第一章04:仲間入り

少女は、連続して彼方へ巨大な隕石を叩きつけ、さらに誇張された強度の神形の斬撃を放ったあと、ようやく動きを止めた。丸三分間、そのまま沈黙していた。


  彼女は静かに天空に立ち、彼方は峡谷の中から必死に這い上がっていた。だが、あの鋭い岩だらけの場所を這い出ても、彼の身体には一滴の血も流れていなかった。


  彼方:「はぁ……はぁ……ようやく出られた……」


  ようやく光を浴びた彼方は、沈黙している少女の視線に気づき、同じように見つめ返した。二人はそのまま、一分間も見つめ合った。


  彼方(……フリーズしてる? そうか、機械遺跡の中で生成された存在なんだし、そういうこともあるかもな)


  彼方(でも、これはチャンスだ! 今のうちに逃げ出して、雛城冒険者ギルドにこの惨状を報告しなきゃ! そうすれば、あののんびりしたS級冒険者どもも急かされて、この化け物を討伐しに来るだろう!)


  計画は完璧。あとは実行するだけ。


  彼方(今だ、動いてないうちに逃げる!)


  そう思い、彼は身を翻して走り出そうとした――だが、その瞬間、頭が一気に霞んだ。


  次の瞬間、彼は宇宙空間に立っていた。足元には巨大な掌が広がり、その持ち主はさきほどの怪物のような少女。だが今の彼女の両目は真紅に染まり、体中を血のような赤が流れていた。かつての白金の神性などなく、今はまるで魔性そのものだった。


  彼方(な、なんだここは!? どうしてこんな状況に!? さっきフリーズしてたんじゃなかったのか!?)


  [※注:少女は機械ではない。これは彼方の誤解である。]


  その直後、少女は静かに目を閉じ、掌を強く閉じた。


  『ドン!!!!!!』


  その瞬間、掌の中から爆発的な波動が吹き荒れた。掌の中の彼方は、跡形もなく消え去ったに違いない。


  やがて宇宙空間そのものが裂け、世界そのものが破断するかのような閃光が走った。少女の掌の中から、宇宙的な爆発が広がっていった――。


  ……


  彼方:「うわっ!!!」


  彼は飛び起きた。見慣れた遺跡の中。宇宙も爆発も、すべて夢のように消えていた。


  彼方(今の……夢? いや、あまりにもリアルだった……まさか幻術か?)


  目を凝らすと、少女は先ほどとまったく同じ姿勢で、空中に浮かんでいた。微動だにせず、髪一本も揺れていない。まるで機械人形のようだ。


  少女:「……」


  彼方(……やっぱり夢だったのか? 本当に動いてない……)


  少女:「あなた、何者?」


  突然、少女が口を開いた。初めての直接のやりとりだった。


  彼方は驚きながらも、どう答えればいいのか分からない。


  彼方:「えっと……通りすがり……かな?」


  少女:「……」


  彼女は再び黙り込んだ。しかし今度は、じっと彼方の全身を観察しているのが分かった。


  少女:「ここはどんな世界? どうしてあなたは傷つかないの? どの仙明に祝福された者?」


  彼方:「……は? せ、仙明? 祝福者? 何の話?」


  彼方の頭の中は疑問符だらけだった。


  彼方:「俺、世界のことも、仙明って言葉も知らないし、祝福とかも聞いたことないんだけど……」


  少女:「……」


  『!!!!』


  突如、少女は一言も発せず、瞬間移動のように彼方の目前へ現れた。至近距離で見つめられ、彼は思わず息をのむ。


  少女の顔は、まるで人形のように整っていて、肌は透き通るほど白く、毛穴ひとつ見えない。完璧に整った美しさだった。


  彼方(ちょっ、俺、何考えてんだ!)


  少女:「あなたの名前は?」


  彼方:「常夜彼方。」


  少女は小さくうなずき、視線をそらした。


  少女:「この世界、そしてそこにあるもの。あなたにとってはすべてが未知のもの?」


  彼方:「……たぶん、そう、だね。」


  少女:「あなた、一人?」


  彼方:「うん……」


  少女は、静かに手を差し出した。


  少女:「私も同じ。」


  彼方:「え? 同じって、何が?」


  少女:「私も地球から来た。あなたも、そうでしょう?」


  彼方:「……!」


  彼方:「まさか、君も転生者か!?」


  少女:「ええ。もっとも、ここは二つ目の世界。最初の世界は呪われた仮想の世界だった。私はそこで力を積み上げ、ようやく脱出できたの。」


  彼方:「よく分からないけど……つまり、すごい人ってことか。」


  少女:「もう一度確認する。あなたは一人で来たのね? 同行者はいない?」


  彼方:「いないよ。」


  少女:「なら、お願い。私をあなたの旅に同行させて。途中でいくつか聞きたいこともあるし、この世界を理解するには、仲間がいたほうが早い。」


  彼方:「え、あ、まぁ……別にいいけど……」


  彼方(いや、待て……彼女を巻き込むのは危険かも……でも、同じ地球出身の転生者だし、しかも強い。性格も悪くない。仲間にできれば、最高の盾であり矛になる!)


  そう思いながら、彼は手を伸ばし、少女の手をしっかりと握った。


  彼方:「よし。俺の名は――」


  少女:「彼方、でしょう? もう言ったわ。」


  彼方:「はは……」


  少女:「私の名は柯绯詩钦。目標は――仙明を討つこと。」


  彼方:「なるほど、詩钦……って、仙明って?」


  詩钦:「神のこと。」


  彼方(……新しい仲間の目標、壮大すぎないか? 俺の『平穏な生活』なんて、比べ物にならないほどでかいぞ……)


  ……


  そのとき、倒れていた冒険者たちが少しずつ目を覚まし始めた。


  彼方:「そういえば、君は俺と同じ転生者だけど……結構な人数を倒したよな? 一応、自首したほうが……」


  詩钦:「気絶させただけ。傷はない。」


  彼方:「でも、あの研究者たちは……」


  詩钦の表情が険しくなる。


  詩钦:「あいつらは、あの忌まわしい仮想世界を作り出した連中。私の家族も、仲間も、住民さえも……みんな、あの中で殺されたのよ。」


  怒りと憎悪のこもった声に、彼方はそれ以上何も言えなかった。


  彼方:「……じゃあ、とりあえず一緒に雛城へ戻ろう。俺、冒険者登録したいんだ。」


  詩钦:「私も行く。あの世界では、冒険者になれなかったから。」


  彼方(……まさか本当に一緒に来るとはな。けど、彼女の言う“仮想世界”って、どんな場所だったんだろう……?)

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