第一章08:狂気の代償

冒険者とは何か――それは地下迷宮へ挑み、魔物と戦い、人類が踏み入れることのできる領域を広げる者である。

  彼らは新たな装備や武器、未知の素材を発見し、研究し、利用するために命を懸ける。


  たとえば「魔石」。

  普通の人々は、それをただのエネルギー源だと思っている。だが実際には、魔石は装備の製造や魔薬の研究、さらには人体の免疫開発にまで用いられる重要な素材だ。

  そして、より高品質な魔石ほど採掘が困難であり、その分、文明の発展に大きく貢献する。

  ――魔石は、地下迷宮でしか手に入らない。


  ゆえに、迷宮の開拓者であり、魔石の採掘者でもある冒険者は、人々にとって尊敬の対象であり、勇気の象徴だった。


  もちろん、冒険者にも階級がある。

  最下位のE級から、最上位のS級まで。

  E級は安全な迷宮での採掘や救助が主な仕事。

  S級ともなれば、常識を超える力を持つ者ばかりで、冒険者ギルドの象徴として扱われる。


  では、どうすれば昇級できるのか。

  方法は単純明快。


  一つ、魔物を討伐し、その証拠を提出すること。数や強さが基準となる。

  二つ、地道に活動ポイントを積み上げ、上限に達したら昇格申請を出すこと。安全だが、上位には届かない。

  三つ、S級冒険者から推薦を受けること。近道ではあるが、そもそも推薦されるような者は実力も運も備えている。


  他にも細かい方法はあるが、大体はこの三つに集約される。


  そして、今の彼方と诗钦が選んでいるのは――二番目の道。

  最も地味で、最も安全で、最も退屈な方法。

  彼らはひたすら魔石を掘り続け、活動ポイントを稼いでいた。


  工頭から大きな袋とツルハシを受け取り、指示はただ一つ。

  「できる限りたくさん掘れ。」


  彼方:「诗钦、ここ人多すぎない? もっと奥に行こうよ。」


  诗钦は小さくため息をついて頷いた。確かに人が多すぎた。数分数えても終わらないほどに。


  彼らはさらに奥へ進んだ。

  人影の消えるまで、ただひたすらに。


  そして、ようやく人のいない場所にたどり着いたとき――そこには巨大な門がそびえていた。


  それは荘厳で美しく、彼方の十倍以上はあろうかという高さを誇っていた。

  (この世界には巨人族でもいるのか?)と彼方は思わず呟く。


  彼方:「あ、看板がある。」


  見ると、それは注意書きのような看板だった。

  「危険、立入禁止」と刻まれている。


  彼方:「危険、立入禁止……」


  诗钦:「入ってみよう!」


  そう言って歩き出した诗钦の手を、彼方は慌てて掴んだ。


  诗钦:「ん?」


  彼方:「本当に危ないかもしれないよ。ここはやめとこう。」


  彼方(心の声):(地球で見た異世界アニメじゃ、こういう警告無視して入る奴は大体ひどい目に遭うんだよな……。)


  彼方(心の声):(絶対、これが“フラグ”だ。調子に乗ったキャラが死ぬ展開だ!)


  そして、彼は真剣な表情で诗钦を見る。


  彼方:「诗钦、やめよう。ここは掘って帰るだけで十分だよ!」


  沈黙する诗钦:「……」


  思考する诗钦:「あら? 未来が見えるの? それとも、あなた今、輪廻の中にでもいるの?」


  彼方:「いや、どっちでもないけど。」


  沈黙する诗钦:「……」


  ……


  結局、二人は大人しく門の前で採掘を始めた。


  ただし、诗钦の採掘方法は少し違った。

  彼女が軽く地面を踏むと、岩の中から魔石が勝手に飛び出し、彼女の袋に吸い込まれていった。


  彼方:(……物理法則とは)


  そのとき、強風が吹き抜けた。

  誰も触っていないのに、巨大な門が「ギィィィ……」と音を立てて開き始めた。


  『!!!!!!』


  突風が二人を飲み込もうとする。門の奥は闇に沈み、そこには――無数の巨大な歯が並んでいた。


  彼方:「こ、これ……門じゃなくて魔物か!? しかもドア型の魔物!?」


  『ゴゴゴ……ッ』


  吸引の力はすさまじく、彼方の腕が外れそうになる。


  彼方:(やばい! まさか、これが“報い”展開かよ!)


  『ゴゴゴ……ッ!』


  詩钦の身体も吸い込まれそうになり、必死に抗うが、ついに大口の中へ――


  彼方:「诗钦!!!」


  『……』


  バタン。

  門のような魔物は口を閉ざし、満足そうに跳ねながら闇の奥へと消えていった。


  彼方:「……嘘だろ……」


  しかし、いつまで経っても中から何の反応もない。

  彼方は絶望の表情でその場に立ち尽くした。


  ……五分経過。


  彼方はただ、静かに門型の魔物を見つめ続けた。

  一方は詠唱の準備を、もう一方は再登場を待っている。


  しかし、沈黙だけが続く。


  彼方:「まさか……本当に……?」


  彼方:「いや、そんなはずは……この作品、日常ファンタジーじゃなかったのか?」


  ……さらに数分後。


  門型魔物:「……」

  彼方:「……」


  彼方(心の声):(終わった……。生存の可能性ゼロだ。俺は何を待ってるんだ? 助けを呼んでも間に合わない……)


  彼方は絶望のまま、その場にしゃがみ込み、诗钦のことを思い出す。


  『诗钦、それはさすがにやりすぎだって……』

  『残酷だよ……』

『早く戻ってきてよ……』


  そんな取り留めのない記憶ばかりが浮かぶ。

  いや、違う――もしかしたら。


  彼方:「……殺せ。」


  その一言を呟いた瞬間――


  『パチン!』


  『ドガァァァァァン!!!!』


  『ズガン!!!!!!』


  『グオオオオオオオ!!!!!!』


  轟音とともに光が爆ぜ、門型魔物は一瞬で粉砕された。

  血飛沫の中に残ったのは、一粒の高級魔珠だけ。


  そして――


  詩钦は、無傷のまま、光の中から現れた。


  詩钦:「……」

  彼方:「……」


  詩钦:「ねえ、どうしてもっと早く言ってくれなかったの?」


  彼方:「……無事でよかったよ……ほんとに。」

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