第一章25:戦闘服

雛城が黎輝王国によって壊滅させられ、詩钦と彼方が思わぬ形で黒幕を倒し、その後ひそかに雛城を修復した翌日のこと。


  人々は自分たちの物資や財産が一対一で完全に元通りになっていることに心底安堵していた。破壊された木々まで復元され、まるで何事もなかったかのようだった。


  もちろん、こんな神跡めいた出来事を前に、普通の人々が抱く感情は安堵だけではない。彼らの心には、ある「種」が深く埋め込まれていた。


  その疑念の種は、常に安全への警戒と命を大切にする気持ちを呼び覚まし、そして毎秒のように、第三者が雛城を守っているのだと告げてくる。しかもこの神跡は、すでに二度目である。


  そのため、冒険者ギルド全体がこの疑念の種によって沸き立っていた。初回とは比にならない熱量で議論が交わされ、二度目の神跡が示す意味は大きい──もはや偶然や奇跡ではなく、「雛城を守る者」がいるとしか思えないのだ。


  子どもたちの間では、この謎の存在を「勇者」と呼ぶようにさえなっていた。もちろん正式呼称ではなく、あくまであだ名に過ぎないが。


  冒険者A:「なあ、お前ら思わねぇ?その伝説の勇者って、案外このギルドの中に潜んでるんじゃねぇか?しかも冒険者として……」


  冒険者B:「あり得ねぇよ!うちのギルドにそんな強者なんていねぇし、冒険者なら登録のとき魔力測定があるだろ。勇者様がそこを誤魔化せるかよ?」


  冒険者A:「そこだよ。測定のとき、わざと魔力を抑えたらどうだ?」


  冒険者C:「いやいや、俺は逆に思うぜ。ああいう身元を隠す救世の勇者ってのは、十中八九、冒険者じゃねぇ!」


  冒険者B:「なんでだよ?」


  冒険者C:「簡単だろ。面倒ごとが嫌いで、群衆の前で目立ちたくないんだよ。だからこっそり助ける。そういう奴ほど日常じゃ無気力なんだって!」


  冒険者A:「はっ、勝手な決めつけすんなよ!神みたいな存在を怠け者扱いとか失礼すぎるわ!」


  彼方はちょうど近くのソファに座っていた:「……」


  詩钦はため息をつき、依頼を吟味している千层を見つめた。


  彼方は自嘲するように呟いた:「残念ながら、怠惰にはずっと憧れてるんだよね……」


  詩钦が急に尋ねる:「ねえ……覚えてる?あなたの“夢”って何だったっけ?」


  彼方は姿勢を正した:「え?ええと……仲間と一緒に暮らす?互いに助け合うってやつ?」


  詩钦:「違うよ。他にも言ってた。……独占欲と所有欲を満たしたいって。」


  彼方は困惑して頷く:「んん?」


  詩钦:「だからね、思ったの。お金貯めて、家をもっと大きくしようよ!」


  彼方:「つまり……」


  詩钦:「庭もあって、U字型の大きな宅邸で、階層もいっぱいあって……想像しただけでいい気分でしょ?」


  彼方:「わかる!でも、資金が……」


  詩钦:「……よし!思いついた!この計画は帰ってから話そう!」


  彼方:「え?あ、うん?」


  そこへ千层が駆け寄ってきた:「彼方!詩钦!見て見て!この依頼よくない?」


  そして三人は夕方まで依頼をこなしたが、報酬は雀の涙だった。


  ……


  日が沈み、夜が訪れた頃。

  永碎玻璃の宅邸──つまり千层の家──の一室に、三人が集まっていた。


  風呂上がりの千层:「詩钦……彼方……どうして私の部屋に……」


  詩钦:「待ってたの。お金を稼ぐ計画を話したくて。家を広げたいから。」


  千层は興味津々:「うんうん!教えて!」


  詩钦:「お金を“もらう”の。悪人から。ただの窃盗じゃなくて、悪事の代償さ。叩きのめして自首させて、更生させる。そのついでに謝礼をいただく……これって報酬だよね?」


  千层は絶句した:「えっ、それ……理屈が……いや、正当化……?」


  詩钦:「NONONO、ただの取り立てじゃないよ。交渉もするし。それに私たち、もうマスクとコートがあるから正体バレない。ちゃんと話せば向こうも納得してくれるよ。」


  彼方:「悪くないかも……」


  千层:「ほ、本当に大丈夫なの……捕まらない……?」


  詩钦:「試してみようよ?」


  千层の思考が追いつく前に、彼方は外套とマスクを手渡した。


  千层はマスクを見つめる。顔全体を覆うタイプで、左右にはコウモリの羽の模様。詩钦のは星模様。そして彼方のは──真っ白で無装飾。


  彼方:「なんで俺だけ模様がないの?」


  詩钦:「隊長だから。特別仕様。」


  千层:「詩钦……なんでどのマスクにも目の穴がないの……?見えないよ……?」


  詩钦:「その方がかっこいいから。」


  さらに、千层は“長袍”と聞いていたものを取り出す。だがそれは黒い戦闘用ボディースーツで、腰や要所がうっすら紫に発光していた。


  千层:「詩钦……これは長袍じゃない……いいけど……夜に光ったら目立つだけだよね!?なんで発光させたの!?」


  詩钦:「ふふ、マスクの模様も光るよ。」


  千层:「なんで!?」


  彼方:「かっこいいから!」


  詩钦:「でしょでしょ!こだわったんだよ!」


  千层はただ見開くしかなかった:「あ……」


  彼方:「でも、なんで俺だけマントあるの?二人は?」


  詩钦:「隊長だから。もっと特別。」


  千层は彼方の戦闘服を見て素直に賞賛:「彼方、似合ってる!」


  詩钦:「あ、言っておくけど、この戦闘服は壊れないよ。私の力で作ったから。私が倒れない限り維持される。」


  彼方:「……今さらっと立てちゃいけないフラグ立てたよね……」


  千层:「詩钦大人なら絶対倒れたりしません!」


  彼方は未来が不安になった:「……」

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