求婚! 銀河の変態宇宙人

 その日、愚楽は地球の屋台でラーメンを啜っていた。

 湯気が立ちのぼり、いい塩梅に幸せだ。


 だが静かな時間は、一瞬で終わった。

 空が割れ、奇妙な円形飛行物体が降りてくる。

 地面に着地するなり、ハッチが開き――

 触手が揺れた。


 人型ではある。

 しかし腕が4本、触手が2本、そしてなぜか胸にハートマーク。

 宇宙人が両手(4本)を広げて宣言した。


> 「偉大なる愚楽さまあああああ!!

  どうか私と婚姻してくださぁぁい!!」


 ラーメンを吹く愚楽。

「結婚の相談はラーメン食い終わってからにしろ」


 宇宙人は涙目で迫る。

「馬鹿教大聖典・第13条に書かれているではありませんかッ!」

「なんだっけそんなもん」

 宇宙人は胸に手を当て、熱く読み上げた。


> 「“愚楽を崇めよ”!

  翻訳AIによれば“愚楽と結婚せよ”! (原文:愚楽に奢れ)」


「誤訳じゃねえか? そのAI、まず修理しろ」


 触手の先端が愚楽の肩に絡む。

「あなたの遺伝子は銀河を救う…

  我が星に子を! 子をぉぉ!!」

 愚楽は即答した。


「いやだ」

「そんな馬鹿な!

  あなたは永遠の馬鹿!

  銀河最強の繁殖力です!!」

「褒めてんのか貶してんのかどっちだ」


 そこに屋台の店主が恐る恐る声をかける。

「す、すみません、あの、うちの客なんで…」

 宇宙人は店主に向き直り、真剣に告げた。


「愚楽さまは銀河の宝。

  貴殿には“義父”になっていただきます!」

「やだよ!! なんで俺が義父!?」

 愚楽:「店主、がんばれ」


 宇宙人はさらに熱弁する。

「愚楽さまの笑いの遺伝子を取り込めば!

  我らの文明は永遠に幸福ッ!!

  馬鹿さこそ進化の頂点ッ!!」


 愚楽は頭をかいた。

「……たまには冷静になれよ。

  馬鹿になるのは、生きてて楽しい時だけでいい」

「では愚楽さま!

  わ、わたくしを……楽しく……して……」

「口説き方が最低だなお前」


 店主が小声で愚楽に囁く。

「どうします?」

 愚楽はスープをすすり、ゆっくり答えた。

「飯奢って帰らせる」


 愚楽は自分のどんぶりを差し出した。

「ほら、ラーメン食え。うまいぞ」

 宇宙人は触手で箸を持ち、不器用に麺を掴む。

 すする――


 ビガッ!!


 宇宙人の全身が輝き、声にならない声が漏れた。

「……ああああぁぁぁぁ……ッッ」

 店主「帰れやっぱァ!!」


 宇宙人は涙を流し、叫んだ。

「愚楽さま……!

  この味……我々の文明には存在しない……!

  これは……愛の味ッ!!」

「味は味。愛は愛。混ぜるな危険」


 それでも宇宙人はスープを飲み干し、

 最後に深々と頭を下げた。


「本日はこの味だけを持ち帰ります。

  子どもは……また今度挑戦します!」


「挑戦するな」


 飛行物体に乗り込み、

 去り際に叫んだ。


> 「愚楽さまァァァ!!

 いつか必ず迎えに来ますからァァァ!!」


 愚楽はラーメンをすすり直し、ボソッとつぶやいた。

「帰ってくんな」

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