死ぬ。
前に少し鍛えようと外に出たら、動けなくなった俺をベッドに運び、シルキアに夜通し看病されたのが記憶に新しい。
だから俺は、3年前からこの屋敷に引きこもり、ある研究に没頭してきた。
外の世界へ行くために。
失踪したクソ親父や、偉大な祖父を超える、世界最高の魔導技師になるために。
「シルキア!」
逸る気持ちで操作室を飛び出し、俺は長い廊下を駆ける。
バタン!
外部魔力センサーのセキュリティに反応し、家の入口が開いた。
「ただいま戻りました。もう、ヒキールさま。落ち着いてください。走ったら危ないですよ。めっ、です」
さらりと輝く銀髪を三つ編みにしたメイド服のシルキアが、紫水晶のような瞳で指を口もとに添えて俺を優しくたしなめる。
彼女はコーモリック家を支えるハースメイド家の娘で、俺の唯一の家族だ。
「シルキアっ!」
もう一度叫び、湧き立つ想いのままに飛びつく。
シルキアは包みこむようにやわらかくその大きな胸に俺を抱きとめてくれた。華奢に見えてその体幹にブレはまったくない。
「ふふ。もう、そんなふうに飛びついたら危ないですよ。15歳になり成人なされても、まだまだ目が離せませんね」
「なあ、シルキア! 聴いてくれ! ついに完成したんだ! 3年かけた俺の夢! もうこの人里離れた何もない田舎にひきこもるのは終わりだ! 俺の夢は、ここから始まる!」
「まあ、本当ですか! おめでとうございます、ヒキールさま! シルキアは、ずっと信じていました…!」
瞳を潤ませたシルキアが胸の前で手を合わせ、微笑む。
世間で「ひきこもりの穀潰し」と陰口を叩かれようが、彼女だけはずっと俺の味方だった。
俺は居住まいを正して、シルキアと向き直った。
「シルキア。これから俺は、世界に出る。秘境に魔境、そしてすべての未踏領域を目指す。一緒に行ってくれるか?」
「はい! ヒキールさまと一緒なら、どこまでもついていきます!」
即答だった。その言葉に、俺の胸が熱くなる。
二人ならきっと、どんな場所だって怖くない。
「そういえば、シルキア。冒険者ギルドへのおつかい、どうだった?」
俺が尋ねると、途端にシルキアの瞳が真剣な色を帯びた。
「はい。多少トラブルはありましたが、無事に。……ですがヒキールさま、気をつけてください。近隣の魔境の森から、なんと二千体を超える魔物のスタンピードが発生したとのことです」
「スタンピード……!?」
「すでにいくつかの村が壊滅。都市テファスからは200人の冒険者が迎撃に出ているらしいですが……ヒキールさまは危ないから、絶対に近づかないようにしましょう!」
本来なら、その通りだ。
虚弱体質の俺がそんな戦場に行けば、魔物の餌になる前に魔力中毒で倒れて終わる。
──だが。
「マジか、スタンピード!? そいつはおあつらえ向きだ! 完成した『戦闘機構』を試すには、最高じゃねえか!」
「――はい? 戦闘機構?」
シルキアが目をぱちくりとさせ、俺はニカッと笑う。
「ああ、そうだ! 外に出ると死ぬなら、家ごと往けばいいんだよ! 俺の3年間の努力と夢の結晶! この移動要塞【俺の家】で!」
――ガシャン!
俺は操作盤へ魔力を送る。生体魔力通信操作。
全方位の魔力センサー、大気中の魔力吸収機構を起動。
移動要塞の動力源――膨大な魔力を秘めた【黒星の欠片】が輝きとともに動き出す。
ズズズズズ……!
地響きと共に、屋敷の外壁から、大木の幹のように太く頑丈な8本の魔法金属脚が展開。蜘蛛のように地面をしっかりと踏みしめ、巨大な屋敷を持ち上げる。
「ヒキールさま!? や、屋敷が……この【家】が動いてますっ!?」
「へへ! 悪ぃ、シルキア! 説明は道中な!
さあ、往くぜ! 秘境、魔境、未踏領域に未知の素材! 見てろよ、クソ親父! いま俺があんたに追いつき、超えてやる! さあ、まずはスタンピードだ!」
――ガシャガシャン!
シルキアを腕に抱き、俺の止まっていた3年の時計の針を動かすように、【俺の家】が動き出す。
直後。魔力センサーが上空高くに反応を示した。
肉眼では豆粒にしか見えない距離を、魔導カメラとモニターではっきりと捉える。
空を悠々と飛ぶ白い巨鳥。農作物や家畜を荒らす害獣だ。
「よっし! 試運転ついでだ! 【家】の完成の祝砲代わりに、一丁いくか!」
ズドォンッ!
屋根からせり出した砲塔が、斜め上へと向けた光の奔流を放つ。
巨鳥魔物は悲鳴を上げる間もなく一撃で消し飛び、まるで祝福のように白い羽だけが舞い落ちてきた。
「へへっ! どうだ、シルキア! この【俺の家】の火力、すげえだろ!」
シルキアは、呆然と空を見上げていた。
「こ、この威力……!? ヒキールさま……まさか、本当にスタンピードに……!?」
「さあ、次は二千体の魔物だ! 全速前進、往くぜシルキア!」
――こうして、俺は。
世界最高の魔導技師になるために。そして、世界のどこかにいるまだ見ぬ「家族」を求めて。
大切なシルキアを傍らに。
――最強の移動要塞【俺の家】とともに、その偉大なる"一歩"をいま世界へと踏み出した。
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